Last Updated on 2025-03-28 10:16 by admin
2025年3月25日、イギリスの人気作家リチャード・オスマンは、Metaが著作権で保護された書籍を含む「Library Genesis」(LibGen)データベースを人工知能の訓練に無断で使用していたことに対して批判的な声明を発表した。
LibGenは750万冊以上の書籍と8100万件の研究論文を含むロシア発祥の「シャドーライブラリー」で、2024年にニューヨーク連邦裁判所が著作権侵害で3000万ドル(約24億円)の損害賠償を命じている。
2025年1月、Metaの創業者マーク・ザッカーバーグがLibGenデータセットの使用を承認していたことが明らかになった。これを受け、タナハシ・コーツやサラ・シルバーマンを含む作家グループがMetaを著作権侵害で提訴している。
Metaは著作権のある資料の「公正使用」を主張し、GenAIの開発を継続する姿勢を示している。一方、作家や作家団体は補償と法規制強化を求めている。
同時期に、学術出版社テイラー&フランシスはAIを使用して書籍を英語に翻訳する計画を発表。オランダ最大の出版社Veen Bosch & Keuningも2024年11月にAIを使用した書籍翻訳を開始しており、AI技術の活用と著作権保護のバランスが課題となっている。
from:Richard Osman urges writers to ‘have a good go’ at Meta over breaches of copyright
【編集部解説】
今回のMetaによる著作権侵害問題は、AI開発と創作者の権利保護という二つの価値観の衝突を鮮明に示しています。The Atlanticが公開した裁判所文書によれば、Meta社内のコミュニケーションから、同社が合法的に書籍データを取得する方法を検討していたものの、「unreasonably expensive(不当に高額)」で「incredibly sluggish(信じられないほど遅い)」という理由で、最終的にマーク・ザッカーバーグCEOの承認を得てLibGenの海賊版コンテンツを使用する道を選んだことが明らかになっています。
LibGenの規模の大きさからも、AIトレーニングにおける著作権侵害の深刻さがうかがえます。リチャード・オスマンをはじめ、エマ・ドノヒュー、マイケル・リビングストン、アリエット・ド・ボダールなど多くの作家が自分の作品がLibGenに無断で収録されていることを確認し、強く抗議しています。
Meta側は米国の「フェアユース(公正使用)」の原則で自社の行為を正当化しようとしていますが、イギリスの作家協会(Society of Authors)は、商業目的での使用はフェアユースに該当しないと強く反論しています。特に英国の法律では、許可なく著作物をスクレイピング(自動収集)することは明確に違法とされています。
興味深いのは、Meta社内の議論において、Xavier Martinetというリサーチエンジニアが「ask forgiveness, not for permission(許可を求めるよりも、後で謝罪する方がよい)」という姿勢を示していたことです。これは大手テック企業がイノベーションの名の下に法的リスクを取る傾向を象徴しているといえるでしょう。
この問題の影響範囲は非常に広く、Meta傘下のプラットフォームを利用する何億人ものユーザーが、知らず知らずのうちに海賊版コンテンツで訓練されたAIと日常的に接していることになります。
テクノロジーの進化とクリエイターの権利保護のバランスをどう取るかという課題は、今後ますます重要になってくるでしょう。AIの発展によって新たな創作支援ツールや翻訳技術が生まれる可能性がある一方で、創作者への適切な対価の支払いと権利の尊重が不可欠です。
長期的な視点で見れば、この問題はAIと著作権に関する新たな法的枠組みの必要性を示唆しています。各国政府は著作権法を強化し、大手テクノロジー企業に対する罰則を設けるなど、より強力な法整備を進める必要があるかもしれません。
私たちユーザーにとっても、日常的に使用するAIサービスがどのようなデータで訓練されているのか、その背景を理解することが重要になってきています。便利さと創造性の源泉である著作物の価値、その両方を尊重する社会のあり方を考える時期に来ているのではないでしょうか。
【用語解説】
Library Genesis(LibGen):
ロシア発祥の「シャドーライブラリー」で、750万冊以上の書籍と8100万件の学術論文を無料で提供する海賊版データベース。
シャドーライブラリー:
著作権で保護された書籍や学術論文を無許可でデジタル化し、無料で提供するオンラインデータベース。
フェアユース(公正使用):
米国の著作権法における概念で、教育や批評などの目的で著作物を一定の条件下で許可なく使用できる権利。商業目的での使用は通常フェアユースに該当しない。
スクレイピング:
ウェブサイトやデータベースから自動的にデータを収集する技術。
【参考リンク】
Meta(外部)
Metaの公式サイト。同社の製品、サービス、経営陣に関する情報を提供している。
Richard Osman – Penguin Random House(外部)
リチャード・オスマンの公式著者ページ。彼の著書や経歴に関する情報が掲載されている。
テイラー&フランシス(外部)
学術書出版社テイラー&フランシスの公式サイト。学術誌や書籍のカタログを提供している。