Anthropic社が2025年2月10日、AI利用状況を分析した「Anthropic Economic Index」を発表した。
このレポートは、同社のAIアシスタント「Claude」との400万件以上の匿名化された会話データを分析したもので、産業界全体におけるAI利用の実態を明らかにした。
主な調査結果は以下の通り
- AI利用の57%が人間の能力を補強する目的で、43%が自動化目的だった
職種別のAI利用率は以下となった
- ソフトウェア開発・コンピュータ関連:37.2%
- メディア・マーケティング・コンテンツ制作:10.3%
- 農業・漁業・林業:0.1%
- 全職種の約36%が業務の4分の1以上でAIを活用している
- 給与帯別では、中~高給与層でAI採用率が最も高く、最高給与層と最低給与層では採用率が低い
この調査はAnthropicの共同創業者であるジャック・クラーク氏が主導し、同社のプライバシー保護分析ツール「Clio」を使用して実施された。データは米国労働省のO*NETデータベースの職業カテゴリーに基づいて分類されている。
Anthropicは今後、このインデックスを半年ごとに更新し、AI採用傾向の変化を追跡していく予定だ。
from:Who’s using AI the most? The Anthropic Economic Index breaks down the data
【編集部解説】
Anthropic社が発表した「Economic Index」は、これまで推測の域を出なかったAI活用の実態を、400万件以上の実データから明らかにした画期的な調査といえます。
特に注目すべきは、AIが人間の仕事を「置き換える」のではなく「補完する」ツールとして機能している点です。全体の57%が人間の能力を補強する目的で使用されており、完全な自動化は43%に留まっています。
また、AI活用の二極化が浮き彫りになりました。ソフトウェア開発者のような中~高給与層で活用が進む一方、医師などの超高給与層や飲食業などの低賃金層での活用は限定的です。これは、現在のAI技術の限界と、導入における実務的な障壁を反映していると考えられます。
日本企業への示唆
日本企業にとって重要な示唆は、AIの「補完的活用」にあります。特に、ソフトウェア開発(37.2%)やコンテンツ制作(10.3%)での活用が進んでいることから、これらの分野での積極的な導入検討が望まれます。
一方で、製造業や農林水産業などでの活用は依然として低水準です。これらの分野では、AIの活用方法を根本から見直す必要があるかもしれません。
今後の展望と課題
Anthropicは今後も半年ごとにこの指標を更新する予定です。これにより、AI活用のトレンドをリアルタイムで把握することが可能になります。
ただし、この調査にも限界があることを認識しておく必要があります。例えば、調査対象が英語圏に偏っている可能性や、Claudeユーザーのみのデータである点などです。
企業の対応策
今回の調査結果を踏まえ、企業は以下の点に注目すべきでしょう
- AIを「代替」ではなく「補完」ツールとして位置づける
- 中間管理職層のAIリテラシー向上に注力する
- 業務プロセスの見直しとAI導入の優先順位付けを行う
社会への影響
この調査結果は、AIによる大規模な失業という悲観的なシナリオを否定する一方で、デジタルデバイドの新たな形態を示唆しています。AI活用の格差が、所得格差をさらに拡大させる可能性について、社会全体で議論を深める必要があるでしょう。
【用語解説】
【参考リンク】
Anthropic公式サイト(外部)
Constitutional AIの開発を行うAI企業。Claude AIアシスタントの開発元
Claude AI(外部)
Anthropic社が開発した最新のAIアシスタント。日本語にも対応
O*NET Database(外部)
米国労働省が提供する職業情報データベース。職種の標準分類システム