Osaka Metroのヒューマノイド駅員|梅田駅で2度目の実証

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Osaka Metroの駅に、制服を着たヒューマノイドが立ちます。ただ、この駅で案内ロボットが試されるのは初めてではありません。2025年、同じ梅田駅の同じ店先には別のロボットがいて、6,000件を超える応対とともに、いくつかの課題が公表されました。その課題が、今回を見る目盛りになります。


Osaka Metro(大阪市高速電気軌道)、KDDI、AVITAは2026年8月31日から9月15日まで、ヒューマノイドを駅の接客案内に導入する実証実験を行う。KDDIとAVITAが開発しGoogleの生成AIモデル「Gemini」を搭載した機体を駅構内に設置し、構内や周辺の観光情報、乗り換えルートを案内する。

機体はOsaka Metroの制服を着用し、「ヒューマノイド駅員」として従事する。手元のディスプレイのQRコードから路線案内図を持ち出せる。設置場所は9月6日までがMetro Opus梅田店、9月9日からがMetro Opus谷町九丁目east。営業時間は11時から20時で、初日のみ13時から。

石黒浩氏デザインの機体を基に機能を刷新した。三社は需要、受容性、実運用の課題を検証する。

From: 文献リンクOsaka Metro の接客案内サービスにKDDI×AVITAのヒューマノイドを活用する実証実験を実施

【参考動画】

2026年3月2日のKDDIリリースに掲載された、文化服装学院との産学連携による衣装制作プロジェクトの記録。今回の実証で着用するOsaka Metroの制服とは別の衣装だが、機体が動く様子を確認できる。

【編集部解説】

同じ梅田駅、同じ北改札脇のMetro Opusです。初日の会場となるMetro Opus 梅田店は、2025年1月15日から3月15日まで、その店前で対話・案内ロボット「ugo」の社会実験が行われた場所でもあります。NTT西日本グループとNTTコミュニケーションズが連携して提供するNTT版大規模言語モデル「tsuzumi」等を搭載し、日本語・英語・中国語・韓国語の4言語で案内していた、車輪で動くロボットです。

Osaka Metroはその2か月間で6,000件を超える応対があったと公表しています。同時に、「駅構内放送に反応してしまう」「お客さまのリクエストへの対応品質の向上」という課題も自ら挙げていました。ugoは改良を受け、実証の場を万博会場の最寄りとなる中央線夢洲駅へ移しました。

つまり今回は、Osaka Metroにとって初めての案内ロボットではありません。一度課題を持ち帰った現場に、約1年半後、別系統のロボットとAI構成が立つ。そういう構図です。

そして、前回Osaka Metroが公表した2つの課題は、今回のヒューマノイドを見るときの、かなり具体的な比較軸になります。

駅という環境で、音声AIは何を解くのか

三社がヒューマノイドの特長として挙げているのは2点。ユーザーの声のトーン、スピード、抑揚や感情のニュアンスをリアルタイムに検知する能力。そして、音声認識から応答までの直列処理による超低遅延応答です。

駅は、音声AIにとってかなり手強い環境です。発車メロディ、自動放送、人の話し声、足音、キャリーケースの車輪。「駅構内放送に反応してしまう」という前回の課題は、この環境で顕在化したものでした。

音声AIには、聞こえた声が機器に向けられたものか、それとも横の会話や背景音かを見分ける「device-directed speech detection」という研究領域があります。声の高さなどの韻律の特徴を判定材料に加えると、誤って反応してしまう率が下がるという報告があります。声の調子を捉えられることは、「これは自分に向けられた発話か」を判断する材料が増えることでもあるわけです。ただし、今回の実装がトーン検知をその用途に使っているかは公表されていません。前回の課題への直接の答えとして作られた、とまでは言えません。

低遅延のほうは、もう少し話が素直です。人同士の会話では、話し手が入れ替わるまでの間は数百ミリ秒程度と短いことが知られています。対話エージェントでも、数秒単位の応答遅延が自然さや利用体験を損なうという報告があります。乗り換えを急ぐ人が足を止めてくれる時間は、そう長くありません。

「顔」を持つことの意味

もうひとつの軸は、この機体が「顔」を持っていることです。

3月の提携発表で、KDDIとAVITAは自分たちの狙いを率直に書いていました。産業用ロボットは単一作業に強い一方、突発的なトラブルへの対応力や、複数作業を多角的にこなす汎用性には課題が残る。そして、目線に合わせてうなずく、指を差して案内する、表情で安心感を伝えるといった非言語コミュニケーションが求められる業務には、活用が難しい。

駅の案内は、まさにその「難しい」側の業務です。言葉が通じない相手に方向を伝えるとき、人間の駅員は指を差し、目を合わせ、うなずきます。案内板の前で困っている人に最初に必要なのは、正確な情報よりも「この人に聞けばいい」と思える相手の存在かもしれません。

3月に発表されたコンセプトモデルは、空気圧駆動による静音動作、シリコン皮膚と特殊機構による表情、眼球に内蔵されたカメラセンサーによる目配りを特徴としていました。骨格は日本人に近い体格に合わせて小型に設計されています。今回の実証機がこれらをそのまま引き継いでいるかは、8月28日の発表では明示されていません。石黒浩氏が2025年大阪・関西万博のパビリオン「いのちの未来」で描いた、人とロボットが共存する未来像の系譜が、制服を着て改札の外に出てきた、とは言えます。

性格の異なる2駅、そして秋への助走

日程を眺めると、性格の異なる2駅が並んでいることに気づきます。

梅田で7日間、谷町九丁目で7日間。梅田は2025年11月の交通調査で乗降人員が43万人を超える大規模ターミナルです。谷町九丁目は近鉄との連絡運輸が設定された接続駅で、乗り換えという具体的な用事を抱えた人が通ります。三社は2駅を選んだ理由を説明していませんが、需要の質が異なる場所で同じ機体を試せば、どの業務に効くのかは分かれて見えてくるはずです。

営業時間は11時から20時。朝の通勤ラッシュは外れますが、Osaka Metroが夕ラッシュとして公表している16時から22時の帯には、しっかりかかります。三社は、この時間設定の意図自体は説明していません。

この実証の先には、すでに予告があります。3月の提携発表で両社は、2026年秋以降に実際の商業施設などへ導入し、商用サービス化に向けたトライアルを行う予定だと書いていました。将来的にはau Style/auショップをはじめとした顧客接点への導入も検討するとしています。今回の実証は、その秋を目前にした、公共空間での試走にあたります。三社はこの実証を秋のトライアルと結び付けて説明してはいないので、時系列から読み取れることとして受け取ってください。

搭載モデルについても触れておきます。7月30日の発表では、リアルタイム対話モデル「Gemini 3.1 Flash Live Preview」を採用していると、時点を明記したうえで公表されていました。今回のリリースはモデル名まで踏み込んでいないため、同じ構成が使われているかは現地で確かめる楽しみとして残っています。自律移動するのか据え置きなのか、対応言語が何か国語なのかも、リリースからは読み取れません。

そして何より、この実験は誰でも見に行けます。御堂筋線梅田駅の北改札を出てすぐ、谷町線・千日前線谷町九丁目駅の東改札東側。三社が検証項目に挙げた「お客さまの受容性」には、信頼できるか、違和感がないか、また使いたいと思うか、といった複数の面が含まれます。その一部は、通りすがりの人が実際に話しかけるかどうかにも表れます。それを決めるのは技術仕様だけではなく、その場に居合わせた一人ひとりの反応の積み重ねです。

1967年、阪急北千里駅で世界初の自動改札システムが実用化されました。駅は、新しい技術が実際の人の流れのなかで試され、日常へ溶け込んできた場所です。

人型のロボットが駅に立つこと自体も、初めてではありません。2016年10月には、東京駅丸の内北口の訪日旅行センターで、日立のヒューマノイド「EMIEW3」が日本語・英語・中国語で列車や周辺施設、観光名所の質問に答える実証が行われています。案内の範囲は、今回のヒューマノイド駅員とほとんど変わりません。

それから10年。梅田と谷町九丁目で試されるのは、人の形をした案内役が駅の日常にどこまで溶け込めるか、です。三社が掲げた「需要」「お客さまの受容性」「実運用に向けた課題」という3つの検証項目は、この10年で何が変わったのかを測る目盛りでもあります。

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【編集部後記】

制服のことが頭から離れません。この機体は2026年3月、MWCバルセロナで文化服装学院の学生がデザインした衣装を着ていました。今回はOsaka Metroの制服です。

人の形をしたものは、何を着るかで役割が決まります。案内板やデジタルサイネージに制服を着せる発想は、たぶん出てきません。人型だから服が意味を持つ。梅田で足を止めるかどうかも、案外そのあたりで決まるのかもしれません。


【用語解説】

ヒューマノイド
人の形をしたロボットの総称。二足歩行を必ずしも要件とせず、車輪で移動するものも含める用法が業界では一般的である。今回の機体が自律移動するかどうかは、発表では触れられていない。

Gemini 3.1 Flash Live Preview
Googleのリアルタイム対話用モデル。KDDIとAVITAは2026年7月30日時点で、共同開発したヒューマノイドにこのモデルを採用していると公表した。

超低遅延応答(直列処理)
音声認識と応答生成を別々のAPI間で中継せず、ひと続きの処理として扱う方式。従来は中継のたびに数秒程度の遅れが生じていた。

device-directed speech detection
聞こえた音声が機器に向けられた発話か、周囲の会話や背景音かを見分ける技術課題。音声アシスタントの誤作動を抑えるうえで中心的な問題となる。

韻律
声の高さ、抑揚、声の震えといった、言葉の内容そのものではない音声の特徴。研究では、これを判定材料に加えることで誤って反応する率が下がると報告されている。

非言語コミュニケーション
うなずく、指を差す、表情で安心感を伝えるといった、言葉以外の手段による意思疎通。KDDIとAVITAは、産業用ロボットが苦手とする領域としてこれを挙げている。

連絡運輸
異なる鉄道事業者の路線をまたいで、一枚の乗車券で移動できるようにする取り決め。谷町九丁目駅は近鉄との間にこれが設定されている。

受容性
利用者が新しい技術やサービスを受け入れる度合い。ロボット分野の研究では、信頼、安全感、将来の利用意向など複数の尺度で測られる。

【参考リンク】

Osaka Metro(外部)
大阪市高速電気軌道の公式サイト。運行情報や各駅情報に加えてニュースリリースを掲載しており、今回の実証実験の一次発表もここで読める。

KDDI ニュースルーム(外部)
KDDIの公式発表を掲載するサイト。AVITAとの戦略的事業提携や、共同開発したヒューマノイドのGemini連携開始のリリースも読める。

AVITA株式会社(外部)
石黒浩氏が代表を務める企業の公式サイト。アバター接客サービスの提供と、ヒューマノイドおよびフィジカルAIの開発を手がけている。

Metro Opus 梅田店(外部)
実証の初日会場となる店舗。御堂筋線梅田駅の北改札を出てすぐの場所にあり、期間限定の商品を扱うポップアップ型の販売店舗である。

ugo株式会社(外部)
2025年に梅田駅と夢洲駅で使われた対話・案内ロボット「ugo」の開発元。遠隔操作と自律移動の両方に対応する多機能ロボットを手がける。

日立製作所 EMIEW3(外部)
2016年に東京駅や羽田空港で案内実証を行ったヒューマノイド「EMIEW3」について、開発元の日立製作所がまとめた研究紹介ページ。

NTT版大規模言語モデル tsuzumi(外部)
日本語の処理性能を重視して開発されたNTT版大規模言語モデル。2025年に梅田駅で行われたugoによる駅案内にも使われている。

【参考記事】

Gemini搭載ヒューマノイドが梅田駅・谷町九丁目駅の接客案内に、Osaka Metroで実証実験(外部)
実証の概要に加え、2026年3月の事業提携と7月のGemini連携という経緯まで整理した記事。設置場所と営業時間も具体的に伝えている。

Osaka Metro、駅構内の接客案内にヒューマノイドを活用する実証実験(外部)
実施期間と設置場所を簡潔にまとめた記事。企業の情報システム側の視点から、今回の実証がどこに位置づくのかを短く整理している。

Gemini搭載ヒューマノイドをKDDIとAVITAが共同開発 「Google Cloud Next Tokyo」で接客実演(外部)
搭載モデルが「Gemini 3.1 Flash Live Preview」であることを明記した記事。共同開発の内容と実演の様子を伝えている。

KDDIとAVITA、フィジカルAI領域での戦略的事業提携を開始(外部)
2026年3月の提携発表を報じた記事。シリコン皮膚を用いた親しみやすい外見など、機体そのものの特徴にまで踏み込んでいる。

東京駅に対話型ロボット! 外国人向けに駅構内・観光案内(外部)
2016年10月にEMIEW3が東京駅で行った案内実証を伝える記事。実施期間、対応言語、案内の範囲まで具体的に記している。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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