Bing Image Creator の画像生成が「100%内製」になった、と Microsoft は書いています。ただ、何を外したのかは書かれていません。名指しされているのは PowerPoint における GPT-Image-2 だけです。置き換えた相手を伏せたまま、コスト84%減という数字が並ぶ。この非対称が引っかかります。
Microsoft AIは2026年7月23日、MAI-Image-2.5-ProとMAI-Voice-2-Flashのパブリックプレビューを開始した。前者の価格はテキスト入力が100万トークンあたり5ドル、画像入力が同8ドル、画像出力が同106ドル。後者はMAI-Voice-2比で2倍高速かつ32%低価格で、100万文字あたり15ドルである。
MAI-Image-2.5はBing Image Creatorの標準モデルとなり、PowerPointではGPT-Image-2比でGPUコストを最大84%削減、OneDriveでは保存率を26%高め、P95レイテンシを約25%短縮した。MAI-Voice-2-FlashはDynamics 365 Contact Centerに導入されてGPUコストを最大89%削減し、Azure Voice Liveにも統合された。MAI-Transcribe-1.5は、17万人の医療従事者が利用するDragon Copilotの多言語ワークフローに採用され、58言語に対応した。
From:
Introducing MAI-Image-2.5-Pro and MAI-Voice-2-Flash
【参考動画】
Microsoft 公式チャンネルが公開した Build 2026 の抜粋。MAIモデル7種の発表と、第三者モデルからの蒸留を行わない理由についての説明が、Mustafa Suleyman 氏本人の言葉で収録されている。
【編集部解説】
今回の発表でもっとも重要なのは、2つの新モデルそのものよりも、それらが置かれた文脈のほうです。
Bing Image Creator のデフォルトが「100%内製」になった、という一文。ここが今回いちばんの読みどころです。ただし、何を置き換えたのかは発表文からは特定できません。Microsoft が名指しで比較しているのは PowerPoint における GPT-Image-2 のみ。Bing については、2026年4月の時点で MAI-Image-2 の段階的な展開がすでに進んでいたことが公表されており、直前のデフォルトが OpenAI のモデルだったとは限りません。Bing Image Creator が2023年に DALL·E、2025年に GPT-4o を採用してきた経緯を踏まえれば、外部モデルへの依存が下がったこと自体は確かです。ただ、その最後の一押しが誰に向いたのかは、書かれていません。
背景には、2026年4月27日の契約見直しがあります。Microsoft と OpenAI は提携内容を改め、Azure の独占的な位置づけを解きました。OpenAI は他のクラウドでも製品を提供できるようになり、Microsoft は知的財産のライセンスを2032年まで保持するものの、それはもはや排他的なものではありません。ただし Microsoft は引き続き主要なクラウドパートナーであり、OpenAI 製品が Azure に先行投入される原則は残っています。今回の発表は、その新しい関係が始まって約3か月後に出てきた、契約変更後で最初のまとまった導入実績報告にあたります。
価格表を並べると、戦略はさらに立体的に見えてくる
画像出力トークン100万あたりで、MAI-Image-2.5-Flash が19.50ドル、標準版が47ドル、そして今回の Pro が106ドル。Flash と Pro のあいだには約5.4倍、標準版と Pro でも約2.3倍の開きがあります。同じモデル名のなかに、用途別の階段が用意されたことになります。
外部の配信事業者は、MAI-Image-2.5 の画像1枚を1,024出力トークンとして課金する換算を公開しています。これを仮に Pro にも当てはめると、1枚あたりおよそ0.11ドル、1ドル=150円で16円ほどという参考値になります。ただしこれは Microsoft Foundry での実際の請求額ではありません。Microsoft の公式文書は最大1,048,576ピクセルという解像度の上限を示すのみで、1枚あたりの課金トークン数は公表されていません。
比較の材料として、OpenAI の GPT-Image-2 は画像出力が100万トークンあたり30ドルです。モデルごとにトークンの数え方が異なるため単純比較はできませんが、Microsoft が価格の安さを前面に出す一本槍から、品質・速度・コストの階層をそろえる方向へ動いたことは読み取れるでしょう。
一方で、記事に並ぶ効率の数字は、いずれも Microsoft 自身による社内評価です。GPUコストの84%減も89%減も、OneDrive の保存率26%向上も、第三者機関が検証した結果ではありません。数字そのものを疑う理由はありませんが、測定条件が公開されていない以上、自社ワークロードでの実測とは別のものとして受け取るのが妥当だと考えます。
音声側の変化は、派手さこそないものの影響が広い
MAI-Voice-2 が100万文字あたり22ドル、今回の Flash が15ドルですから、32%安という説明は計算どおりです。そこに「2倍高速」が重なる。1日に数百万件の応答を回すコールセンターでは、この2つが導入判断の主要な材料になります。もっとも実際には、精度、可用性、規制対応、既存システムとの統合費用も同時に問われます。GPUコストを最大89%削減したと明記されているのは Dynamics 365 Contact Center についてであり、T-Mobile や EasyJet の名が挙がっているのは、あくまでその Contact Center を使う顧客の例です。両社が MAI-Voice-2-Flash を有効にしているとまでは書かれていません。同じ Flash は Azure Voice Live にも統合されましたが、こちらにコスト削減率の言及はありません。
医療分野の記述は、垂直統合がどこまで進んだかを示す例として読めます。Dragon Copilot は、Microsoft が2022年に197億ドルで買収した Nuance 由来の製品群を、2025年3月に統合製品として作り直したものです。その多言語ワークフローを担う音声認識が、58言語にわたって自社モデルへ置き換わりました。買収した資産の「中身」に、自前の部品を差し込み始めたということになります。
モデルの名前が、少しずつ消えていく
Bing Image Creator を使う人が、生成しているモデルの世代交代に気づく機会はほとんどありません。PowerPoint で画像を差し替える人も同じでしょう。モデルは製品の内側に沈み、ユーザーの目に触れなくなっていく。「powered by MAI」という言い方は、その状態を肯定的に表現したものだと解釈できます。
そして Microsoft が繰り返し強調する「第三者モデルからの蒸留を行っていない」「追跡可能なデータで学習した」という主張は、性能の話ではなく、調達の話です。学習データの来歴を説明できるかどうかは、大企業や公的機関が AI を導入する際の審査項目になりつつあります。ベンチマークの順位よりも、法務部門を通過できるかどうかが選定を左右する。少なくとも私は、そういう場面が増えていくと見ています。
最後に、日本から使う際の注意点をひとつ。MAI-Voice-2 系の対応言語について、Microsoft の記載は一致していません。Foundry の MAI-Voice-2 のカタログには日本語が含まれる一方、MAI-Voice-2-Flash のカタログと Microsoft Learn の公開音声一覧には日本語が見当たりません。日本語の音声エージェントを検討するなら、実際にデプロイするモデルと音声名の単位で、最新ドキュメントを確認してから設計に入ることをおすすめします。
【関連記事】
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MAI-Image-2-Efficient 正式発表|Microsoft、画像生成AIを2モデル体制へ—コスト41%削減の意味
MAI-Image-2の効率版が登場した2026年4月の記事。2モデル体制からProを加えた3層構成への移行が読み取れる。
ChatGPT Images 2発表—OpenAI「実務特化」の新画像モデル
本記事で価格を比較したGPT-Image-2の発表記事。2026年4月にOpenAIが実務用途へ舵を切った経緯をまとめている。
【編集部後記】
置き換えられた側の名前が出てこないのは、Microsoft が伏せたからというより、そもそも知る手段がないからでもあります。Bing Image Creator の画面に、モデル名はどこにも表示されません。
4月の資料まで遡ると、Bing と PowerPoint への MAI-Image-2 の展開はその時点ですでに始まっていたと書かれています。置き換えは何か月も前から静かに進み、完了した日だけが発表されました。Bing の既定が最後に外部モデルだったのは、いつまでだったのでしょうか。
【用語解説】
MAI(Microsoft AI)
Microsoft が社内で開発するモデル群の総称であり、開発チームの呼称でもある。画像、音声、文字起こし、推論、コーディングの各領域にモデルを持ち、製品ごとに使い分ける「ファミリー」として設計されている。
パブリックプレビュー
正式提供(GA)の前段階として、希望する開発者が実際に試せる公開状態を指す。Microsoft はサービスレベル契約の対象外であり、本番ワークロードでの利用は推奨しないと明記している。
画像出力トークン
画像生成の課金単位。生成された画像データを一定の単位に区切って数えたもので、100万トークンあたりの単価で提示される。1枚あたりの固定価格ではないため実費は生成内容によって変わるが、MAIの画像モデルについて解像度ごとのトークン算出式は公開されていない。
蒸留(ディスティレーション)
既存の高性能モデルの出力を教師データとして、別のモデルを学習させる手法。学習コストを抑えられる場合がある一方、教師モデルの利用条件や学習データの出所を説明しにくくなるとの指摘がある。手法そのものが必ず不透明性を生むわけではない。
学習データの来歴(データリネージ)
モデルの学習に使われたデータが、どこから、どのような権利関係で取得されたかを追跡できる状態を指す。企業や公的機関がAIを導入する際の審査項目として重視されつつある。
P95レイテンシ
応答時間の95パーセンタイル値。リクエストの95%がこの時間内に完了することを意味する。平均値では見えない「遅い側の体感」を測る指標として、実運用の品質評価に用いられる。
保存率(save rate)
本記事では、編集機能で生成された結果をユーザーが破棄せず保存した割合を指す。Microsoft は今回の発表で、算出式や測定期間、対象操作を定義していない。
音声エージェント
音声で対話し、問い合わせ対応や予約処理などを自律的に進めるAIシステム。応答の遅延がそのまま会話の不自然さにつながるため、低レイテンシが設計上の重要な要件となる。
Azure Voice Live
音声でのやり取りに応答する「speech-to-speech」型のエージェントを、スケーラブルに構築するためのMicrosoftのサービス。今回 MAI-Voice-2-Flash が統合された。
Bing Image Creator
Microsoft が Bing 上で提供する画像生成サービス。2023年に DALL·E、2025年に GPT-4o を採用してきた経緯があり、今回 MAI-Image-2.5 が生成から編集までを担う既定モデルとなった。
GPT-Image-2
OpenAI が2026年4月21日に公開した画像生成モデル。Microsoft は PowerPoint におけるGPUコスト削減率の比較対象として、このモデルを名指ししている。
Nuance Communications
音声認識の老舗企業で、医療向け音声入力「Dragon」シリーズを展開していた。Microsoft が2022年3月に197億ドルで買収を完了し、その資産は現在 Dragon Copilot に統合されている。
【参考リンク】
Microsoft AI(外部)
MAIモデル群の公式サイト。各モデルの仕様と価格、発表ブログが集約されており、今回の発表原文もこのサイト内に掲載されている。
MAI-Image-2.5 モデルページ(外部)
画像生成・編集モデルの公式ページ。生成サンプルと性能指標、精密編集の対応範囲を確認でき、Proとの違いを把握する起点になる。
MAI-Voice-2 モデルページ(外部)
音声合成モデルの公式ページ。100万文字22ドルという価格と対応言語の一覧が掲載され、感情別の音声サンプルも試聴できる。
Microsoft Foundry モデルカタログ「MAI-Voice-2」(外部)
開発者向けのモデル説明ページ。対応言語の記述に日本語が含まれており、Flash側のカタログとの差異を確認できる。
Microsoft Foundry モデルカタログ「MAI-Voice-2-Flash」(外部)
今回発表されたFlashのカタログページ。対応言語の記載に日本語が見当たらず、通常版との違いに注意が必要となる。
Microsoft Foundry モデルカタログ(MAI一覧)(外部)
MAIモデルをデプロイするための開発者向けカタログ。今回のProとFlashもここから利用申請でき、価格体系も併せて確認できる。
MAI Playground(外部)
各MAIモデルをブラウザ上で試せる実験環境。導入検討の前に、実際の生成品質や応答速度を自分の手で確かめる用途に適している。
Microsoft Learn: Azure Speech の MAI ボイス(外部)
音声モデルの技術ドキュメント。公開されている音声名とロケールの一覧があり、日本語対応を確認する最終的な参照先となる。
Microsoft Learn: Foundry でのMAI画像モデル利用(外部)
MAI画像モデルのデプロイ手順とAPI仕様。最大1,048,576ピクセルという解像度上限など、課金に関わる制約が記載されている。
Microsoft Dragon Copilot(外部)
医療現場向け臨床文書作成AIの製品ページ。今回MAI-Transcribe-1.5が組み込まれた対象で、機能範囲と対応環境を確認できる。
【参考記事】
MAI-Image-2.5 launches at No. 2 for image editing on Arena(外部)
2026年6月の発表。標準版47ドル、Flash19.50ドルという画像出力価格と、Arena画像編集部門2位の記録が示されている。
Announcing 3 new world class MAI models, available in Foundry(外部)
2026年4月2日の発表。旧MAI-Image-2が画像出力33ドルであること、BingとPowerPointで段階展開が進行中だったことを記載。
Pricing|OpenAI API(外部)
OpenAIの公式料金ページ。gpt-image-2は画像出力が100万トークンあたり30ドルで、Proとの価格比較の一次情報となる。
The next phase of the Microsoft OpenAI partnership(外部)
2026年4月27日のMicrosoft公式発表。Azure独占の解消と、2032年まで非排他的に維持される知的財産ライセンスを説明している。
Bing Image Creator gets GPT-4o(外部)
2025年8月のBing公式ブログ。Bing Image CreatorがOpenAIのGPT-4oを採用した経緯を伝えており、内製化前の構成がわかる。
Building a hill-climbing machine: Launching seven new MAI models(外部)
MAIモデル7種を一挙発表した記事。クリーンなデータで一から学習し、第三者モデルから蒸留しない開発方針が明文化されている。
Microsoft Dragon Copilot、医療業界初の統合音声AIアシスタント(外部)
2025年3月3日の公式発表。Dragon Medical OneとDAX Copilotの機能を統合し、新製品として作り直した経緯が説明されている。












