2025年2月2日、EU AI Actの第一段階が施行された。現在では汎用型人工知能の開発が現実的なものとなりつつあり、今年は様々な国際的なAIについての法整備がなされつつある。
ー1950年代以降、AI技術は激動の歴史をたどった。現在ではあらゆる社会活動にAIが存在しその使い方から、市場への影響、そして現在これは国際的な脅威になりうるとして法整備までがなされている。
2029年、つまり、5年以内にAIは私たち人間の知性と同等の知能を備えるとされており、20年後にはAIそのものが人間よりも高い知能を持ったAIを生み出す「シンギュラリティ」が起こり、あらゆる産業が再定義されるといわれている。
今回は、イノベーションの最先端を報道し続けている、イノベトピア編集部から、AIと人類の歩み、そしてAIと人間の差異を歴史の視座から解説することにより、現在まで人類がたどってきたAIとの歴史を俯瞰したい。
あらゆる人間にとってもはやAI技術は他人事ではないと思われる。
はじめに
人工知能(AI)は、人間の知的活動を模倣し、時にはそれを超える能力を持つシステムとして発展してきました。
1956年のダートマス会議で「考え、行動する能力を持つプログラム」として定義されて以来、AIは私たちの社会に大きな影響を与え続けています。
本稿では、AIの基本概念から最新の発展、そして将来の展望まで、包括的に解説します。
【AIの基本概念と種類】
ルールベースAI
最も基本的なAIアプローチであるルールベースAIは、人間が設定した明確なルールに基づいて動作します。
例えば、メール振り分けシステムでは、送信者のアドレスや件名に基づいて、事前に定義されたルールに従ってメールを分類します。
このアプローチは、初期のAIシステムで広く採用され、今でも特定の用途で重要な役割を果たしています。
機械学習
機械学習は、データからパターンを学習し、新しい状況に対応できる能力を持つシステムです。
例えば、クレジットカードの不正利用検知システムでは、過去の取引データから不正なパターンを学習し、新しい取引が発生した際にリアルタイムで不正を検知することができます。
ディープラーニング
ディープラーニングは機械学習の発展形で、多層のニューラルネットワークを用いて複雑なパターンを自動的に学習する技術です。
画像認識や自然言語処理など、非構造化データの処理に特に優れています。
例えば、医療画像診断では、大量の画像データから病変を検出するパターンを学習し、医師の診断を支援しています。
【AI開発の歴史】
第一次AIブーム(1950年代後半~1960年代)
この時期は、基本的な問題解決に特化したAIの開発が中心でした。1956年のダートマス会議では、AIという用語が正式に提唱され、論理的思考や問題解決に関する研究が活発化しました。
代表的な成果として、最初のチャットボットであるELIZA(1966年)や、世界初の移動知能ロボットShakey(1966年)があります。
第二次AIブーム(1980年代)
エキスパートシステムの開発が中心となったこの時期には、専門家の知識をルールベースで実装する試みが行われました。
医療診断システムMYCINや、DEC社の計算機構成システムXCONなど、実用的なシステムが登場しました。
第三次AIブーム(2010年代~)
現在のAIブームは、ディープラーニングの革新的な成果によって特徴付けられます。
2012年にAlexNetが画像認識コンテストで人間の精度を上回って以来、画像認識、自然言語処理、音声認識など、様々な分野で飛躍的な進歩が見られています。
【AIの進化と社会への影響:包括的な時系列】
1940年代~1950年代:AIの基礎確立
1942年:チューリングがエニグマ解読にAIの原型となる技術を活用
1950年:チューリングテストの提案。機械知能を評価する基準を確立
1956年:ダートマス会議でAIという用語が正式に提唱
1957年:最初の人工ニューラルネットワーク「パーセプトロン」が開発
1960年代~1970年代:初期の実験
1964年:最初のチャットボット「ELIZA」が開発
1966年:世界初の移動知能ロボット「Shakey」が登場
1969年:マッカーシーとヘイズがフレーム問題を提起
1974年:第一次AIウィンターの始まり
1980年代:エキスパートシステムの時代
1980年:ジョン・サールが「中国語の部屋」問題を提起
1980年代前半:XCONやMYCINなどのエキスパートシステムが実用化
1987年:第二次AIウィンターの始まり
1990年代~2000年代:機械学習の発展
1997年:IBMのDeep Blueがチェスチャンピオンのカスパロフに勝利
2000年:シンボルグラウンディング問題が提起
2002年:最初のルンバが発売、家庭用ロボットの普及開始
2010年代:ディープラーニング革命
2011年:IBMのWatsonがクイズ番組Jeopardy!で人間に勝利
2012年:AlexNetが画像認識コンテストで革新的な成果
2015年:画像認識でAIが人間の精度を上回る
2016年:AlphaGoが囲碁世界チャンピオンに勝利
2020年代:AIガバナンスの時代
2023年:
- 米国がAI安全性に関する大統領令を発表
- G7がAI開発に関する国際的な行動規範を策定
- 中国が生成AIに関する規制を導入
2024年:
- EU AI法が発効(8月)
- 高リスクAIシステムの規制開始
- アフリカ連合がAI戦略を承認
2025年(予定):
- EUの高リスクAI禁止措置の発効
- 各国でAI人材育成計画の本格化
- AI安全性に関する国際基準の確立
この歴史は、技術革新、哲学的課題、社会実装、そして政策対応が密接に関連しながら発展してきたことを示しています。特に2020年代に入り、AIの社会実装が加速する中で、国際的な規制枠組みの整備が急務となっています。
【AIと哲学的問題ー知性の条件とは。人間の条件とは。】
以下の項では、AIの進化とともに、人間に固有のものと考えられてきた知性をどのように定義して、問題を提起し続けてきたのかを解説し、現在のAIの到達地点と人間との差異について読者と一緒に考えていきましょう。
チューリングテスト
1950年にアラン・チューリングが提案した人工知能評価の基準です。
人間の評価者が機械と人間の会話を区別できるかどうかをテストします。近年のGPTなどの大規模言語モデルの出現により、このテストの基準自体の見直しが必要とされています。
また、言語による対話だけでなく、マルチモーダルな評価方法の必要性も指摘されています。現在は、より包括的な知能評価の手法の開発が進められています。
中国語の部屋
1980年にジョン・サールが提唱した思考実験で、プログラムが適切な応答を返せても真の「理解」を持つことはできないと主張しました。
この問題は現代のAIシステム、特に大規模言語モデルの出現により再び注目を集めています。
システムが本当に言語を理解しているのか、それとも単に統計的なパターンを操作しているだけなのかという議論は現在も続いています。
身体性
AIが真の知能を獲得するためには物理的な身体を持つ必要があるという考え方です。
2024年現在、ロボティクスとAIの統合による解決が進められており、特に知能の創発における重要な研究課題となっています。
エンボディッドAIの研究は、センサー技術やアクチュエータの発展とともに急速に進展しています。
シンボルグラウンディング問題
記号と実世界の意味をどのように結びつけるかという問題で、現在も完全な解決には至っていません。ただし、マルチモーダルAIの発展により、視覚や聴覚などの感覚情報と言語を結びつける新しいアプローチが生まれています。
特に、物理的な相互作用を通じた意味の獲得に関する研究が進んでいます。
フレーム問題
AIシステムが関連する情報と無関係な情報を区別する際の困難さを指す問題です。現代の機械学習アプローチにより部分的な解決が図られていますが、人間のような柔軟な状況理解と判断には至っていません。
コンテキスト理解や常識推論の研究が進められています。これらの問題は、技術の進歩により新たな視点や解決アプローチが提案されていますが、いずれも完全な解決には至っていません。
特に意識や理解の本質に関わる問題は、技術的な進歩だけでは解決できない哲学的な側面を含んでいます。
むすび
現在、AIの歴史は現在進行形であり、第一次、第二次AIブームは技術的な課題により、収束を迎えた。
私たちは第三次AIブームの過渡期である。激動の時代の潮流の渦を現在点とする私たちの在り方、そしてAIの持つ課題について俯瞰するために時系列を中心にAI技術の変遷についてまとめた。
世界三大発明として「火薬、活版印刷、羅針盤」があるのはよく知られていることだが、AIも何百年後の人類が振り返った時にそれに肩を並べるほどの人類の歴史を大きく変えるものになりうる可能性がある。
今後もイノベトピアの記事から最先端の動向を眺めてくださると、編集部一同、大変喜ばしい限りである。