AIが衛星を自律的に運用するには、その判断をどこまで信用し、実行してよいかを確認する仕組みも必要になります。Shield AIとSedaroの軌道上実証から、衛星運用にAIエージェントが入るための条件を見ていきます。
2026年8月24日、Shield AI、Sedaro、NOVI Spaceは、低軌道衛星上で自律AI「Hivemind」を動作させる軌道上実証に成功した。 実衛星1機と仮想衛星5機からなる計6機のコンステレーションを構成し、SedaroのSAFEと連携して撮像、機体状態、バッテリー、指向方向を最適化した。24時間でHivemindが生成しSAFEが承認した189件のコマンドを実行した。
別の実験ではSedaroのEDSとSAFEにより、Iridium通信のコンタクト開始率が8パーセンテージポイント向上した。Hivemindが宇宙空間で運用されたのは今回が初めてとなる。
From: Shield AI and Sedaro Demonstrate Trusted Autonomy Capabilities on NOVI Satellite
【編集部解説】
今回の実証で注目したいのは、単にAIソフトウェアが宇宙空間で動作したことではありません。Hivemindは、撮像タスク、衛星の状態、バッテリー残量、指向方向といった複数の条件を考慮し、実衛星1機と仮想衛星5機からなるコンステレーション全体の運用判断に関与しました。
衛星運用では、観測したい地点へ機体を向ければそれだけで済むわけではありません。電力、通信可能なタイミング、機体状態などを同時に考えながら、限られた衛星資源をどのミッションへ割り当てるかを決める必要があります。今回の実証では、この複数条件を伴うタスク割り当てをHivemindとSedaroのSAFEが扱い、24時間で189件のHivemind生成・SAFE承認済みコマンドを実衛星が実行しました。
Shield AIは現在の衛星コンステレーションについて、通信、地球観測、安全保障を支えている一方、依然として多くが人間中心の手動ワークフローで管理されていると説明しています。今回の仕組みが目指しているのは、人間のオペレーターが個々の衛星に細かな指示を与える方式から、目的や制約を与え、AI側が複数の資産をどう使うか判断する方式への移行です。
Shield AIは、衛星コンステレーションの規模と複雑性が増していくなかで、オペレーターの負担を増やさずに運用規模と応答性を高める必要性を挙げています。今回の実証も、分散した資産を人間が個別に操作する方式から、自律的なミッションタスク割り当てへ移行するための取り組みと位置づけられています。
一方で、衛星の運用判断をAIへ移すほど、「AIが正しく判断したか」という問題が大きくなります。
ここで今回の実証のもう一つの重要な要素となるのが、SedaroのAutonomy Framework for the Edge(SAFE)とEdge Deployable Simulators(EDS)です。Sedaroは、高精度なデジタルツインやシミュレーションを自律システムに組み込み、運用判断の検証に利用する技術を開発しています。
今回、Hivemindが生成したコマンドはそのまま衛星へ送られたのではなく、SAFEによる承認を経て実行されました。SedaroはSAFEとEDSについて、宇宙機と周辺環境を予測するオンボードモデルを使い、自律システムによる判断を実行前に検証できる仕組みだと説明しています。
つまり、この構成では「判断するAI」と「その判断が許容できるか確かめる仕組み」を分けています。AIを高性能化してすべてを任せるのではなく、AIの外側に検証レイヤーを置く設計です。これは今回の構成から読み取れる編集部の解釈です。
SedaroのSAFEそのものが初めて宇宙へ投入されたわけではありません。同社は2025年3月、NOVIの衛星上でSAFEを動作させる軌道上実証を発表しており、衛星上でシミュレーションモデルを利用する自律技術をすでに試験していました。
その後、Shield AIとSedaroは2025年12月に提携し、HivemindをSedaroの軌道上実証における優先自律ソフトウェアとし、Sedaro Platformを宇宙向けHivemindの開発・試験・検証環境として利用する方針を発表しました。
今回の実証は、その流れの先で「判断を担うHivemind」と「検証を担うSedaroの技術」を、実際のNOVI衛星上で組み合わせたものと位置づけられます。Hivemindにとっては初の宇宙領域での展開でもあります。
こうした自律運用が成立する背景には、衛星内部でAIやシミュレーションを実行できるエッジコンピューティング環境があります。
NOVIは、センサーデータを地上へすべて送ってから処理するのではなく、衛星搭載コンピュータ上でAIやデータ処理を実行する「space edge」の基盤を開発しています。GENIEedgeでは、開発者がAI・機械学習、解析、自律制御などのアプリケーションを開発・検証し、軌道上の衛星へ展開できる仕組みを提供しています。
そのため今回の実証は、AIだけ、衛星だけ、シミュレーションだけで成立したものではありません。衛星上で計算できるハードウェア、その上でミッションを判断するHivemind、さらに判断を検証するSedaroのシミュレーション技術という複数の要素が組み合わされています。
ただし、今回実際に宇宙空間に存在したNOVI衛星は1機で、残り5機は仮想衛星です。6機の実衛星をHivemindが完全自律運用した実証ではありません。
現時点で示されたのは、人間による衛星運用を全面的に置き換える完成形ではなく、実衛星を含む環境でAIによるミッション判断と、その判断を検証して実行する一連の仕組みが機能したことです。
衛星コンステレーションが大型化していくなら、「何機の衛星を保有できるか」だけでなく、「増えた衛星を人間の人数に比例せず運用できるか」が課題になります。そのとき必要になるのは、自律AIだけではなく、そのAIをどこまで信用して実行権限を渡せるかを技術的に確認できる仕組みなのかもしれません。
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【編集部後記】
個人的には、今回いちばん面白かったのは「AIに任せる」ことより、そのAIをどう信用するかまで技術として組み込んでいるところでした。AIが賢くなれば全部解決する、という話ではなくて、判断する仕組みと、それを確かめる仕組みを分けているのがすごく現実的です。こういう設計を見ると、AIエージェントが実世界に入っていくときに必要なのは、性能そのものだけじゃないんだなと感じます。しかも、その実証先が宇宙なのも面白いところです。
人間がすぐ介入できない環境だからこそ、「自律」と「信頼」をどう両立するかがかなりはっきり見えてきます。
宇宙で先に磨かれたこの考え方が、将来的に他の自律システムへ広がっていくのかは気になります。
【用語解説】
Hivemind(ハイブマインド)
Shield AIが開発する自律制御ソフトウェア。無人航空機などの機械が、センサー情報をもとに状況を認識し、ミッション上の判断と行動を自律的に行うためのAI基盤。
SAFE(Autonomy Framework for the Edge)
Sedaroが開発するエッジ環境向け自律運用フレームワーク。宇宙機と周辺環境のモデルを利用し、自律システムが生成した判断を実行前に検証する仕組み。
EDS(Edge Deployable Simulators)
Sedaroのエッジ環境で動作するシミュレーション技術。宇宙機や周辺環境の状態をモデル化し、自律システムによる判断の検証や最適化に利用。
衛星コンステレーション
多数の人工衛星を連携させ、一つのシステムとして運用する構成。通信、地球観測、測位、安全保障などで利用。
LEO(Low Earth Orbit:低軌道)
地球に比較的近い高度を周回する軌道。地球観測衛星や通信衛星、国際宇宙ステーションなどで利用。
デジタルツイン
現実の機械や環境をデジタル空間上のモデルとして再現する技術。実機の状態把握、シミュレーション、予測、制御判断の検証などに利用。
ISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)
情報・監視・偵察。センサーや衛星などを利用して対象地域や状況に関する情報を収集・分析する活動。
【参考リンク】
Shield AI(外部)
AIによる自律制御技術を開発する米国の防衛テクノロジー企業。HivemindやV-BATなど、自律システム向けのソフトウェア・航空機を開発。
Sedaro(外部)
宇宙・防衛分野向けの高精度シミュレーション、デジタルエンジニアリング、自律システム検証技術を提供する企業。
NOVI Space(外部)
衛星上でAIやデータ処理を実行する宇宙エッジコンピューティング基盤を開発。GENIEedgeを通じて軌道上でのアプリケーション開発・実証環境を提供。
【参考記事】
Shield AI Expands into Space Domain through Partnership with Sedaro|Shield AI(外部)
2025年12月3日に発表されたShield AIとSedaroの戦略的提携。Hivemindを宇宙領域へ展開し、Sedaro Platformを開発・試験・検証環境として利用する方針を説明。
Shield AI Expands into Space Domain through Partnership with Sedaro|Sedaro(外部)
Shield AIとの提携をSedaro側から説明した公式発表。Hivemindを軌道上実証における優先自律ソフトウェアとして位置づけ、宇宙ミッション向けの設計・シミュレーション・検証を進める内容。
Sedaro Demonstrates Self-Aware Satellite Autonomy Tech On-Orbit|Sedaro(外部)
2025年3月にSedaroが実施したSAFEの軌道上実証。今回より前にSAFEがNOVI衛星上で動作していたことを確認するための一次情報。
GENIEedge Platform|NOVI Space(外部)
衛星上でAI、機械学習、自律制御などのアプリケーションを開発・検証・展開・運用するNOVI Spaceの軌道上コンピューティング基盤の説明。
In-Space Processing|NOVI Space(外部)
センサーデータをすべて地上へ転送するのではなく、宇宙機上で処理・分析するNOVI Spaceの宇宙エッジコンピューティング構想を説明。


















