Last Updated on 2025-06-04 11:16 by admin
2025年3月に放送された「ツインズひなひま」は、KaKa Creationとフロンティアワークスが制作する、日本初の本格的なAI活用TVアニメ作品である。本編の95%以上のカットで生成AIを「補助ツール」として活用し、最終的に人間のアニメーターが加筆修正を行う「サポーティブAI」という手法を採用している。全1話の短編ながら、アニメ制作におけるAI活用の可能性と課題を探る実験的な作品として注目を集めた。
制作におけるAIの立ち位置について
「補助ツール」としてのAI
①絵コンテからセル素材を生成
②3Dを手描きの質感に変換
③ラフな動画からセル素材を生成
④実写をアニメに変換
上記の手法によって、ほとんどの作画がAIによって行われており、最初のデザイン・ラフと、最後のレタッチに人の手が加えられており、完全にAIに任せっきりの製作ではない。
独自開発のLoRAモデル
特筆すべきは、「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」などで知られる横田拓己氏描き下ろしの手描きイラストに加えて、CGモデルのレンダリング画像を500枚以上の学習データセットとして用意し、特定のキャラクターを記憶させる学習モデル「LoRA」を独自開発したことである。これにより、キャラクターの一貫性を保ちながら、著作権問題もクリアしている。
この作品が示すもの
著作権問題へのクリーンなアプローチ
経済産業省が定めるAI事業者ガイドラインや弁護士によるアドバイスを受け「現在の日本の著作権運用が可能な形」で制作されており、AI活用における法的な配慮の重要性を示している。
技術検証としての価値
AIの活用によって作業工数の削減を目指すという明確な目標設定のもと、実際の制作プロセスを通じて技術的な可能性と限界を検証している。
実用性の証明
短編ながら実際に放送・配信され、長編アニメーション映画のコンペティション部門を持つアジア最大の祭典である「新潟国際アニメーション映画祭」にてプレミア上映されるなど、作品としての完成度を証明している。
今後のクリエイターとAIの付き合い方について
業界の課題解決への可能性
アニメ制作業界が抱える構造的問題に対し、AI活用は一つの解決策となり得る。過酷な労働環境、タイトなスケジュール、手作業に大きく依存する40年以上も変わらない制作プロセス、制作者の高齢化と後継者不足といった課題に対して、AIが補助ツールとして機能することで、制作効率の向上と品質維持の両立が期待される。
サポーティブAIという概念
「AIはあくまでクリエイターの創作活動のための補助ツール」という考えは、今後のAI活用における重要な指針となる。人間の創造性を代替するのではなく、それを支援し、拡張するツールとしてのAI活用が、持続可能なクリエイション環境を構築する鍵となるだろう。
今後の展望
「ツインズひなひま」が示したのは、AIと人間のクリエイターが協働することで、従来不可能だった表現や効率性を実現できる可能性である。ただし、それは決して人間の創造性を軽視するものではなく、むしろクリエイターの能力を最大限に活かすための環境整備として機能することが重要である。
今後のアニメ制作において、AI技術はより洗練され、クリエイターとの協働関係もより成熟していくことが予想される。「ツインズひなひま」は、その第一歩として、技術的な可能性と課題の両面を示した貴重な実証例として評価されるべきだろう。
【参考サイト】
KaKa Creation、約1.6億円の資金調達を完了し、AIを活用した高品質AIアニメ制作事業・プロデュース事業を始動。|PR TIMES(外部サイト)
【編集部後記】
私の主観にはなりますが、おそらくこの作品はハイクオリティアニメという完成を目指したものではありません。
最終的に人の手によってレタッチがなされているとはいえ、「こんなものか」と思った人も少なくないかと思います。中には「ストーリーが物足りない」といった声も見受けられました。
しかし、この作品はAIがどれほど生成できるかという点と、人がどれだけ主体にならないといけないかという点でのデモンストレーションと捉えられるでしょう。そうであれば、人が手を尽くして違和感を拭い去ってしまうと意味がなくなってしまいます。
既存のアニメ制作と比較して、手間や人員を削減しつつ、最低限のクオリティを保つことができれば、このプロジェクトの成功と言えるでしょう。脚本に関しても、「AIが作った」という前提をアニメという媒体に落とし込むために調整されているのだと思われます。
人が描いた絵は「意図した描写」であるのに対し、AIが生成した絵は「意図しない描写」が多く含まれます。例えば、不自然な描写に対して「たまたま」と見過ごしていると、実は物語の伏線だったり。AIの特性を生かすために「異変」というテーマを扱っているのには凝らされた技巧を感じました。含みを持たせることで考察の余地を与え、繰り返し見て確認したくなる点において、1つの作品として非常に楽しむことができました。
たとえ権利的な問題をクリアしたとしても、AIが創作をするにあたっての問題は、「作者の意図を歪めるか」にあると思います。創作者が世界をどう見ていて、どう表現したいのか、それこそが創作の本質であるはずです。それを補助するために使われるAIには大いに価値があるものだと思います。