MiniMax H3がオープンウェイト公開|除外地域にEU・英国・韓国・米国、日本は対象外

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ロサンゼルスの開発者はダウンロードできず、東京の開発者はできる。MiniMaxが8月3日に公開した動画生成モデルH3のライセンスは、EU・英国・韓国・米国を適用地域から外しました。除外の理由として同社が挙げたのは、規制環境の複雑さと、自社が当事者になっている著作権訴訟です。


MiniMaxは2026年8月3日、汎用動画生成モデルMiniMax H3のうちH3-Baseの重みを、条件付きのコミュニティライセンスで公開した。テキスト、画像、動画、音声を統一的に扱い、最大2K解像度で4〜15秒、24 FPS、32 kHzステレオ音声付きの動画を生成する。日本語を含む11言語の会話に対応する。

システムは3モジュールからなり、公開されたのは768pを出力するH3-Baseのみである。H3-Omni-Transformerは33Bパラメータで、Qwen3-VL-32Bの事前学習済み重みをテキストエンコーダーに用いる。重みはFL2VAとRef2VAの2チェックポイントとしてHugging FaceとModelScopeで公開された。

From: 文献リンクOpen General Intelligence: MiniMax H3 Is Now Open Source

【編集部解説】

今回の出来事を「新しい動画モデルが出た」と読むと、いちばん重要な部分を取りこぼします。モデルの発表は7月31日にすでに済んでいました。8月3日に起きたのは、その重みが実際にダウンロード可能になったこと。そして同時に、誰がそれを動かしてよいのかが、地図の上で線引きされたことです。

まず呼称について。MiniMax自身は今回の公開を「オープンソース化」と表現しています。ただしライセンスには地域制限と、他のAIモデルの改善に使うことを禁じる条項があり、利用者や利用分野による差別を認めないOSIの定義には合致しません。本稿では「オープンウェイト」「条件付き公開」と表記します。

H3が掲げるのは、テキスト・画像・動画・音声をひとつの文脈として扱うオムニモーダルという設計思想です。従来は別々の専門モデルに分かれていた処理を、ひとつの事前学習の枠組みにまとめる。その野心の大きさと、配布の慎重さが、今回は同じ日に並んで表に出ました。

MiniMax H3 Community License Agreement(発効日2026年8月2日)は、適用地域を「除外地域を除く全世界」と定義しています。除外地域として指定されたのは、EU、英国、韓国、アメリカ合衆国の4つ。これらの地域では、重みの利用・複製・改変・配布が本ライセンスでは許諾されず、生成物の利用も対象外となります。そして日本は、この除外地域に含まれていません

オープンウェイトが法域で分割されること自体には、前例があります。Metaは2024年のLlama 3.2 Visionから、EU居住の個人とEUに主たる事業所を置く企業をマルチモーダルモデルの利用権付与の対象外とし、この扱いをLlama 4まで引き継いできました。背景には、公開データを使ったAI学習をめぐるEUデータ保護当局との調整と、Meta自身が表明していた規制上の不確実性がありました。

H3が違うのは、除外の対象に米国が入っている点です。世界有数の開発者市場である米国を標準ライセンスの対象から外し、重みだけでなく生成物の利用まで許諾の外側に置いた。しかもその米国こそが、MiniMax自身の係争地でもあります。

理由は同社自身が説明しています。動画生成モデルはテキストやコードのモデルに比べて、複雑で変化の速い規制環境に直面していること。EU AI Actの施行が始まった一方で、動画や肖像に関わる生成物への実務要件がなお流動的であること。米国については、生成動画AIをめぐる著作権訴訟に同社自身が当事者として関与していることを挙げています。

公式発表の本文に除外地域の具体名は書かれておらず、Licenseの節から辿るライセンス本文とQ&Aを開いて初めて見えてくる構造になっています。

係争の輪郭

Disney Enterprisesを筆頭とする12社は2025年9月16日、MiniMaxの名義で事業を行う上海のShanghai Xiyu Jizhi Technology(SXJT)と、シンガポールのNanonobleを、カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に提訴しました(事件番号2:25-cv-08768)。Hailuoが著作物の無断複製で学習され、簡単なプロンプトで著名キャラクターを生成すると主張する内容です。

2026年5月22日、Stanley Blumenfeld Jr.判事はMiniMax側の却下申立てを退け、直接侵害・間接侵害の双方の請求を存続させました(報道により日付表記が分かれますが、裁判所の判断日は5月22日です)。裁判所は、米国特許商標庁への商標登録出願をもって対人管轄の一応の立証があると判断し、キャラクターそのものの著作物性についても原告の主張を認めました。責任の有無を確定した判断ではありませんが、陪審裁判は2027年7月12日に予定されており、審理は長期戦の様相です。

「オープンソース化」の中身は、思ったより薄い

もうひとつ、読み違えやすい点があります。システムはH3-Context-IR、H3-Base、H3-Regenerate-2Kの3モジュールで構成されますが、今回公開されたのは中段のH3-Baseだけです。

前段の指示解釈エンジンも、後段の2K再生成モジュールも非公開のまま、APIとして提供されます。手元で完結する出力は短辺768pが上限で、2Kに引き上げるには公式APIを経由するしかありません。同社はContext-IRが最終品質にとって重要だとして、生成パイプラインへの組み込みか、同等の前処理系の自作を強く推奨しています。H3-Base単体のローカル出力を、公式パイプラインの結果と同一視することはできません。

重みは開く。ただし品質を決める最初と最後の一段は握っておく——これは従来の「オープン/クローズド」の二分法では捉えきれない、新しい配布の形だと私は見ています。ローカルで動く33Bパラメータのモデルは本物ですが、期待値の置きどころは調整が要ります。

なお、このモデルは入力ごとに一部の専門ブロックだけを動かすMoE(混合エキスパート)ではなく、単一のdenseなTransformer経路を用います。ただし推論専用の環境なら、約13BのAdaLN関連パラメータは事前計算とキャッシュで読み込みを省けます。

商用条件も確認が要ります。適用地域内での商用利用は認められますが、H3を用いる商用製品・サービスの年間売上が2000万ドルを超える場合、MiniMaxの事前の書面承認が必要です。製品のUIには「MiniMax H3」を目立つ形で表示する義務があります。また適用地域では、H3やその派生モデル以外のAIモデルを改善する目的で、H3の重み・出力・生成結果を利用することが禁じられています。除外地域での利用は、そもそも標準ライセンスの許諾対象外であり、売上規模とは別に正式ライセンスの申請が必要です。準拠法と専属管轄は香港特別行政区です。

実力の評価は、まだ確定していない

2026年8月5日に確認した時点では、Artificial Analysisの音声付きプールで動画編集1位、テキストから動画2位、画像から動画3位でした。順位は投票の蓄積に応じて再計算されるため、この数字は確認時点のものです。8月3日時点のスナップショットを記録した第三者の検証では、音声あり・なしの全6プールでトップ3に入る一方、首位だった編集プールでも信頼区間が2位のGeminiと重なっていたと報告されています。

測定の中身にも注意が要ります。Artificial Analysisは評価を2K階層で実施したと明記しています。一方、MiniMaxの公式発表によれば2K出力はH3-Regenerate-2Kを経由するもので、このモジュールは非公開でAPIのみの提供です。つまり評価されたのはホスト版パイプラインの出力であり、ダウンロードできるH3-Base単体のローカル生成ではありません。前段のContext-IRがどう構成されていたかも公開されておらず、順位をローカル生成の実力と同一視することはできません。MiniMax自身は数値ベンチマーク表を公開しておらず、技術レポートも「近日公開」の状態です。

価格については、2026年7月末のArtificial AnalysisによるAPI比較で、H3は2K・音声付きで1分7.80ドルとされました。Dreamina Seedance 2.0の1080p(22.45ドル)やKling 3.0の1080p(20.16ドル)を下回り、GoogleのGemini Omni Flash(6.00ドル)には及ばない水準です。ただし解像度も既定設定も揃っておらず、同一条件での総コスト比較ではありません。ローカル運用のコストも含まれていません。(三菱UFJ銀行の2026年8月4日公表仲値1ドル=157.42円で換算すると、約1228円/分)

日本の読者にとっての意味

日本が除外地域に入らなかったことは、今日この瞬間の規制環境を反映した結果であって、恒久的な優位ではありません。MiniMax自身、現在の地域設定は「今はまだ」であって「今後もない」という意味ではないと述べ、規制動向を継続的に見直すとしています。逆に言えば、日本の扱いが将来変わらない保証もない、ということです。

そして「ライセンス上使える」ことと「安心して事業に載せられる」ことは、まだ別の話です。学習データの適法性が米国の法廷で争われているモデルを商用制作に組み込むかどうかは、生成物の権利関係も含めて、各社が自分の基準で判断すべき領域でしょう。

それでも、複数の外部アリーナ評価で上位に入った映像・音声同時生成モデルを、自分のマシンで動かし、内部構造を読み、改造できる状態が日本にある——この機会の窓は、技術に触れたい人にとって現実的な価値を持ちます。窓が開いているうちに何を確かめておくか。それが、いま考える価値のある問いだと思います。

【編集部後記】

4つの除外地域のうち、EU、英国、米国については説明の筋道が見えます。AI Actの施行、それに続く英国の動き、そして進行中の訴訟。ただ韓国だけが、どうにも収まりが悪い。公式のQ&Aも、AI生成コンテンツと動画生成をめぐる規制上の不確実性がある、とだけ書いて先へ進みません。

韓国もAI関連の法整備を進めてきた国ではあります。ただ、それを言うなら他にも該当する国はある。なぜこの4つで線が引かれ、日本が入らなかったのか。判断の基準を知る手がかりをお持ちの方がいたら、教えていただきたいところです。。


【用語解説】

オムニモーダル(omni-modal)
テキスト、画像、動画、音声といった複数の情報形式を、別々の専門モデルに振り分けるのではなく、ひとつのモデルが同じ文脈として扱う設計を指す。H3の場合、参照素材と生成指示の関係を自然言語で記述できる点が特徴となる。

H3-Context-IR / H3-Base / H3-Regenerate-2K
H3システムを構成する3モジュール。Context-IRは入力された素材と指示の関係を解釈して中間表現に変換する前処理系、Baseが実際に768pの映像と音声を生成し、Regenerate-2Kが元の文脈ごと再投入して2Kへ引き上げる。今回公開されたのはBaseのみである。

dense(非MoE)
入力に応じて一部の専門ブロックだけを動かすMoE(混合エキスパート)に対し、単一の経路にすべてのパラメータを置く構成を指す。H3-Omni-Transformerはこのdense構成をとる。ただし推論専用の環境では、約13BのAdaLN関連パラメータを事前計算とキャッシュで代替でき、読み込みを省ける。

オープンウェイト
モデルの重みファイルが配布されている状態を指す。ただしOSI(Open Source Initiative)の定義に沿う「オープンソース」とは限らない。利用地域や商用条件に制限が付くものは、区別してソース・アベイラブル(条件付き公開)と呼ばれることもある。MiniMax H3はこの条件付き公開にあたるが、MiniMax自身は「オープンソース」と表現している。

除外地域(Excluded Territories)
ライセンスの適用範囲から明示的に外された地域を指す契約上の用語。H3では、この指定によりEU・英国・韓国・米国での重みの利用が許諾対象外となっている。

FL2VA / Ref2VA
公開された2種類のチェックポイントの名称。FL2VAはテキストと先頭・最終フレーム画像から生成する用途、Ref2VAは画像・動画・音声を参照素材として与える用途に対応する。

Qwen3-VL-32B
Alibaba Cloudが開発した視覚言語モデル。H3はこの事前学習済み重みをテキストエンコーダーとしてそのまま組み込み、その中間層の出力を生成用トランスフォーマーへ渡す構成をとる。

AdaLN(適応的レイヤー正規化)
生成の条件に応じて正規化の係数を動的に変える仕組み。H3では約13Bパラメータがこの系統のブランチに置かれるが、推論のみの用途なら出力を事前計算してキャッシュできるため、読み込みを省ける。

Elo(イロ・レーティング)
対戦成績から相対的な強さを数値化する手法。動画生成の評価では、同一の指示から作られた2本を匿名で見比べて選ばせた投票結果を換算する。プールごと、時点ごとに値が変動するため、単一の数字を絶対的な性能指標として扱うことはできない。

信頼区間
推定値がどの範囲に収まりそうかを示す幅。二つのモデルの区間が重なっている場合、順位の上下が偶然の範囲内である可能性を否定できない。

却下申立て(motion to dismiss)
被告側が、訴えの内容そのものを審理する前に訴訟を打ち切るよう求める手続き。これが退けられることは、原告の主張に審理に値する筋が通っていると判断されたことを意味し、侵害の成否が確定したわけではない。

対人管轄
裁判所が特定の当事者を裁く権限を持つかどうかの問題。国外企業が被告の場合の争点になりやすい。本件では、米国特許商標庁への商標登録出願が判断の根拠のひとつとなった。

【参考リンク】

Hugging Face|MiniMaxAI/MiniMax-H3(外部)
重みの配布ページ。モデルカード、ライセンス本文、プロンプト作成ガイド、再現用スクリプト、コミュニティ掲示板が置かれている。

Hailuo AI(外部)
H3を一般ユーザー向けに提供するWebアプリ。ローカル環境を用意せずに、2K出力を含む公式パイプラインの生成結果を試すことができる。

MiniMax Platform|API ドキュメント(外部)
開発者向けのAPI仕様書。動画生成、H3-Context-IR、H3-Regenerate-2Kの呼び出し方法を記載している。

Artificial Analysis|Video Leaderboard(外部)
動画生成モデルの比較評価を公開する独立系の分析サイト。匿名の一対比較投票にもとづく順位と、API価格の比較を確認できる。

ModelScope|MiniMax/MiniMax-H3(外部)
中国国内向けの配布ミラー。Hugging Faceと同一の重みが、同じコミュニティライセンスのもとで並行して公開されている。

CourtListener|Disney Enterprises, Inc. v. Minimax(外部)
係争中の訴訟の事件記録を掲載。提出書面の一覧と審理日程が無料で閲覧でき、報道を経ずに経過を自分で追うことができる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング|外国為替相場(外部)
三菱UFJ銀行の公表相場を日次で掲載するページ。本記事における米ドルから日本円への換算は、この相場を基準としている。

【参考記事】

Q&A About License(MiniMax-H3リポジトリ内文書)(外部)
地域制限の理由を同社自身が説明した公式文書。EU AI Actの施行や、米国での著作権訴訟への言及が具体的に含まれている。

Artificial Analysis 公式投稿(X)(外部)
動画編集アリーナで1位という評価と、2K音声付きで1分7.80ドルという主要モデルとの価格比較を公表した公式投稿である。

MiniMax H3 Review: Benchmarks, Specs and Hardware(外部)
8月3日時点のアリーナ順位を記録した検証記事。首位のプールでも信頼区間が競合と重なっていた点にまで触れている。

MiniMax H3 Open Weights Exclude US, EU, UK, and Korea From Local Deployment(外部)
ライセンス条項を条番号のレベルまで整理した記事。除外地域、商用条件、表示義務、蒸留禁止、準拠法の所在にまで及ぶ。

Disney Enterprises, Inc. v. Minimax(Loeb & Loeb)(外部)
2026年5月22日の判断を法律事務所が要約した記事。被告が2法人である構成と、裁判所が却下申立てを退けた理由が読める。

Using Llama Models in the EU(外部)
Llamaのライセンスに置かれた欧州向けの除外条項を、モデルのバージョンごとに整理して解説した技術者による記事である。

Meta Rolls Out Multimodal Llama 3.2 — But Not in Europe(外部)
Llama 3.2のマルチモーダル版が欧州で提供されなかった背景と、その規制上の理由を当時の状況とともに報じた記事である。

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山本 達也
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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