9月10日にOpenAIがGPT-Live-1をAPIで公開し、その5日後にGoogleがGemini 3.8 Liveを発表しました。OpenAIは会話と推論を別の層に分け、Googleは1つのモデルに考えながら話させる道を選んでいます。電話口の沈黙をどう埋めるかという同じ課題に、2社の答えはなぜここまで分かれたのでしょうか。
Googleは2026年9月15日、リアルタイム音声対話モデル「Gemini 3.8 Live」と「Gemini 3.8 Live Extended Thinking」を発表した。3.8 Liveはコスト効率を重視し、映像入力の処理、97言語の自動切り替え、会話を続けながらのツール実行に対応する。Extended Thinkingは推論と発話を同時に行う。同モデルはArtificial AnalysisのSpeech to Speech品質指数で82.6を記録して首位となり、τ-Voiceで68.6%、Sierraの銀行業務評価で35.1%を記録した。Gemini APIとGoogle AI Studioなどで提供を始めた。
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Introducing Gemini 3.8 Live and 3.8 Live Extended Thinking
【編集部解説】
9月10日、OpenAIのGPT-Live-1がAPIで使えるようになりました。その設計は、会話を担う層と、深く考える層を分けるものでした。音声の層は1分0.05ドルの時間課金で、背後で推論するモデルの費用は別に請求されます。
Googleが9月15日に発表したGemini 3.8 Liveと3.8 Live Extended Thinkingは、同じ課題に別の答え方を示しています。1つのモデルが、考えながら話す。音声エージェントをめぐる2社の設計思想が、同じ週に並びました。
「考えている間」を声で埋める
音声で深い推論をさせると、処理を待つ間の沈黙が生まれやすくなります。テキストのチャットなら数秒待つのは苦になりませんが、電話口の数秒の無音は、つながっているのかと相手を不安にさせます。
Extended Thinkingは、この沈黙を設計で埋めにいきます。問いかけを受けると、まず「確認しますね」といった短い言葉で受け止めます。そして裏で多段階の作業を進めながら、その進み具合を声で伝えます。3.8 Liveも、ツールやAPIの呼び出しを裏で実行している間、会話を止めません。
窓口の担当者が「少々お待ちください、いま確認しています」と言いながら端末を操作する姿と、よく似た振る舞いです。
2つのモデルの役割分担
Googleは2つのモデルの役割をはっきり分けています。3.8 Liveは規模とコスト効率を重視したモデル、Extended Thinkingは複雑なタスク向けのモデルです。
Artificial AnalysisのSpeech to Speech品質指数では、Extended Thinking(思考設定High)が82.6で首位に立ちました。Googleの図版によれば、2位はGPT-Live-1 Astra(Medium)の81.5、3位はGrok Voice Think Fast 2.0(High)の81.3です。上位3モデルは1ポイント余りの差に並んでおり、GPT-Live-1は中程度の推論設定で測られています。3.8 Live単体は76.0で、前世代の3.1 Flash Live(High)の71.5から伸びました。
ServiceNowのEVA-Benchの図は、この役割分担をよく表しています。横軸に正確さ、縦軸に会話体験を取ると、3.8 Liveは会話体験が最も高い位置にあります。Extended Thinkingは、思考を深くするほど正確さが上がり、会話体験が下がります。正確さだけで見れば、より右に位置する構成もあります。Googleが示したのは「最も正確」という主張ではなく、正確さと話しやすさの釣り合いで最前線にいるという主張です。
用途に応じて、どこに重心を置くかを選べる。音声エージェントの評価軸が1本ではなくなったことを示す図だと、私は読んでいます。
35.1%という首位
業務をやり遂げる力を測る指標でも、Extended Thinkingは首位を掲げています。Artificial Analysisが実施したτ-Voiceで68.6%、Sierraの銀行業務評価τ³-Bankingで35.1%です。
τ³-Bankingは、大規模で整理されていない知識ベースを探しながら、複数のツール呼び出しで現実的な銀行業務を完了できるかを測ります。首位でも3件に1件余りという数字は、このベンチマークが業務の難所を正面から切り出していることの表れです。音声エージェントが金融の窓口業務を任されるまでの距離を、共通の物差しで測れるようになった段階だと言えます。
値札は据え置き
開発者にとって見逃せないのは料金です。Gemini APIの料金ページでは、3.8 LiveとExtended Thinkingが、前世代の3.1 Flash Live Previewと同じ表に並んでいます。音声入力は100万トークンあたり3.00ドル(1分あたり約0.005ドル)、音声出力は12.00ドル(同約0.018ドル)です。性能を上げながら、単価は前世代と同じ水準に置かれました。
GPT-Live-1の1分0.05ドルとは、単純に比べられません。Googleはトークン量で課金し、分単価はその換算値です。出力の料金には思考のトークンも含まれるため、Extended Thinkingに深く考えさせるほど、1件あたりの費用は変わります。GPT-Live-1の記事で触れた「単価ではなく、用件1件あたりの総額で比べる」という物差しが、ここでもそのまま使えます。
日本の現場との距離
国内では、KDDIとAVITAが共同開発したヒューマノイドにGemini 3.1 Flash Live Previewを採用していると公表しており、Osaka Metroの駅での実証にも登場しています。同じLive APIの上に、同じ料金表で後継モデルが並んだことで、こうした現場には有力な移行先ができました。関数呼び出しが非同期を基本とする形に変わるなど、移行にはモデル名の差し替え以上の対応が要り、Googleは3.1 Flash Liveからの移行手順を公開しています。
97言語を会話の途中で自動的に切り替えられる点も、訪日客の多い駅や店舗の窓口では意味を持ちます。Google Docsの音声による文書作成は、ヘルプページの記載では現時点で英語のみの提供です。日本語でのやり取りの自然さは、それぞれの用途で試しながら確かめていくことになります。
モデルカードによれば、2つのモデルはGemini 3 Proをベースとし、知識の区切りは2025年1月です。新しい情報を扱う場面では、検索や関数呼び出し、入力として与える資料などで外部情報を補う設計が必要になります。生成される音声には、すべてSynthIDの透かしが入ります。
声が「作業場」になる
Googleが公開したデモには、手描きのスケッチと声のやり取りからReactのコンポーネントを組み上げる場面や、複数の予約を会話を止めずにまとめる場面が含まれていました。Docs、Gmail、Keepへの展開も始まっています。
声はこれまで、質問して答えをもらうための入口でした。考えながら話し、話しながら手を動かすモデルが、声を作業そのものの場所に変えつつあります。沈黙を埋める一言から始まった工夫が、人と機械の共同作業の手触りをどう変えていくのか。これからの実装が楽しみです。
【関連記事】
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Osaka Metroのヒューマノイド駅員|梅田駅で2度目の実証
KDDIとAVITAのヒューマノイドがOsaka Metroの梅田駅で臨んだ2度目の実証を扱った記事。駅での音声AIの課題を読み解く。
【編集部後記】
3.1 Flash Liveからの移行手順を見ると、3.8 Liveでは外れた設定が1つあります。声の調子に合わせて応答を変える「感情に応じた対話(Affective dialogue)」です。
Osaka Metroでの実証で、KDDIとAVITAのヒューマノイドは、利用者の声のトーンや感情のニュアンスを読み取る力を特長に掲げていました。考えながら話すモデルへと世代が進むなかで、声の機微はどこで、どう受け止める設計になっていくのでしょうか。
【用語解説】
音声エージェント
音声で利用者と会話しながら、問い合わせ対応や予約などのタスクを遂行するAIシステム。
Speech to Speech品質指数
Artificial Analysisが公開する、音声対音声モデルの総合指標。音声での推論、エージェントとしての性能、利用者の選好、タスク成功率の結果を加重平均して算出する。
τ-Voice
Artificial Analysisが実施する評価の一つ。音声エージェントが、会話を通じてタスクを完了できるかを測る。
τ³-Banking
Sierraの評価基盤τ³-Benchに含まれる銀行業務の評価。大規模で整理されていない知識ベースを探しながら、複数のツール呼び出しで現実的な銀行業務を完了できるかを測る。
EVA-Bench
ServiceNowが開発した音声エージェントの評価枠組み。AI同士の音声会話を用い、正確さ(EVA-A)と会話体験(EVA-X)を同時に採点する。
Live API
Gemini APIのうち、音声や映像を使ったリアルタイムの対話を扱う機能群。
関数呼び出し
モデルが外部の関数やAPIを呼び出し、その結果を応答に生かす仕組み。非同期で実行すると、結果を待つ間も会話を続けられる。3.8 Liveでは非同期が既定である。
トークン
モデルが処理するデータの単位。Gemini APIでは、入力と出力のトークン量に応じて料金が決まる。
知識の区切り
モデルの学習データに含まれる情報の時点の上限。これより後の出来事は、外部から情報を与えない限りモデルは知らない。
SynthID
Google DeepMindが開発した、AI生成コンテンツ向けの電子透かし。音声には、人が知覚できない形で埋め込まれる。
【参考リンク】
Google AI Studio(Gemini 3.8 Live)(外部)
Gemini 3.8 Liveなどのモデルをブラウザ上で試せる、Googleの開発者向けツール。音声での対話をその場で確認できる。
Gemini 3.8 Live|Gemini API(外部)
Gemini 3.8 Liveの開発者向けページ。対応する入出力、トークン上限、3.1 Flash Liveからの移行手順を掲載している。
Gemini 3.8 Live Extended Thinking|Gemini API(外部)
Extended Thinkingの開発者向けページ。背景で進む推論の扱い方や、思考設定、非同期の関数呼び出しの仕様を掲載する。
Gemini API 料金(外部)
Gemini APIの料金ページ。3.8 Live系と3.1 Flash Live Previewの単価が同じ表にまとめて掲載されている。
Gemini 3.8 Audio モデルカード(外部)
Gemini 3.8 Live系のモデルカード。ベースモデル、知識の区切り、想定用途、安全性評価の方針などをまとめている。
Artificial Analysis(Speech to Speech)(外部)
Artificial Analysisの音声対音声モデルの比較ページ。品質指数、応答までの時間、コストを横断的に比べられる。
ServiceNow/eva(GitHub)(外部)
ServiceNowが公開する音声エージェント評価の枠組みEVAのリポジトリ。評価の仕組みやデータ、実行方法を掲載する。
Introducing GPT-Live-1 in the API(OpenAI Developer Community)(外部)
OpenAI開発者コミュニティでのGPT-Live-1のAPI提供開始の告知。会話を続けながら背後で処理を進める設計を紹介する。
【参考記事】
Google Releases Gemini 3.8 Live-Extended Conversational Model, Claims Better Performance Than Rivals At Lower Price(外部)
Googleが示したS2S品質指数、τ-Voice、τ³-Bankingの競合比較値を整理した記事。GPT-Live-1らとの差を伝える。
OpenAI’s GPT-Live-1 Arrives in the API at $0.05 Per Minute(外部)
GPT-Live-1のAPI提供開始を報じた記事。9月10日の公開、音声層の1分0.05ドル、背後のモデルとの連携を伝える。
Osaka Metroの接客案内サービスにKDDI×AVITAのヒューマノイドを活用する実証実験を実施(外部)
Gemini搭載ヒューマノイドを、Osaka Metroの梅田駅と谷町九丁目駅の接客案内に導入する実証を発表したリリース。
A New Framework for Evaluating Voice Agents (EVA)(外部)
ServiceNowによるEVAの解説。正確さ(EVA-A)と会話体験(EVA-X)を同時に採点する考え方と評価の構成を紹介する。


















