2025年1月20日、第47代アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、就任初日にバイデン政権が2023年10月30日に発令した「Executive Order 14110:人工知能の安全で、確実で、信頼できる開発と使用に関する大統領令」を含む約75の大統領令を撤回しました。
撤回された主なAI関連の施策
- NISTによる企業向けAIバイアス是正ガイドライン
- AI による雇用喪失からの労働者保護政策
- 個人情報保護に関する規定
- オープンで公平なAI市場の形成に向けた指針
from:rump reverses ‘critical’ AI safety order on first day in office
【編集部解説】
トランプ大統領が撤回したバイデン前政権のAI規制に関する大統領令(Executive Order 14110)について、より詳しく解説させていただきます。
この大統領令は2023年10月に施行され、AIの安全性、セキュリティ、信頼性に関する包括的な規制フレームワークを確立しようとしたものでした。具体的には、AIシステムの安全性テストの結果を政府に報告することや、国家安全保障や公衆衛生に関わるAIモデルの開発時における政府への通知を義務付けていました。
特筆すべきは、この規制撤廃がAI業界に与える影響の大きさです。マイクロソフトのような大手テクノロジー企業が「重要(critical)」と評価していた規制の枠組みが失われることで、AI開発における安全性の担保が企業の自主性に委ねられることになります。
医療分野への影響も見過ごせません。バイデン政権下では保健福祉省(HHS)にAIタスクフォースを設置し、ヘルスケア分野でのAI活用における安全性確保を目指していました。この体制が失われることで、医療AIの開発と導入における品質管理の在り方が問われることになります。
興味深いのは、トランプ政権がAIイノベーションを重視する姿勢を示している点です。新たにAI・暗号通貨担当特使としてデイビッド・サックス氏を任命し、規制緩和路線を推進する構えを見せています。
しかし、連邦レベルでの規制緩和は、州レベルでの新たな規制強化を促す可能性があります。カリフォルニア州やコロラド州など、複数の州が独自のAI規制を検討しており、企業にとっては各州の規制に対応する必要が生じる可能性があります。
さらに国際的な観点では、EUのAI規制法との整合性も課題となってきます。グローバルに事業展開する企業は、より厳格なEUの基準に合わせざるを得ない状況が予想されます。
このような状況下で、日本のAI開発企業や関連事業者にとって重要なのは、規制の有無に関わらず、自主的な安全性確保とリスク管理の体制を整えることでしょう。米国市場での競争力を維持しながら、グローバルスタンダードにも対応できる柔軟な開発・運用体制の構築が求められています。