Last Updated on 2025-03-19 10:42 by admin
イタリアの保守的リベラル系日刊紙「イル・フォリオ」が、人工知能(AI)によって完全に生成された新聞版を2025年3月18日に発行した。同紙はこれを世界初の試みだと発表している。
この「イル・フォリオAI」と名付けられた4ページの特別版は、通常の新聞版に挿入され、新聞スタンドやオンラインで入手可能となった。通常版は1.80ユーロで販売されている。
編集長のクラウディオ・チェラーザ氏によると、この実験ではAIが「文章、見出し、引用、要約、そして時にはアイロニー(皮肉)まで」すべてを生成している。ジャーナリストの役割は「AIツールに質問をして回答を読む」ことに限定されているという。
初版の一面には、アメリカ大統領ドナルド・トランプに関する記事やロシア大統領ウラジーミル・プーチンについてのコラム、イタリア経済に関する記事などが掲載された。記事は構成が整っており、文法的誤りはなかったが、人間からの直接の引用は含まれていなかった。
この実験は1ヶ月間続く予定で、AI技術が「ジャーナリズムや日常生活に与える影響」を示すことを目的としている。チェラーザ氏はこの試みについて、AIが「実際にどのように機能するか」を示すためのテスト場だと述べている。
イル・フォリオは1996年にジュリアーノ・フェラーラによって創刊され、2015年からクラウディオ・チェラーザが編集長を務めている。政治的には保守的な立場、経済的にはリベラルな立場をとる新聞として知られている。
from:Italian newspaper says it has published world’s first AI-generated edition
【編集部解説】
イタリアの保守的リベラル系日刊紙「イル・フォリオ」が世界初となるAI完全生成の新聞版を発行したというニュースは、ジャーナリズムの未来を考える上で非常に興味深い事例です。この実験は単なる技術的なデモンストレーションではなく、メディア業界全体がAIとどう向き合うべきかという大きな問いを投げかけています。
興味深いのは、AI生成の記事が構成面では整っており、文法的な誤りもなかった点です。しかし、人間からの直接の引用が含まれていなかったという事実は、AIジャーナリズムの現在の限界を示しているとも言えるでしょう。
この実験は、世界中のニュース組織がAIの活用方法を模索している中で行われています。BBCが視聴者向けにパーソナライズされたコンテンツ提供のためにAIを使用する計画を発表したことなども、この流れの一部と言えるでしょう。
しかし、AIを編集作業に活用することには重大な懸念も存在します。現在のAIシステムは事実確認や情報の公平性を保証する面で課題があります。生成AIは時に「ハルシネーション」と呼ばれる現象を起こし、もっともらしくても実際には存在しない情報を生成することがあります。
また、AIシステムは「ブラックボックス」であり、その内部の仕組みを完全に理解したり予測したりすることが難しいという問題もあります。人間の編集者と異なり、AIは自分の決定や推論を意味のある方法で説明することができません。これは、説明責任と透明性が重要なジャーナリズムの分野では大きな課題となります。
さらに、生成AIの本質的な特徴として、それが既存のウェブ上の情報を基に新しいテキストを生成するという点があります。オリジナルの取材や情報収集を行うことができないという限界は、「本物の」ジャーナリズムの価値を考える上で重要な視点です。
一方で、この実験はAIがジャーナリズムにもたらす可能性も示しています。チェラーザ氏は、この取り組みをAIが「実際にどのように機能するか」を示すためのテスト場と位置づけており、AIを「人工的」なものではなく、知性の産物として捉えるよう読者に促しています。
メディア業界におけるAI活用の未来を考える上で、この実験は重要な一歩と言えるでしょう。AIが人間のジャーナリストに取って代わるのではなく、彼らの仕事を支援するツールとなる可能性を示しているからです。
今後、AIジャーナリズムがどのように発展していくのか、そして読者の信頼をどのように獲得していくのかは、メディア業界全体にとって重要な課題となるでしょう。イル・フォリオの実験は、その道筋を探る貴重な一歩と言えるのではないでしょうか。
【用語解説】
イル・フォリオ(Il Foglio):
イタリアの保守的リベラル系日刊紙。1996年にジュリアーノ・フェラーラによって創刊され、現在はクラウディオ・チェラーザが編集長を務めている。イタリア語で「紙」を意味する「フォリオ」という名前を持つ。
生成AI:
大量のデータから学習し、人間のように新しいコンテンツ(テキスト、画像、音声など)を自動生成できる人工知能技術。新聞記事の場合、与えられた情報から文法的に正確で意味のある記事を作成することができる。
ハルシネーション:
生成AIが実際には存在しない情報や事実を、あたかも本当のことのように作り出してしまう現象。幻覚や幻想という意味の「ハルシネーション(hallucination)」から来ている。
シチュエーションシップ(situationship):
明確な関係性の定義がない、曖昧な恋愛関係を指す比較的新しい言葉。「状況(situation)」と「関係(relationship)」を組み合わせた造語。
【参考リンク】
イル・フォリオ(Il Foglio)(外部)
イタリアの保守的リベラル系日刊紙の公式サイト。AIによって生成された「イル・フォリオAI」の記事も閲覧可能。
AIツールギャラリー(外部)
日本最大の生成AIツールデータベース。ジャーナリズム関連のAIツールも紹介している。
【編集部後記】
AIが新聞を丸ごと作る時代が到来しました。皆さんは日常生活でどんなAIツールを使っていますか?もしくは、AIに書かせた文章を読んだことはありますか?気づかないうちに接しているかもしれませんね。AIが作る記事と人間が書く記事、その違いを感じ取れるでしょうか。ぜひSNSで皆さんの体験や考えをシェアしてください。AIとジャーナリズムの未来について、一緒に考えていきましょう。