Last Updated on 2024-11-15 08:13 by admin
マイクロソフトは2024年11月13日、製造業、農業、金融サービス向けの特殊なAIモデルスイートを発表した。このAIモデルは、Azure AIカタログを通じて提供される。
主要な提携企業と開発内容:
- シーメンス
- 産業設計プラットフォーム「NX X」にAIを統合
- 自然言語でコマンドを発行できるNX Xコパイロットを実装
- バイエル
- E.L.Y.作物保護モデルを開発
- 農薬や作物処理に関する規制要件や環境条件を考慮した推奨システムを提供
- サイトマシン(Sight Machine)
- Factory Namespace Managerを開発
- スワイヤー・コカ・コーラUSAが導入予定
- 工場間のデータ命名規則を標準化
- セレンス(Cerence)
- 車載用音声アシスタント「CaLLM Edge」モデルを開発
- オフライン環境でも車両制御が可能
- フィデリティ・インベストメンツ
- 子会社Saifrが金融規制遵守用AIモデルを開発
- ブローカー・ディーラーのコミュニケーションをリアルタイムで分析
- ロックウェル・オートメーション
- FT Optix Food & Beverageモデルを開発
- 工場作業員向けの機器トラブルシューティングを支援
技術的特徴:
- Phiファミリーの小規模言語モデル(SLM)を採用
- 従来の大規模モデルより少ない計算リソースで動作
発表者:
サティシュ・トーマス(マイクロソフト ビジネス&インダストリーソリューション部門 コーポレートバイスプレジデント)
from:Microsoft brings AI to the farm and factory floor, partnering with industry giants
【編集部解説】
マイクロソフトが発表した産業特化型AIモデルは、これまでのAIとは一線を画す取り組みといえます。特に注目すべきは、大規模言語モデル(LLM)ではなく、小規模言語モデル(SLM)を採用している点です。
Phiファミリーと呼ばれるこれらのSLMは、特定の業務に特化することで、より少ない計算リソースで効率的な処理を実現します。これにより、工場の現場や農場といった、必ずしも高性能なコンピューティング環境が整っていない場所でも、AIの恩恵を受けることができるようになります。
シーメンスとの協業で開発されたNX Xコパイロットは、産業設計の効率化に大きな可能性を秘めています。従来、CADソフトウェアの習得には長期の訓練が必要でしたが、自然言語での操作が可能になることで、新人エンジニアの育成時間を大幅に短縮できる可能性があります。
バイエルのE.L.Y.作物保護モデルは、農業分野におけるAI活用の新しい形を示しています。農薬の使用に関する規制は国や地域によって異なり、また気候条件によっても適切な使用方法が変わってきます。このモデルは、これらの複雑な要因を考慮した推奨を提供することで、持続可能な農業の実現を支援します。
製造業向けには、サイトマシンが開発したFactory Namespace Managerが注目に値します。工場データの命名規則の標準化は、一見地味な課題に思えますが、実は製造業のデジタル化における重要な障壁でした。この解決により、複数工場間でのデータ分析や、AIの導入がより容易になることが期待されます。
このような産業特化型AIの普及は、労働力不足や技術継承といった社会課題の解決にも貢献する可能性があります。特に日本では、製造業や農業における熟練技術者の高齢化が深刻な問題となっていますが、AIによる支援で、若手作業員でも高度な判断が可能になるかもしれません。
一方で、こうした技術の導入には慎重な検討も必要です。特に金融分野では、フィデリティ・インベストメンツの子会社Saifrが開発した規制遵守用AIモデルのように、AIの判断の透明性と説明可能性が重要になってきます。
長期的には、これらの産業特化型AIモデルは、各産業のデジタルトランスフォーメーションを加速させる触媒となる可能性があります。特に、従来はAI導入に慎重だった製造業や農業分野での普及が期待されます。
【用語解説】
【参考リンク】
産業用AIの世界が、私たちの身近なところまで来ています。工場や農場での作業が、より直感的で効率的になる日も近いかもしれません。皆さんの職場では、どのようなAI活用の可能性があるでしょうか? 既存の作業フローを見直し、AIによる効率化の機会を探してみるのも良いかもしれません。