生成AIのメニュー画像に反発、英紙が報道|日本は3週間早かった

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AIで作られた飲食店のメニュー画像に、食欲が削がれる。英ガーディアンが9月6日に報じた米国の光景は、日本のXで8月に起きた騒ぎとほぼ同じでした。しかもその記事には、サンフランシスコから日本語で書かれた投稿が引用されています。この現象に、時差はありませんでした。


英紙ガーディアンは2026年9月6日、飲食店のメニューや販促物で生成AIによる画像の利用が広がり、客の反発を招いていると報じた。全米レストラン協会の2026年版レポートによれば、外食事業者の26%が、マーケティングや在庫管理、シフト作成、注文受付などでAIを利用している。サンフランシスコのカフェGrind & Unwindは、AI生成と特定された看板に落書きをされ、塗り直しに推定700ドルを要した。

デンバーの飲食店の店長は、実店舗ではデザイナーに発注する一方、ポップアップの画像にはChatGPTを使ったと認めた。デリバリー大手のDoorDashは、既存写真の照明や色を調整するAI写真ツールを提供しており、自社ツールを使った画像には「AI-enhanced」のラベルが自動で付く。

From: 文献リンクUncanny and unappetizing: appetites spoil as AI images take over food menus

【編集部解説】

日本ではもう終わった話題だ、と感じた人がいるかもしれません。その感覚は正しく、しかも思っているより正しい。

最初に燃えたのは飲食店ではなく、夏祭りの屋台POPでした。8月13日夜、生成AIで作ったポップは形こそ整って見えるのに全然美味しそうに見えない、という投稿が拡散します。9月7日時点で83万回以上表示され、いいねは3万4000近くに達しています。

飲食店のメニューに火が回ったのは、その2日後です。8月15日午前8時55分、サービスエリアの定食POPを写した投稿——AIで作ったことを隠す気がゼロだ、という趣旨の短い一文——が、9月7日時点で1400万回近く表示されています。リポスト5580、いいね6万1910。ITmedia NEWSがこれを報じたのが8月18日でした。

ガーディアンの報道は9月6日。日本の報道から19日後です。

それだけではありません。ガーディアン記事の導入に置かれたエピソードそのものが、日本より遅い。デンバーの看護師ジル・セネット氏がジャマイカ料理店のメニュー画像を投稿したのは8月24日。日本のサービスエリア投稿から9日後にあたります。

同じ日の朝、太平洋の両側で

ここからが本題です。

ガーディアンに登場するブランドン・ヒル氏は、サンフランシスコと東京に拠点を置くデザイン会社btraxのCEOです。記事は、彼が日本語のキャプションで投稿したと明記しています。

その原文はこうでした。

サンフランシスコのカフェでも、メニュー画像に生成AI使うところが出てきてる。でも、あんま美味しそうに見えないんだよね。

ブランドン・K・ヒル氏のX投稿(2026年8月15日)

投稿は2026年8月15日午前10時21分(日本時間)。サービスエリアのみそカツ投稿の、1時間26分後です。

現地時間では8月14日の午後6時21分。ヒル氏は8万人を超えるフォロワーに向けて、日本語で書いています。これが偶然の一致なのか、日本のタイムラインを見ていたのかは分かりません。分かるのは、同じ主題が同じ日の朝、太平洋の両側で、言語をまたいで動いていたということです。

そしてヒル氏の一連の投稿が、ガーディアンの取材につながりました。本人が9月6日にそう書いています。日本語で書かれた投稿が、英国紙の米国記事の一次資料になった。

「日本にもいずれ来る」という話ではありません。もう来ていて、しかも先に来ていた。

「ダンボールにマジック」は、日米で一致した

符合がもうひとつあります。

8月13日の夏祭りPOP投稿は、AI画像よりも「ダンボールにマジックで何を売っているか書いた屋台」のほうが美味しそうだ、と結ばれていました。

一方ガーディアンは、ワイオミング州のChugwater Soda Fountainが段ボールに手書きで「AIは使わない」と宣言し、その投稿がInstagramで20万いいねを超えたことを伝えています。

日本のユーザーが理想として挙げた表現形式を、米国の店が実際にやって支持された。打ち合わせがあったわけではありません。手書きの段ボールに宿る「この店は自分の手でやっている」という信号は、どうやら国境を越えます。

ただし日本側では、同じことを店舗が実行した例が見当たりません。「当店はAI画像を使いません」と掲げて反響を得た飲食店は、公開情報の範囲では確認できない。理想は語られましたが、まだ誰も旗を立てていない。空いている席です。

26%が測っているもの

記事が引く全米レストラン協会の26%は、扱いに注意が要ります。

これは「何らかのAI関連ツールを使っている事業者の割合」であって、メニュー画像の利用率ではありません。内訳を見ると、最も多い用途はマーケティングで、フルサービス店で19%、リミテッドサービス店で15%。管理業務が10%、注文受付は6%です。AIの最大の使いどころは、すでに客の目に触れる側にある。メニュー画像は例外ではなく、その本流に乗った一例だと読めます。ただし、この調査からメニュー画像に限った利用率までは分かりません。

数字を並べるときは、何を測ったものかを確かめる必要があります。Popmenuの2026年1月調査では、AIをすでに導入した事業者が44%、導入予定を加えると69%。Toastの2025年調査の86%は、AIを使うことに抵抗がないと答えた割合です。現在の利用、導入予定、心理的な受容度。この3つを同じ「利用率」として並べることはできません。

「不気味さ」は、モデルが良くなれば消えるのか

ガーディアンが論拠に置くのは、オックスフォード大学のチャールズ・スペンス教授らによる2024年の研究です。297人を対象に、実写とAI生成の食品画像を評価させました。作り方を伝えなかった条件では、AI生成のほうが有意に美味しそうと評価されています。

ここからが、この研究の面白いところです。画像に「実物」「AI生成」というラベルを付けると、人々の選好はラベルが「実物」のほうへ傾きました。実際にどちらであるかにかかわらず、です。AI生成画像でも「実物」と偽って見せれば、好まれた。効いていたのは出所ではなく、ラベルのほうだった。

ただし論文は、AI生成画像の見た目の良さがもたらすプラスは、AI製だと知ることのマイナスを上回るように見えたとも書いています。だからこそ透明な開示方針が望ましい、というのが著者らの結論です。「開示すれば食欲が失せる」という単純な話ではありません。

もっとも、この研究の画像はDALL-E 3で作られ、2024年3月に公表されました。公表から2年半、画像の生成時点からはそれ以上が経っています。

より新しい検証があります。2026年8月に受理されたScientific Reports掲載の研究(デュースブルク・エッセン大学)は、2025年春にGemini 2.5 Flashで生成した画像を使い、87人に実写と比較評価させました。結果は、AI生成画像のほうが現実味が有意に低く、食べたいという気持ちも低い。健康的かどうか、カロリーが高そうかどうかの評価には差がありませんでした。

2025年には、AI食品画像に不気味の谷が生じることを示した研究も『Appetite』誌に載っています。ガーディアンが見出しに置いた “uncanny” という語には、学術的な裏付けがあります。

2つの研究は対象画像も実験設計も異なり、モデル性能の向上を直接比較したものではありません。それでも、モデル世代が新しくなれば食べ物の画像の違和感は自動的に消える、とまでは現時点の証拠から言えない。人物や風景では違和感が薄れつつあるのに、食べ物では残る。セネット氏の「有名人の不気味な動画は作れるのに、ハンバーガーは描けない」という観察は、印象論ではなかったわけです。

もっとも、日本のXでは「細かく条件を指定すれば実写に近い定食画像は作れる」という反論も出ています。技術の限界というより、手をかけたかどうかが見えてしまう、という話なのかもしれません。それはそれで、店にとって厳しい話です。

スペンス教授らはもう一点、興味深い指摘をしています。AI生成画像は元画像より食品をエネルギー密度が高く見せる傾向があり、とくに「量の多さ」の描写でそうなる。マッシュポテトにバターを足すように、AIは勝手に盛る。画像が知らぬ間に、量と脂質の基準を押し上げていくかもしれない。画像生成の話が、栄養の話に接続しています。

日本には「AI表示義務」がない

では日本の店はどうすればいいのか。まず、法律の位置を正確に押さえます。

日本には、AIで作った旨の表示を一般的に義務づける規定がありません。景品表示法5条1号が禁じるのは優良誤認表示、つまり商品の内容を実際より著しく優良だと示す「表示」です。AI利用を告げなかったこと自体が、ただちにこの条文に触れるわけではありません。

ただし「不表示なら何でも自由」ではない点は押さえておく必要があります。同法にはステルスマーケティング規制もあり、こちらは広告であることを隠す行為を問題にします。隠したことが問われる領域は、確かに存在します。

そのうえで、メニュー画像の物差しはこうなります。AIを使ったかどうかは問われず、出てくる料理と一致しているかどうかが問われる。手描きのイラストでも、実物とかけ離れていれば優良誤認になりえます。逆に実物どおりなら、AIで作っても問題は生じにくい。この物差しは昔から変わっていません。

プラットフォームのルールは、法律より一歩踏み込んでいます。DoorDashは「明らかにAI生成の画像」を明示的に禁じ、自社の編集ツールを通した画像には「AI-enhanced」のラベルを付けます。Uber Eatsの公開ガイドラインには、確認できた範囲でAIへの言及がなく、「メニューの単一商品を正確に表すこと」を求めています。アプローチは違いますが、着地点は同じです。編集の手段ではなく、一致するかどうかを見ている。

日本の出前館やUber Eats Japan、消費者庁が本件について発信した形跡は、公開情報の範囲では見当たりません。それが「規制不要と判断した」という意味なのか、単に議論がまだ届いていないのかは、現時点では分かりません。

撮り直せない事情のほうへ

最後に、店側の事情を切り捨てないでおきたいと思います。

日本のXでも、批判と並んで「トッピングが変わるたびに撮影していてはコストがかかる」「外注費を抑えたい個人店が増えているのでは」という声が出ていました。ガーディアンに登場するデンバーの店長も、実店舗ではデザイナーに発注する一方、ポップアップではコスト効率を考えてChatGPTを使ったと語っています。問題はAIに手を出したことではなく、撮影という選択肢が届きにくい場所があることです。

Bella Cafeのオーナーは、AI看板について苦情を受けていないと語っています。段ボールに手書きした店は20万いいねを集めました。同じ市場に、両方が成立している。どちらが正解かは、まだ決まっていません。

ハンター・ルイス氏の「技術の利用は客から見えないところに」という言葉が、いまのところ最も実務的な指針だと思います。仕入れの予測、シフト、在庫。そこでAIが浮かせた時間と費用を、料理の写真を一度きちんと撮ることに回す。AIを使わない選択ではなく、AIをどこで使うかという配置の問題です。

そしてDoorDashが選んだ道——ゼロから生成するのではなく、実際に撮った一枚の照明と色を整える——は、その配置のひとつの答えでもあります。実物から出発し、料理や分量を変えない範囲で使えば、画像と皿のずれは小さく保てます。

1400万回表示された1枚のみそカツが問うていたのは、たぶんそこです。

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開示を推薦の条件にするというプラットフォーム側の動き。本記事のDoorDashとUber Eatsの対比と並べて読める。

【編集部後記】

プリクラを履歴書に貼る。ヒル氏は8月18日、AI画像をそのままブランディング素材に使うことを、別の投稿でそう例えていました。

言い得て妙だと思います。ただ、プリクラを貼る人にも理由はあります。撮影に出す予算のない店が、無料で使える道具を見つけたとき、何を選ぶか。その一枚を笑うより先に、手の届く価格の撮影がどこにあるのかを知りたい。空いている席は、たぶんそちら側にもあります。


【用語解説】

優良誤認表示
景品表示法5条1号が禁じる不当表示の一類型。商品やサービスの品質・内容について、実際のものより著しく優良であると一般消費者に誤認させる表示を指す。AIで作ったかどうかを問わず、実物と著しく異なる画像を実物として示せば該当しうる。

ステルスマーケティング規制
景品表示法5条3号にもとづく指定告示による規制で、2023年10月1日に施行された。事業者が表示内容の決定に関与しているにもかかわらず、広告であることを一般消費者が判別しにくい表示を不当表示として禁じる。規制の名宛人は商品・サービスを供給する事業者である。

不気味の谷
人工物の見た目が人間や実物に近づくにつれて好感度が高まる一方、ある地点で急激に嫌悪感へ転じる現象。もともとはロボット工学の概念だが、AI生成の食品画像でも同様の落ち込みが生じることが2025年の研究で示された。

エネルギー密度
一定の重量あたりに含まれるカロリーの多さ。2024年の研究では、AIが生成した食品画像は元の画像より食品をエネルギー密度が高く見せる傾向があり、とくに描かれる量の多さにその特徴が現れると報告されている。

DALL-E 3
OpenAIの画像生成モデル。2024年に公表されたオックスフォード大学らの研究では、比較に用いたAI生成の食品画像がこのモデルで作られた。

Gemini 2.5 Flash
Googleの生成AIモデルのうち、応答速度を重視した系統。2026年のScientific Reports掲載研究では、2025年春にこのモデルで生成した食品画像が実写との比較に用いられた。

AI-enhanced
DoorDashが導入している表示ラベル。加盟店が同社のAI編集ツールで料理写真を加工した場合に付与され、明るさや色味の調整といった基本的な補正を超えた処理が加わっていることを示す。

ポップアップ
期間や場所を限定して営業する店舗形態。常設店より初期費用を抑えられる一方、販促物の制作費を回収しにくく、今回の事例でも常設店とは異なる判断が取られていた。

【参考リンク】

btrax(ビートラックス)(外部)
サンフランシスコと東京に拠点を置くデザイン会社。2004年の創業以来、日米をまたぐブランディングとUXデザインを手がけている。

DoorDash ヘルプセンター|Photos FAQs(外部)
「AI-enhanced」ラベルの意味を説明する公式ページ。料理そのものや食材、分量は変えないという方針が明記されている。

National Restaurant Association|State of the Restaurant Industry(外部)
米国外食業界の年次調査。2026年版で事業者のAI利用率26%という数値が示された。用途別の内訳もここに収録されている。

消費者庁|景品表示法(外部)
優良誤認表示の定義とガイドライン、措置命令の事例を掲載する公式ページ。飲食店のメニュー表示の判断基準も、ここに依拠する。

消費者庁|ステルスマーケティングの規制(外部)
2023年10月1日に施行されたステルスマーケティング規制の概要。規制の名宛人が広告主であることも、このページで確認できる。

【参考記事】

「食欲が削られる」――AIで作られた”気色の悪い飲食店メニュー”がXで物議 「実物を見たい」の声も(外部)
日本でこの議論が8月13日ごろから広がった経緯を報じた記事。粒や光沢への違和感と、店側の事情を推測する声を整理している。

NRA: Over 25% of restaurant operators use AI(外部)
全米レストラン協会の26%の内訳を報じた記事。マーケティング19%・15%、管理業務10%、注文受付6%という数値の出どころ。

AI-generated food stimuli match real counterparts in perceived healthiness and calorie content but not in realism or willingness to eat(外部)
Gemini 2.5 Flashの生成画像を87人が実写と比較評価した論文。現実味と食べたい気持ちで有意に低い結果が出た。

AI-generated food images look tastier than real ones(外部)
オックスフォード大学の公式発表。使用モデルがDALL-E 3であること、AI画像が食品をエネルギー密度高く見せる傾向を記す。

Popmenu Releases Top Restaurant Trends to Watch in 2026(外部)
2026年1月に328の事業者へ実施された調査の発表。AIを導入済みが44%、導入予定が25%という内訳が示されている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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