KADOKAWA×はてな「RIKU」|創作の主導権を人間に残す伴走型AI

AIが文章を生成できる時代に、創作支援ツールはどこまで書き手の領域へ踏み込むべきでしょうか。次世代小説エディタ「RIKU」は、物語そのものを書かず、設定整理や相談、校正・校閲を通じて、人間が自分の言葉で書き切る過程を支えます。


株式会社はてなと株式会社KADOKAWAは、AIを活用した次世代小説エディタ「RIKU」を共同開発し、2026年7月30日からクローズドβテスト参加者の募集を開始した。

RIKUは小説本文を自動生成するのではなく、物語、キャラクター、世界観の設定整理や、執筆中の相談、完成原稿の校正・校閲・レビュー・感想を提供する。RIKU上で作成・入力した作品は、AIの学習に利用されない。開発にはAIによるプロトタイプ駆動の手法を採用し、正式リリースに向けてサービスを改善する。

From: 文献リンクはてな、KADOKAWAと次世代小説エディタ「RIKU」を共同開発。クローズドβテスト参加ユーザー募集開始

【編集部解説】

RIKUの特徴は、小説本文の生成を中心に置いていないことです。公式発表では、物語を書く主体は利用者本人であり、AIはアイデアの整理、ストーリー・キャラクター・世界観の設定構築、執筆中の相談、完成原稿の校正・校閲、レビュー、感想を担当すると説明されています。

つまりRIKUが減らそうとしているのは、文章を書く作業そのものよりも、書き始める前に考えがまとまらないこと、設定が増えて管理できなくなること、途中で展開に迷うこと、完成後に客観的な意見を得られないことです。執筆前、執筆中、完成後という創作の各段階にAIを配置しながら、最終的な文章は利用者に書かせる設計となっています。

一般的なAI文章作成機能では、指示に応じて文章を生成し、その出力を利用者が修正する使い方もできます。これに対してRIKUは、公式発表の段階から「物語を書かない」と役割を限定しています。この制限からは、短時間で原稿を完成させることよりも、利用者が自分で考え、自分の言葉で書き続けられることを優先する設計思想が読み取れます。

KADOKAWAは、RIKUについて、編集者が作家と向き合う中で積み重ねてきた経験を、より多くの人へ届ける挑戦だと説明しています。一般に編集者が担う企画相談や原稿へのフィードバックの一部を、AIサービスとして提供する試みと考えられます。

この仕組みが特に役立つ可能性があるのは、書きたいアイデアはあるものの、構成方法が分からない人や、相談相手がいないために執筆が止まってしまう人です。クローズドβテストの対象も、小説を書いている方・書いてみたい方(18歳以上)となっています。テスト環境はWindows、Mac、スマートフォン、タブレットに対応し、応募にはGoogleアカウントが必要です。

一方、経験豊富な書き手にとっても、人物設定や世界観を参照できる形で整理する機能、原稿を読み返す前に校正や感想を得る機能には利用価値があります。ただし、AIから得られる助言の質、長編作品の設定をどこまで一貫して管理できるか、作者固有の文体や意図をどの程度理解できるかは、クローズドβテストで確認すべき点です。現時点では、機能の詳細な操作方法や性能評価は公開されていません。

RIKU上で作成・入力した作品は、AIの学習には利用されないと明記されています。未発表の小説や設定を入力する書き手にとって、重要な方針です。

ただし、AI学習への利用と、サービスを提供するためのデータ保存・処理は別の問題です。2026年7月30日時点の公式発表では、使用する基盤モデル、入力内容の保存期間、外部事業者への送信範囲、作品の書き出し方法、正式版の料金、提供開始時期は示されていません。創作物には未公開の設定や原稿が含まれるため、正式提供時には利用規約やプライバシーポリシーを確認する必要があります。

KADOKAWAとはてなは、2016年に公開されたWeb小説サイト「カクヨム」でも共同開発を続けています。カクヨムでは、生成AIの利用状況について「AI本文利用」「AI本文一部利用」「AI補助利用」というタグの使用を推奨しており、作者自身が本文を書き、AIのアイデアや校正を補助的に使った場合は「AI補助利用」の例に含めています。

RIKUの設計は、この「AI補助利用」に近い方向を明確に打ち出しています。ただし、RIKUで作成した作品をカクヨムなどへ投稿する場合に、どの表示が必要になるかは、実際に使用した機能と各投稿先の規則に基づいて利用者が判断する必要があります。RIKUの価値は、AIがどれほど長い文章を書けるかではなく、書き手が創作の主導権を保ったまま、最後まで書き続けられる環境を作れるかによって評価されることになります。

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【編集部後記】

AIが物語を完成させるのではなく、書き手が考え続けるための相棒になるという発想は興味深く感じます。小説や文芸作品が好きな身としては、実際にRIKUを使い、AIと対話しながら設定や構成を深めてみたいです。自分一人では思いつかなかった視点を得ながら、最終的には自分の言葉で一つの作品を完成させてみたいと思いました。

【用語解説】

クローズドβテスト
正式提供前のサービスを、選ばれた利用者に限定して試用してもらうテスト。操作性や不具合、機能への要望などを確認し、正式版の改善に反映する段階。

UGC(User Generated Content)
企業ではなく、一般の利用者が制作・投稿するコンテンツ。小説投稿サイトに掲載される作品、ブログ記事、動画、レビューなどが該当。

校正・校閲
校正は、誤字脱字や表記ゆれ、文法上の誤りなどを確認する作業。校閲は、文章の内容や事実関係、表現の整合性まで確認する作業。

AI補助利用
物語のアイデア整理や資料収集、作者自身が書いた文章の校正など、創作の一部にAIを利用する方法。カクヨムでは、AIが本文の大半を生成する「AI本文利用」と区別されている。

【参考リンク】

RIKU公式サイト(外部)
KADOKAWAとはてなが共同開発する次世代小説エディタ。クローズドβテストの募集情報や、サービスのコンセプトを掲載。

株式会社KADOKAWA(外部)
出版、映像、ゲーム、Webサービスなどを展開する総合エンターテインメント企業。RIKUの正式リリース後の運営を担当。

株式会社はてな(外部)
はてなブログ、はてなブックマーク、Mackerelなどを提供するWebサービス企業。RIKUの共同開発を担当。

カクヨム(外部)
KADOKAWAとはてなが共同開発したWeb小説投稿サイト。作品の投稿、閲覧、コンテスト、作者への収益還元などを提供。

【参考記事】

KADOKAWA×はてなの共同開発による小説を書きたい人のための新サービス「RIKU」を発表。本日よりクローズドβテスト参加者募集を開始|KADOKAWA(外部)
RIKUの目的、機能、対象者、対応環境、クローズドβテストの応募条件を掲載したKADOKAWA側の公式発表。

作品投稿に生成AIを利用している方へ、推奨タグ利用のお願い|カクヨム(外部)
AIが生成した本文の割合や利用方法に応じて、「AI本文利用」「AI本文一部利用」「AI補助利用」を区別する公式案内。

カクヨムの小説投稿ガイドラインを一部変更しました|カクヨム(外部)
2026年5月27日から適用された生成AI利用作品に関するガイドライン変更。投稿時の表示方針を確認できる。

はてな、KADOKAWAと共同開発する「カクヨムネクスト」のティザーサイト公開|はてな(外部)
2016年のカクヨム開始以降、両社が小説投稿・閲覧・収益還元を共同開発してきた経緯を確認できる公式発表。

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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。