HLQ EDGE発表|耐荷重60kg、独自歩行AIで溝地形を走破

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同じ会社が1年4か月前に出した数字も、60kgでした。ただし当時は機体の重さで、いまは運べる重さです。Highlandersの新型四足歩行ロボット「HLQ EDGE」で、数字の置き場所が入れ替わりました。そして代表のコメントは、性能ではなく修理の話で締めくくられています。


株式会社Highlandersは2026年9月7日、国産4足歩行ロボット「HLQ EDGE」を発表した。可搬重量は最大60kg、最大関節トルクは330Nm、全身自由度は12DoFで、歩行姿勢の全高は250〜500mmで可変する。48Vバッテリーで連続3時間駆動し、Wi-Fi 6と5Gによる遠隔運用に対応する。デプスカメラで地形を捉え、NVIDIA Jetson Orin NXで機体内処理を行う。

歩行制御にはワールドモデルを活用した独自AIを採用した。機体背面のマウントレールには、同社が国内開発したロボットアームを装着できる。機体設計、歩行AI、アーム開発、量産は国内で実施する。あわせて、階段の昇降、胴体高を上回る段差の乗り越え、溝状地形の跳躍、屋外不整地の走行を収録した実機映像を公開した。

From: 文献リンク賢くパワフルな国産4足歩行ロボット「HLQ EDGE」を発表。耐荷重60kg、フィジカルAIにより段差・溝地形を走破

【参考動画】

【編集部解説】

「60kg」という数字は、1年4か月ほど前にも同じ会社の発表に登場していました。ただし、意味が違います。

2025年5月に発表されたHLQ Proは、機体の質量が約60kg、最大積載重量が20kgでした。今回のHLQ EDGEは、可搬重量が最大60kgです。同じ数字が、運ばれる側から運ぶ側へ移ったことになります。

四足歩行ロボットでは、1脚あたり3関節、全身12自由度という構成が主要機で広く採用されています。差が出るのは、その関節がどれだけの力を出せるか。HLQ EDGEが掲げる最大330Nmという関節トルクは、そこに答えた数字です。公開映像に、人を載せた状態で姿勢を保持する実演が含まれているのは、スペック表の数字を目で確かめさせるためでしょう。

「運ぶ」から「作業する」へ

背面のマウントレールに、同社が国内で開発したロボットアームを載せられる。仕様表では一行ですが、ロボティクスでは長く難所とされてきた領域です。腕を動かせば重心が動き、脚を出せば手の届く範囲が変わる。互いが互いを制約するため、研究・実装では、移動と操作を別々に扱う構成も長く採られてきました。歩いて、止まって、掴んで、また歩く。両方を同時に制御するロコマニピュレーションは、いまも難しい課題とされています。

今回のリリースが、公開映像の冒頭にアームを載せた状態での歩行を置いたのは、この難しさを知る人へ向けた一手だと読めます。

溝には「踏んではいけない場所」がある

歩行制御に採用されたのは、ワールドモデルを活用した独自AIです。

前世代のHLQ Proは、強化学習をベースにした歩行制御アルゴリズムでした。今回は、機体の状態と周辺地形から次に起こる変化を予測しながら、脚の接地位置と全身姿勢を連続的に調整すると説明されています。

この違いが最も効くのが、公開映像にある溝状の地形です。段差なら脚を高く上げれば越えられますが、溝には「踏んではいけない場所」があります。着地できる領域を捉え、跳び、着地後の姿勢まで立て直す。あらかじめ決めた動作を再生するやり方では、この一連はつながりません。

なお同社は公式サイトで、物理知能の基盤モデル「Kepler v1.0」を公開しています。100億パラメータ規模を目標とするワールドモデルで、毎秒約5回で計画を立てる層と、毎秒約500回で反射的に反応する層という二段構え。ただしこれらの数値には、同社自身が「予定」「目標」という言葉を添えています。そしてKeplerの名は、今回のリリースには登場しません。HLQ EDGEの歩行AIがこれと同じものを指すのか、別の系統なのかは、現時点の公開情報だけでは判断できません。

性能と同じ列に置かれた「修理の窓口」

増岡宏哉氏のコメントで印象に残ったのは、技術の話ではありませんでした。

機材を運び、作業機器を載せ、荒れた地形を越え、「止まったときに国内で直せて」初めて現場の道具になる。機体設計でもAIでもなく、修理の窓口がどこにあるかを、性能と同じ列に置いています。

この言葉が2026年9月に出てきたことには、背景があります。米FCCは7月28日、外国製と判定される高度ロボット装置をCovered Listに追加しました。ヒューマノイドや四足歩行ロボットを含む移動ロボットが対象です。ここで注意したいのは、線が引かれたのが特定の国ではないという点です。基準は、米国内で製造され、かつ部品コストの65%超が米国産であるという連邦調達の「domestic end product」に当たるかどうか(2029年以降は75%)。FCCは国を問わない措置だと明言しており、作り手の国籍も判定には関係しません。日本で作られた機体も、この基準を満たさなければ外国製の側に入ります。

条件付き承認を得る道は用意されているものの、国産であること自体が米国市場への通行証になるわけではありません。それでも、この一年で「どこで作るか」が性能と並ぶ変数になったことは確かです。同じ7月には三菱自動車が同社と基本合意書を結び、8月にはジールスが準国産ヒューマノイド「D1」を発表しました。国内で設計し、国内で直せる体制そのものが、製品の一部として語られる時期に入っています。

装備の変更、ソフトウェアの更新、保守と改修の窓口を国内に置く。カタログの性能欄には載らないこの一項目を、製品概要の最終行に据えたところに、この会社の考え方が出ています。

価格、提供時期、防塵防滴の等級、移動速度といった条件は、これから示されていく段階です。導入を検討する現場にとっては、そのあたりが次の焦点になるでしょう。

歩けるかどうかを競う段階から、何を積み、そこで何をして、止まったときにどうするかを競う段階へ。HLQ EDGEは、その線をまたいだ側から出てきた一台です。溝を跳んだ映像より、増岡氏の最後の一行のほうが、この機体の性格をよく表していると感じました。

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【編集部後記】

公式サイトには、今回のリリースに一度も出てこない「Kepler」という名前のページがあります。100億パラメータを目標とする基盤モデルの構想が並び、しかし数値のほとんどには「予定」と添えられている。

売り込むより先に、まだ届いていない場所を書いておく。そういう会社が作った機体だと思って映像を見直すと、溝を跳ぶ数秒の意味が少し変わって見えます。皆さんは、あの跳躍をどう見ましたか。


【用語解説】

可搬重量(耐荷重)
ロボットが搭載・運搬できる荷物の重さの上限。機体そのものの質量とは別の値であり、両者を混同すると性能を読み違える。

自由度(DoF)
独立して動かせる関節の数。四足歩行ロボットでは1脚あたり3関節、全身12自由度という構成が主要機で広く採用されている。

関節トルク(Nm)
関節がひねり出せる力の大きさ。ニュートンメートルで表す。同じ自由度でも、この値が重量物を扱えるかどうかを分ける。

ワールドモデル
環境の状態や物理法則、行動の結果を内部でシミュレーションする仕組み。次に何が起こるかを予測しながら動きを決める。近年は基盤モデルの一種を指す用法も広まっており、文脈によって指す範囲が異なる。

強化学習
試行と結果の繰り返しから、報酬が高くなる行動を学ばせる手法。四足歩行の制御では長く主流の位置にある。

ロコマニピュレーション
移動(locomotion)と操作(manipulation)を同時に行う能力。腕を動かせば重心が動き、脚を出せば手の届く範囲が変わるため、両立は難しい課題とされてきた。

デプスカメラ
対象までの距離を画素ごとに取得できるカメラ。地形の高低や段差の形状を立体として捉えるために使われる。

NVIDIA Jetson Orin NX
ロボットや産業機器に組み込んで、機体内でAI推論を実行するための小型モジュール。クラウドへ送らずに処理を完結させる用途に使われる。

Covered List
米国のSecure and Trusted Communications Networks Act(2019年)に基づき、FCCが管理する対象機器リスト。掲載された機器は米国での機器認証を受けられず、輸入・販売が事実上できなくなる。

domestic end product
連邦調達のBuy American基準(48 CFR §25.101(a))で定義される「国内製品」。米国内で製造され、かつ部品コストの65%超が米国産であることを要する(2029年以降は75%)。今回のCovered List追加では、これに該当しない製品が「foreign-produced」と判定される。

【参考リンク】

Highlanders 公式サイト(外部)
東京大学発のロボット開発企業。四足歩行ロボットのHLQシリーズとヒューマノイドを、機体からAIまで一貫して自社で開発している。

Kepler v1.0(外部)
同社が開発中の物理知能の基盤モデル。ワールドモデルの規模、二層構成、学習基盤の構想を公開。数値には目標である旨の注記がある。

Highlanders NEWS(外部)
同社の発表履歴の一覧。HLQ AirからHLQ Pro、ヒューマノイドHL Human、三菱自動車との基本合意までを時系列で確認できる。

【参考記事】

国産四足歩行ロボット「HLQ EDGE」をHighlandersが発表 フィジカルAIやロボットアームで現場作業に対応(外部)
発表当日のロボット専門メディアによる報道。仕様表と公開映像の内容を、過不足なく順序立てて整理しており、読み比べの起点になる。

4足歩行ロボット「HLQ EDGE」耐荷重60kgでロボットアームなど装着可能(外部)
可搬重量、関節トルク、駆動時間を軸にまとめた記事。背面マウントレールによる拡張性の説明に、とくに多くの紙幅を割いている。

日本発AI搭載四足歩行ロボット “HLQ Pro” ベータ版提供開始-不整地や危険環境での重量物運搬を自動化(外部)
2025年5月12日の前世代機リリース。質量約60kg、最大積載20kg、IP54相当、最高速度2.5m/sなどの仕様表を掲載。

FAQs on Recent Updates to FCC Covered List Regarding Foreign-Produced Advanced Robotic Devices and Power Inverters(外部)
FCCによる公式のQ&A。foreign-producedの判定基準と、この措置が国を問わないものである旨を明記している。

FCC Adds All Foreign-Produced Advanced Robotic Devices to the Covered List(外部)
米法律事務所による解説。判定が製造地と部品コストの割合によること、設計地は問われないことを、条文に沿って丁寧に整理している。

Mitsubishi Motors and Highlanders sign MOU to establish a new industrial foundation where humans and robots work together(外部)
2026年7月9日の基本合意書締結に関する三菱自動車の公式発表。京都工場の遊休建屋を使った生産検討の対象と時期に触れている。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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