innovaTopia

ーTech for Human Evolutionー

Meta AI、EUユーザーデータの学習利用を開始 – 米国から2年遅れの欧州展開とプライバシー規制の攻防

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-15 14:29 by admin

Metaは2025年4月14日、EUのユーザーが公開した投稿やコメント、Meta AIとのやり取りなどのデータを使用して同社のAIモデルの学習を開始すると発表した。この決定は、昨年Meta AIの欧州展開を延期した後の再開となる。

Metaによると、学習に使用されるのは18歳以上のユーザーの公開コンテンツのみで、友人や家族とのプライベートメッセージは含まれない。同社は今週からEUのユーザーに対し、アプリ内通知やメールを通じてこの学習プロセスについて通知を開始する予定だ。通知にはオプトアウトのためのフォームへのリンクが含まれる。

Metaはこの学習の目的について、「ヨーロッパの方言や口語表現、地域固有の知識、各国特有のユーモアや皮肉の使い方など、ヨーロッパ社会の多様な特性や複雑さを理解するため」と説明している。特にテキスト、音声、ビデオ、画像を扱うマルチモーダルAIの機能向上において重要だとしている。

Meta AIは2025年3月にEUでテキストベースの機能のみで正式にリリースされた。これは2023年に米国で開始されてから約2年遅れたものだった。当初は2024年6月に予定されていたが、アイルランドデータ保護委員会(DPC)からの要請とウィーンを拠点とするプライバシー擁護団体NOYB(None Of Your Business)からの苦情申し立てを受け延期されていた。

Metaは、欧州データ保護委員会(EDPB)が2024年12月に同社の当初のアプローチが法的義務を満たしていると確認したことを受け、今回の決定に至ったとしている。同社はGoogleやOpenAIなど他の企業もすでに欧州ユーザーのデータを使用してAIモデルを学習させていると指摘している。

なお、Metaは2024年9月に英国ユーザーのデータを使用したAI学習を再開しており、今回のEUでの展開はそれに続くものとなる。Meta AIはEUでは41カ国と21の海外領土で利用可能になる予定だ。同社は2023年に、2007年以降の成人Facebookユーザーの公開共有されたすべてのテキストと写真を使用してAIを学習させたことを認めている。

from:Meta AI will soon train on EU users’ data

【編集部解説】

MetaがEUでのAI学習データ収集を再開する動きは、グローバルテック企業とEUの厳格なプライバシー規制との間の長い交渉の結果と言えるでしょう。この決定は単なるデータ収集の再開以上の意味を持っています。

欧州のデータ保護規制、特に一般データ保護規則(GDPR)は世界で最も厳格なプライバシー保護法の一つとして知られています。Metaがこの規制の下でAI学習を進められるようになったことは、同社がEUの規制当局との間で一定の合意に達したことを示しています。

注目すべきは、Metaが欧州データ保護委員会(EDPB)から「当初のアプローチが法的義務を満たしている」との見解を得たと主張している点です。これは、AI開発とプライバシー保護のバランスをどう取るかという世界的な議論において一つの参考事例となるでしょう。

オプトアウトの仕組みを提供する点も重要です。Metaはアプリ内通知やメールを通じてユーザーに情報を提供し、データ使用を拒否できるフォームへのリンクを含めるとしています。これは「同意に基づくデータ処理」というGDPRの基本原則に沿った対応と言えます。

しかし、オプトアウト方式を採用している点には注意が必要です。デフォルトではユーザーのデータが使用される設定になっており、積極的に拒否の意思表示をしない限りデータは収集されます。プライバシー擁護団体NOYBなどからはオプトイン方式の方が望ましいとの意見も出ています。

Meta AIは2025年3月にようやくEUでテキストベースの機能のみで正式にリリースされましたが、これは2023年の米国リリースから約2年の遅れがあります。この遅れはEUの規制環境の厳しさを示すと同時に、Metaのような大手テック企業でさえも各地域の規制に適応せざるを得ない状況を表しています。

アイルランドデータ保護委員会(DPC)は最近、イーロン・マスク氏のxAI社が開発したGrokの学習方法についても調査を開始しています。これはEUの規制当局がAI開発企業全体に対して一貫した姿勢で臨んでいることを示しています。

Meta以外にも、GoogleやOpenAIなどの競合他社もすでに欧州ユーザーのデータを使用してAIモデルを学習させていると同社は指摘しています。これは「業界標準の慣行」という主張につながりますが、各社の具体的なデータ収集・処理方法には違いがあるかもしれません。

この動きが示唆するのは、AIの開発競争が激化する中で、データアクセスがますます重要な競争優位性になっているという事実です。特に多言語・多文化環境であるヨーロッパのデータは、グローバルAIモデルの性能向上に不可欠と考えられています。

私たちユーザーにとっての教訓は、自分のデータがどのように使われるかについて常に注意を払い、必要に応じてオプトアウトの権利を行使することの重要性です。テクノロジー企業は常により多くのデータを求めますが、その使用目的と範囲を理解することが私たちの責任でもあります。

今後も、AI開発とプライバシー保護のバランスをめぐる議論は続くでしょう。EUでのMetaの取り組みは、他の地域での規制枠組み構築にも影響を与える可能性があります。日本を含むアジア諸国も、独自のAI規制を検討する際の参考にするかもしれません。

【用語解説】

Meta AI: Metaが開発した人工知能チャットボット。Googleの「Gemini」やOpenAIの「ChatGPT」と競合するサービスである。2023年に米国でデビューし、2025年3月にEUでテキストベースの機能のみでリリースされた。

GDPR(一般データ保護規則): EUで施行されている個人データ保護に関する法的枠組み。企業がEU市民の個人データを収集・処理する方法に厳格なルールを設けている。

オプトイン/オプトアウト
著作権保護において、権利者が明示的に許可したもののみ使用できるのがオプトイン方式。逆に明示的に拒否しない限り著作物の使用を許可する仕組みがオプトアウト方式。

マルチモーダルAI: 画像、音声、テキストなど異なる種類(モード)の情報を組み合わせて処理できるAI技術。例えば、写真を見せながら質問すると、写真の内容を理解した上で回答できる。

【参考サイト】

Meta(公式サイト)(外部)
Meta(旧Facebook)の公式サイト。同社のビジョン、製品、取り組みについての情報を提供している。

Meta AI(外部)
Metaの人工知能研究と製品に関する公式サイト。同社のAI技術、研究成果、オープンソースツールについての情報がある。

欧州データ保護委員会(EDPB)(外部)
EUのデータ保護法の一貫した適用を確保するための独立した欧州機関。GDPRに関するガイドラインや決定を公表している。

アイルランドデータ保護委員会(DPC)(外部)
アイルランドの独立した法定機関で、個人データの保護とプライバシー権の擁護を担当している。

NOYB(None Of Your Business)(外部)
ヨーロッパのプライバシー権を擁護するNGO。GDPRに基づく苦情申し立てや法的措置を通じて活動。

産業技術総合研究所(AIST)- マルチモーダルAI解説(外部)
マルチモーダルAIの基本概念と応用について日本の研究機関による解説。

【関連記事】

AI(人工知能)ニュースをinnovaTopiaでもっと読む

author avatar
りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
ホーム » AI(人工知能) » AI(人工知能)ニュース » Meta AI、EUユーザーデータの学習利用を開始 – 米国から2年遅れの欧州展開とプライバシー規制の攻防