AIに出来事を尋ねると、文章の横に写真が並ぶようになりました。ゲッティイメージズは2025年10月にPerplexityと、2026年6月にOpenAIと、自社の写真をAI検索に表示する契約を結んでいます。そのゲッティが10月12日、米連邦破産法11条による再建を発表しました。国内の速報の見出しではAIを前面に出した説明が目立ちますが、発表文と開示資料を確認すると、別の内訳も見えてきます。AIが写真を作れる時代に、現実を写した報道写真は価値を保てるのか。一次資料をもとに整理してみました。
目次▼「AIに負けた」は半分だけ——開示資料が示す内訳▼報道写真は、AIに代われない強みになるのか▼日本の写真家と顧客への影響▼まだ分かっていないこと
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10月12日に明らかになったゲッティイメージズの再建計画では、ゲッティ家の関連会社とKoch Equity Development(KED)の関連会社が、最大5億3,300万ドルの新規出資を確約した。無担保社債の83.5%を持つ社債権者は無担保シニア債2億7,000万ドルの消却に、担保付き社債とタームローンの約89%を持つ債権者とリボルビング・クレジット・ファシリティの全融資者は、利払いの軽減と返済期限の延長に合意している。同社は数週間以内に一部の米国法人についてプレパッケージ型の米連邦破産法11条による手続きを始め、事業外の法的債務に対処するとしている。完了は年内の見込みで、出資者が再建後の会社を100%保有する非公開会社となる。手続き中は、KEDによる最大1億4,300万ドルの融資と事業から生まれる現金で、通常どおり事業を続けるという。
【編集部解説】
「AIに負けた」は半分だけ——開示資料が示す内訳
国内の速報の見出しでは、「AIにおされ」のように、AIを前面に出した説明が目立つように感じます。そこで、同社の発表文、米証券取引委員会(SEC)に提出された四半期報告書(10-Q)、そして10月に債権者向けに示された資料を確認し、整理してみました。
まず、発表文は生成AIを再建の理由に挙げていません。理由として示されているのは「事業外の法的債務」への対処で、リスク項目にはワラント訴訟の結果が名指しされています。なお、米連邦破産法11条は事業を続けながら立て直す再建型の手続きですが、今回の計画では既存の株主は何も受け取りません。「再建」と「株主にとっての全損」は同時に起きています。
いちばん分かりやすいのは、債権者向け資料が示す資金の増減です。2024年末から2026年6月末までの1年半で、本業は(調整後EBITDAから設備投資を引いた額で)3億5,500万ドルの現金を生みました。一方で、借入金の元利払いに2億5,800万ドル、Shutterstockとの合併に1億800万ドル、ワラント訴訟に8,100万ドル(保険金を差し引いた額)、法人税に6,100万ドル、その他の資金調達費用に2,500万ドル、Stability AIとの訴訟に1,700万ドルが出ていきました。手元の流動性(現金と未使用の融資枠)は、2億7,100万ドルから8,200万ドルまで減っています。会社自身、このページに「キャッシュフローと流動性は借入金の元利払いと事業外の費用に消費された」という趣旨の見出しを付けています。
4〜6月期の決算でも、営業利益は3,237万ドルの黒字でした。純損失8,578万ドルの主な要因は、繰延税金資産の評価引当てによる7,338万ドルの法人税費用です。
ワラント訴訟は、2022年の上場の際に特別買収目的会社(SPAC)から引き継ぎ、同年10月に会社が償還した公開ワラント(新株予約権)の扱いをめぐるものです。元保有者に敗訴し、4月に判決額と利息あわせて1億1,090万ドルを支払いました。6月末時点で9,950万ドルの訴訟引当金が残り、7月にはニューヨーク州の裁判所でさらに6,780万ドル(年9%の利息つき)の判決が出ています。
報道でよく引かれる「約21億ドルの負債」にも注意が要ります。この数字は6月末時点のもので、合併資金として預託されていた10.5%債6億2,840万ドルが含まれています。この債券は合併の解除後、預託金から償還されました。
一方で、AIの影響がないわけではありません。8月の決算説明では、広告代理店向けの売上が13%減ったことが報告され、クレイグ・ピーターズCEOはその背景にAIを含む内製化があると説明しています。小口向けのiStockでは、検索エンジンがAIによる回答を表示するようになり、検索からの流入が減っているとしました。債権者向け資料は、代理店向けの売上が2025年の8,200万ドルから2029年に6,000万ドルへ約3割減り、iStockのeコマース売上は1億3,400万ドルから6,800万ドルへほぼ半減する見通しを示しています。2025年の年次報告書(10-K)も、生成AIを、無断で学習に使われる脅威と、ライセンス素材を代替するコンテンツを生む脅威の「二重の脅威」と位置づけています。
ここに、見落とされやすい点があります。AIは「写真を作る」ことで顧客を奪うだけでなく、「検索の答えを先に出す」ことで、顧客が写真のサイトにたどり着く道そのものを細くしています。
まとめると、AIは売上の土台の一部、特に小口と代理店向けを削りつつあります。しかし、資金を一気に削ったのは、借入金の重い元利払いと合併の失敗、上場時の後始末(ワラント訴訟)です。どちらか一方だけでは説明しきれません。
報道写真は、AIに代われない強みになるのか
投資の世界では、競合が簡単には越えられない強みを、城を守る堀にたとえて「堀(モート)」と呼びます。報道写真は、AI時代のゲッティにとってそうした強みになりうるのでしょうか。まず数字から見ていきます。
部門別の売上を見ると、4〜6月期はクリエイティブ(広告・企業向けのストック素材)が2.6%減の1億2,740万ドル、エディトリアル(報道・スポーツ・エンタメ・アーカイブ)が9.2%増の9,650万ドルでした。
ただし、この差は額面どおりには読めません。会社の説明では、定額の購読プランの中で利用がクリエイティブからエディトリアルに移った影響があり、エディトリアルの伸びのうち約5.5ポイント、クリエイティブの減少のうち約3.8ポイントがこの配分の移動によるものです。この影響を除くと、エディトリアルの伸びは2〜4%程度、クリエイティブは前年並みになります(編集部の概算。為替の扱いで幅が出ます)。
報道の売上は、スポーツの大会の日程にも左右されます。2025年7〜9月期のエディトリアルは3.7%減でした。2026年は、冬季五輪のあった1〜3月期が11.0%増でした。4〜6月期にはサッカーのワールドカップがありました。ジェン・レイデン最高財務責任者(CFO)も2025年の決算発表で、2026年は報道のイベント日程が追い風になると述べています。今年の伸びの一部は、大会の多い年のリズムでもあります。
それでも、会社が報道を中核に据えていることは、10月の債権者向け資料から読み取れます。資料は「プレミアムなクリエイティブと報道のコンテンツ」を中核事業と位置づけ、報道の売上を2025年の3億7,000万ドルから2029年に4億800万ドルへ伸ばす見通しを示しました。これは経営陣が債権者に示した見通しで、実績ではありません。直近12か月の売上のうち82%(8億200万ドル)は、企業向けのGetty Imagesブランドが占め、iStockは16%、無料写真のUnsplashは2%です。
報道写真には、生成AIが代わりにくい性質があります。昨日の試合の決定的な瞬間は、その場にいた写真家にしか撮れません。ゲッティは年に16万件を超えるニュース・スポーツ・エンタメの現場を取材しています。
2026年2月、innovaTopiaはゲッティの戦略開発担当副社長ニック・アンズワース氏と、ゲッティイメージズジャパン営業部長の高田倫明氏に話を聞きました。両氏は、クリエイティブ素材はAI学習用にライセンスする一方で、報道素材は学習に使わせないという線引きを説明していました。アンズワース氏は、人々がAI検索を「真実のソース」として頼り始めているからこそ、現実の出来事を写した画像で回答を検証可能にしたいと語っています。
その考え方は契約にも表れています。2025年10月のPerplexityとの契約は、AI検索に画像をクレジットと出典リンクつきで表示するためのものでした。2026年6月にはOpenAIとも、ChatGPTの検索に画像を表示する複数年契約を結んでいます。ただ、AI向けのデータライセンス収入は、2025年で売上全体の約4.4%にとどまります。
ここまでは、報道写真が強みになりうる理由です。しかし、反対側から見える景色もあります。
一つは、英国の競争・市場庁(CMA)の判断です。CMAは、英国の報道写真の供給でゲッティがすでに明確な首位にあり、Shutterstockと統合すれば半分近くかそれ以上を占め、代わりの供給元はPA Media(Alamyを含む)、AP、ロイターなど少数に限られると指摘しました。一方、広告向けのストック素材については懸念を示していません。
会社を守る堀は、写真を買う報道機関の側から見れば、選択肢が減り、値段が上がるおそれでもあります。CMAが統合の条件にしたのは、まさにShutterstockの報道部門の売却でした。ゲッティの取締役会はそれを受け入れず、合併そのものを断念しています。報道部門を手放すくらいなら合併をやめる、という判断だったと読むこともできます(編集部の解釈)。
もう一つは、強みの範囲です。債権者向け資料が中核に据えたのは、報道だけでなく、企業向けのプレミアムなクリエイティブも含めた「プレミアム」全体でした。出資するKoch側も、ゲッティを「本物の画像」の供給源と表現しています。そう考えると、強みの正体は「報道写真」というジャンルよりも、「本物であること」と「権利処理が済んでいること」を保証できる点にあるのかもしれません(編集部の解釈)。8月の決算説明でピーターズCEOは、各国でAIの透明性に関する法律が施行され、広告でのAI利用に消費者の慎重な見方が広がっていることを、前向きな材料として挙げました。
そして、この仮説を外から確かめる手段は、これから細くなります。非公開会社になれば、部門別の売上や、AI企業へのライセンス収入を開示する義務はなくなります。AI検索への表示契約の金額も、公表されていません。
日本の写真家と顧客への影響
ゲッティイメージズの写真を使う日本の企業や媒体について、発表文は顧客への影響は見込まれていないとしています。申立ては一部の米国法人に限られるとされていますが、日本法人がどう扱われるかは、発表文からは読み取れません。10月18日時点で、ゲッティイメージズジャパンとしての日本語の告知も見つかりませんでした。
写真家(コントリビューター)にとっては、もう少し慎重に見る必要があります。ゲッティは世界で60万人を超えるコンテンツ制作者と協業しており、2015年にはiStockへの投稿手続きの日本語化も進めていました。日本の投稿者は2015年時点で2,000人を超えたとされていますが、現在の人数は確認できませんでした。
発表文で「全額支払われる」と明記されているのは取引業者(ベンダー)で、コンテンツ提供者については「影響は見込まれていない」という表現にとどまります。米国の写真業界メディアPhoto Business Newsは、支援契約に写真家のための債権者区分も、ロイヤリティへの言及もないと指摘しています。Luminous Landscapeは、ロイヤリティは明細の数か月後に支払われるため、申立て前に発生した分が無担保債権として扱われる可能性に触れています。いずれも現時点での見立てであり、実際の扱いは裁判所に提出される計画の中身で決まります。
国内の写真素材の現場でも、AIとの距離の取り方は分かれています。国内大手のPIXTAは2026年4月にAI生成素材の新規申請の受付を止め、5月22日に取り扱いを終えました。理由には、短期間に大量のAI生成素材が投稿され、購入者が求める作品と結びつけにくくなったことなどを挙げています。フリー素材サイト「ぱくたそ」の運営者によると、写真ACも2025年10月に、AI生成素材の新規投稿受付を一時停止すると案内していました。そのぱくたそでは、PVが直近で10〜20%ほど伸び、特にAIサービス経由の訪問が増えているといいます。検索のAI回答でiStockへの流入が減ったゲッティとは、逆の動きです。AIの影響は、写真素材のどこにでも同じ形で出ているわけではありません。
2月の取材で高田氏は、ゲッティの生成AIツールで画像が生成されるたびに、関与した素材の投稿者へロイヤリティが分配される仕組みを説明していました。AIの時代に写真家へ対価を戻すこの仕組みが、非公開化の後も続くのか。それを外から確かめる材料も、開示の終了とともに減っていきます。
報道写真が堀になるとしても、その堀を日々掘り続けているのは、現場に立つ写真家たちでもあります。この再建が写真家との約束をどう扱うのかは、AIに代われない強みをめぐる議論と切り離せない問いだと私たちは考えます。
まだ分かっていないこと
- 申立てと裁判所の承認:10月18日時点で、申立ての報道は確認できていません。支援契約は10月21日までに手続きを始め、その後おおむね2か月半で計画の効力発生まで進む日程を定めています(期限は延長されることもあります)。計画が予定どおり認可されるかはまだ分かりません
- Stability AIとの訴訟:英国では二次侵害の争点について控訴が認められ、控訴審を待っています。米国では2025年8月に起こした訴訟の審理(証拠開示の段階)が続いています
- 報道とプレミアムの見通し:2029年までの見通しは経営陣の予測です。非公開化の後、それが実現したかを外から確かめる手段は限られます
【関連記事】
【編集部後記】
スマートフォンで撮った写真も、AIで作った画像も、私たちは毎日のように同じ画面で見ています。そのなかで「これは本当にあった場面だ」と信じられる理由は、どこにあるのでしょうか。撮った人の名前か、写真を預かる会社の信用か、それとも来歴を示す技術か。ゲッティの再建は、その信頼を支える仕組みにも費用がかかり、それを誰がどう負担していくのかという問いを、私たちに残しているように思います。
【参考リンク】
【用語解説】
堀(モート)
競合が簡単には越えられない、事業の守りの強さを指す比喩。英語ではエコノミック・モート(economic moat)。投資家のウォーレン・バフェット氏が広めた言い方で、城を守る堀にたとえる。本記事では、生成AIが代わりにくい「現場で撮った写真」や「権利処理の確かさ」がゲッティの強みになりうるかを問い、その強みが写真を買う側には選択肢の少なさにもなりうる点に触れる。
米連邦破産法11条(チャプター11)
事業を続けながら、裁判所の監督のもとで債務を整理する米国の再建型の手続き。日本の民事再生法に近いとされる。清算を目的とする7条(チャプター7)とは異なる。
プレパッケージ型
裁判所への申立て前に、主要な債権者と再建計画の中身を合意しておく進め方。手続きの期間を短くできる。
再建支援契約(RSA)
会社と債権者・出資者が、再建計画を支持することを約束する契約。Restructuring Support Agreementの略。
DIPファイナンス
破産手続き中の会社が事業を続けるために受ける融資。DIPはDebtor in Possession(占有を継続する債務者)の略。今回はKoch Equity Developmentが最大1億4,300万ドルを提供する。
ワラント(新株予約権)
決められた価格で株式を取得できる権利。ゲッティは2022年に特別買収目的会社(SPAC)との合併で再上場した際にSPACから引き継いだ公開ワラントの扱いをめぐり、元保有者との訴訟で敗訴した。
エディトリアルとクリエイティブ
ゲッティの売上区分。エディトリアルは報道・スポーツ・エンタメ・歴史アーカイブの写真や映像で、改変せずに記録として使う素材。クリエイティブは広告や企業の資料に使うストック素材。生成AIの学習用にライセンスされるのはクリエイティブで、エディトリアルは学習に使わせない方針と説明されている。
コントリビューター
写真や動画、イラストなどの素材を、ストックフォトのサービスに提供する制作者。素材が売れるたびにロイヤリティ(使用料の分配)を受け取る。
調整後EBITDA
利払い前・税引き前・償却前の利益から、一時的な費用などを除いた指標。本業がどれだけ現金を生む力を持つかを見るのに使われる。
AIデータライセンス
自社の画像や動画、メタデータを、AIの学習やAIサービスでの表示のために提供し、対価を得る取引。ゲッティでは2025年に売上の約4.4%を占めた。
英国競争・市場庁(CMA)
英国の競争当局。企業の合併が市場の競争を損なわないかを審査する。


















