Adobe Brand Concierge登場、AIエージェントが顧客ごとにウェブサイトをパーソナライズ化

2025年3月19日9:11

AI（人工知能）ニュース

Last Updated on 2025-03-19 10:24 by admin

Adobeは2025年3月18日、ラスベガスで開催された年次イベント「Adobe Summit」において、AIエージェントとオーケストレーション機能を搭載した新製品群を発表した。

主な発表内容
Adobeは「Adobe Experience Platform Agent Orchestrator」を発表し、企業がAdobeおよびサードパーティのAIエージェントを構築、管理、オーケストレーションできるようにした。このプラットフォーム上に構築された10種類の目的特化型AIエージェントが、マーケティングおよびクリエイティブチームの能力を強化し、大規模なパーソナライゼーションを実現する。

また、「Adobe Brand Concierge」という新アプリケーションも発表された。これは企業がAIエージェントを設定・管理し、消費者にパーソナライズされた没入型の会話体験を提供するためのソリューションである。

Brand Conciergeの特徴
Brand Conciergeは、カジュアルな閲覧をハイパーパーソナライズされたテーラーメイド体験に変換する。このソリューションは、Adobe Experience Platformのデータとコンテンツを組み合わせ、自然な会話と視覚的要素を通じて顧客をガイドする。

具体的な活用例として、ホテルチェーンのウェブサイトでは、顧客が特定の場所の設備について質問すると、Brand Conciergeが関連情報をフロントページに表示し、その場所に合わせて他のすべての要素や体験をカスタマイズする。

Adobe Analyticsの新データによると、ジェネレーティブAIソースからの米国小売サイトへのトラフィックは2024年7月から2025年2月の間に1,200%増加し、旅行サイトへは1,700%増加している。

企業間取引（B2B）への対応
Brand Conciergeは、企業対消費者（B2C）と企業間取引（B2B）の両方をサポートするように設計されている。B2Bチームの場合、Brand Conciergeはアカウント関係に基づいてカスタマイズされたコンテンツを提供し、フォローアップミーティングの予約などのタスクをサポートすることで、販売サイクルを最適化する。

パートナーシップ
Adobeは、Acxiom、Amazon Web Services、Genesys、IBM、Microsoft、RainFocus、SAP、ServiceNow、Workdayなどの主要企業と戦略的パートナーシップを結び、様々なAIエージェント間のユースケースのシームレスな実行を確保することを目指している。

from:Adobe’s new AI agents can make personal websites for your customers

【編集部解説】

Adobeが発表した新しいAIエージェント群とBrand Conciergeは、企業のデジタルマーケティングとカスタマーエクスペリエンスの領域に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。今回の発表は、単なるチャットボットの進化ではなく、企業と顧客の関係性を根本から変える可能性を持つテクノロジーと言えるでしょう。

まず注目すべきは、Adobeが「カスタマーエクスペリエンス管理（CXM）」から「AI活用型カスタマーエクスペリエンスオーケストレーション（CXO）」へとパラダイムシフトを宣言している点です。これは単なる言葉の言い換えではなく、顧客体験の設計・提供方法が根本的に変わることを意味しています。

10種類のAIエージェントは、それぞれが特化した機能を持ち、マーケティングチームの作業効率を飛躍的に向上させる可能性があります。例えば、サイト最適化エージェントは、リアルタイムのトラフィックデータを分析し、問題を予測・診断して即座に修正案を提案します。これにより、ウェブサイト管理者は日々の細かな調整作業から解放され、より戦略的な業務に集中できるようになるでしょう。

特に興味深いのは、Brand Conciergeの登場です。従来のチャットボットとの大きな違いは、単に質問に答えるだけでなく、顧客の過去の行動データや好みに基づいてパーソナライズされた体験を提供できる点にあります。例えば、あるホテルチェーンのウェブサイトを訪れた顧客が、過去に特定の場所や設備について関心を示していた場合、Brand Conciergeはその情報を記憶し、次回の訪問時にはそれに関連する情報を先回りして提示することができます。

Adobe Analyticsのデータによると、ジェネレーティブAIソースからの米国小売サイトへのトラフィックは2024年7月から2025年2月の間に1,200%増加し、旅行サイトへは1,700%増加したとのこと。この急増は、消費者がAIを活用した会話型体験に対して急速に受容度を高めていることを示しています。

B2B（企業間取引）の領域でも、Brand Conciergeは大きな可能性を秘めています。B2B取引では、複雑な製品情報の提供や長期的な関係構築が重要ですが、Brand Conciergeはアカウント関係に基づいてカスタマイズされたコンテンツを提供し、フォローアップミーティングの予約などのタスクを自動化することで、販売サイクルを最適化できます。

しかし、このような技術の普及には課題もあります。まず、プライバシーの問題です。顧客データを活用したパーソナライゼーションが進むほど、データの収集・利用に関する透明性と同意の重要性が高まります。また、AIエージェントが自律的に行動することで生じる責任の所在も明確にする必要があるでしょう。

また、人間のマーケティング担当者やカスタマーサポート担当者の役割も変化します。単純な問い合わせ対応はAIに任せ、人間はより複雑で感情的な判断が必要な場面に集中するという役割分担が進むでしょう。

長期的には、このようなAIエージェントの普及により、企業と顧客のコミュニケーションの在り方そのものが変わる可能性があります。24時間365日、一貫したブランドの声で、しかも個々の顧客に合わせたパーソナライズされた対応が可能になれば、顧客ロイヤルティの構築方法も大きく変わるでしょう。

Adobeのこの動きは、マーケティングテクノロジー市場でのSalesforceやServiceNowなどの競合他社との競争を意識したものでもあります。各社がAIエージェントの開発・提供を急ぐ中、Adobeは自社の強みである創造性とデータ分析の統合を前面に打ち出しています。

テクノロジーの進化とともに、マーケティングの世界はますます自動化とパーソナライゼーションが進んでいきます。しかし、最終的には技術そのものではなく、それをどう活用して顧客に価値を提供するかという企業の戦略が成功の鍵を握るでしょう。Adobeの新しいAIエージェントとBrand Conciergeは、その可能性を広げるツールとして注目に値します。

【用語解説】

AIエージェント:
複数のAI技術を組み合わせ、特定の目標達成のために自律的にタスクを実行するシステム。従来のAIと異なり、複数の複雑なタスクを自動的に処理できる。例えるなら、単なる道具ではなく、指示を理解して自分で考え行動する「デジタルアシスタント」のようなものである。

生成AI:
新しいデータやコンテンツを生成することに特化したAI技術。例えば文章作成や画像生成などを行う。AIエージェントが「行動する」のに対し、生成AIは「創造する」と考えるとわかりやすい。

Brand Concierge（ブランドコンシェルジュ）:
Adobeが開発した新しいアプリケーションで、企業がAIエージェントを設定・管理し、消費者にパーソナライズされた会話体験を提供するためのソリューション。

Adobe Experience Platform (AEP):
顧客データを一元管理し、リアルタイムでパーソナライズされた体験を提供するためのプラットフォーム。様々なチャネルからのデータを統合し、顧客プロファイルを作成するための基盤となる。

オーケストレーション:
複数のAIエージェントやシステムを調整・連携させ、全体として調和のとれた動作を実現すること。

カスタマーエクスペリエンスオーケストレーション(CXO):
顧客体験を一貫して管理・最適化するための戦略的アプローチ。複数のチャネルやタッチポイントにわたる顧客とのやり取りを調整し、シームレスで個別化された体験を提供する。

【参考リンク】

Adobe Brand Concierge（外部）
顧客のニーズを先取りした没入感のある会話を通じて、パーソナライズされた顧客体験を創出するAdobeの新サービス。

Adobe Experience Platform（外部）
顧客体験を向上させるための中央集権的かつ接続されたデータ基盤を提供するプラットフォーム。

Adobe Experience Platform Agent Orchestrator（外部）
企業がAdobeおよびサードパーティのAIエージェントを構築、管理、オーケストレーションできるようにする新サービス。

Adobe Summit 2025（外部）
Adobeの年次デジタルエクスペリエンスカンファレンスで、最新の製品発表やトレンドが紹介される業界最大級のイベント。

【編集部後記】

AIエージェントが変える顧客体験の世界。皆さんのビジネスやブランドでは、顧客とのコミュニケーションをどのように設計していますか？Brand Conciergeのような技術が普及すれば、ウェブサイト訪問者一人ひとりに合わせた体験を提供できるようになります。自分が利用者として体験するなら、どんなパーソナライズが嬉しいと感じるでしょうか？また、プライバシーとパーソナライズのバランスについて、どのようにお考えですか？ぜひSNSでご意見をお聞かせください。