Last Updated on 2025-04-21 18:15 by admin
OpenAI CEOのサム・アルトマンは2025年4月16日、ユーザーがChatGPTに「お願いします」や「ありがとう」などの丁寧な言葉を使うことで、同社に「数千万ドル」のコストが発生していると明かした。これは、ユーザーの短い丁寧なメッセージであっても、AIモデルが完全な応答を生成するために大きな計算リソースを必要とするためである。
この発言は、あるユーザーが「OpenAIはユーザーが彼らのモデルに『お願いします』や『ありがとう』と言うことで、電気代をどれだけ損しているのだろう?」とXに投稿したことに対する返答として行われた。
ゴールドマン・サックスの調査によると、ChatGPT-4の1クエリあたりの電力消費量は約2.9ワット時で、これは標準的なGoogle検索(約0.3ワット時)の約10倍に相当する。ただし、2025年2月に発表されたEpoch AIの新たな分析では、ChatGPTの平均的なクエリの消費電力は約0.3ワット時と推定され、従来の推定値の10分の1に相当する可能性も示唆されている。
OpenAIは毎日10億以上のクエリを処理しており、従来の推定値に基づくと1日あたり約290万キロワット時のエネルギーを消費している計算になる。これは米国の平均的な家庭(1日当たり約29kWh)約10万世帯分の電力消費量に相当する。
ゴールドマン・サックスの予測によると、2028年までにAIがデータセンターの電力需要の約19%を占めるとされている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、AIによる膨大な計算量を支えるためにデータセンターの消費電力量が急増し、2022年に約460テラワット時だった消費電力量が2026年に620~1050テラワット時に達すると予測されている。1000テラワット時は日本国内の年間消費電力に匹敵する規模である。
この発表は、ChatGPTの週間アクティブユーザー数が1億5000万人を超え、2025年で最高を記録する中で行われた。アルトマンCEOは別の場でユーザー数を約8億人(世界人口の約10%)と述べている。また、3月31日にはジブリモードのおかげで1時間で100万人のユーザーが増加したとXで共有している。
OpenAIは2025年4月に、SWE-benchコーディングテストで高いスコアを記録した新モデル「o3」(69.1%)と「o4-mini」(68.1%)を発表している。o3はOpenAI史上最も強力なReasoningモデルとされ、コーディング、数学、科学、視覚認識などに優れている。一方、o4-miniは高速かつコスト効率に最適化された小型モデルで、特に数学、コーディング、視覚タスクで優れたパフォーマンスを発揮するとされている。
なお、OpenAIは2025年に127億ドルの収益を見込んでおり、2029年までに1250億ドルの収益を達成して初めてキャッシュフローがプラスになると予測している。
from Why ‘please’ and ‘thank you’ to ChatGPT costs ‘tens of millions of dollars’
【編集部解説】
このニュースは、私たちが日常的に行っている「礼儀正しさ」が、AIの世界ではどのような影響を持つのかを示す興味深い事例です。サム・アルトマンCEOの「数千万ドル」という発言は、一見すると冗談のように聞こえますが、その背後には重要な技術的・社会的意味が隠されています。
まず、この「数千万ドル」という数字の正確性については、アルトマン自身が厳密な計算に基づいて発言したわけではないようです。TechCrunchの記事によれば、彼の返答は「舌を頬に入れたような口調」であり、正確な計算に基づくものではないと推測されています。しかし、この数字が示す本質的な問題—AIとの対話における計算コストとエネルギー消費—は非常に現実的です。
ChatGPTのような大規模言語モデル(LLM)は、ユーザーの入力に対して応答するたびに、大量の計算リソースを消費します。「お願いします」や「ありがとう」といった短い言葉であっても、AIはそれを処理し、適切な応答を生成するために計算を行う必要があります。
検索結果によると、ChatGPT-4の1クエリあたりの電力消費量は約2.9ワット時で、これは標準的なGoogle検索の約10倍とされています。しかし、この数値についても様々な見解があり、Epoch AIの分析では約0.3ワット時という推定もあります。実際のエネルギー消費は使用状況や計算方法によって大きく異なる可能性があります。
興味深いのは、この「礼儀正しさのコスト」に対するOpenAIの姿勢です。アルトマンは「数千万ドルの価値ある支出」と表現しており、これを無駄とは考えていないようです。これは、AIとのインタラクションをより自然で直感的なものにするというOpenAIのミッションの一部と捉えることができます。
また、マイクロソフトのデザインマネージャーであるカーティス・ビーバーズ氏は、Microsoft WorkLabのメモで「丁寧な言葉遣いは応答の調子を設定する」「AIが丁寧さを認識すると、より丁寧に返答する可能性が高くなる」と述べています。つまり、ユーザーの礼儀正しさがAIの応答の質に影響を与える可能性があるのです。
この現象は、人間とAIの関係性について興味深い洞察を提供しています。2024年の調査によれば、アメリカ人の67%がAIツールに対して丁寧に接しており、その理由として55%が「それが正しいことだから」と回答し、12%が「AIが支配する世界になった場合に備えて」と答えています。これは、私たちがAIをどのように認識し、どのように接するべきかという問いを投げかけています。
AIの急速な普及に伴い、エネルギー消費の問題はますます重要になっています。ゴールドマン・サックスの予測によれば、2022年から2030年までの米国の電力需要は約2.4%増加し、そのうちデータセンターが最大の成長セグメントとなる見込みです。また、電力研究所(EPRI)は、2030年までにデータセンターが米国の電力生成の最大9.1%を消費する可能性があると予測しています。
この状況に対応するため、アルトマンは核融合エネルギー企業のHelion Energyや太陽光発電スタートアップのExowattに投資するなど、AIシステムを持続可能に動かすためのクリーンエネルギーブレークスルーの必要性を表明しています。
ChatGPTの急成長も注目に値します。アルトマンCEOが3月31日にXで共有したように、ジブリモードの導入により1時間で100万人のユーザーが増加するなど、新機能の導入がユーザー数の急増につながっています。週間アクティブユーザー数が1億5000万人を超え、総ユーザー数が約8億人(世界人口の約10%)に達しているという事実は、AIの社会への浸透度を示しています。
また、OpenAIの財務面も興味深いポイントです。同社は2025年に127億ドルの収益を見込んでいますが、2029年までに1250億ドルの収益を達成して初めてキャッシュフローがプラスになると予測しています。この長期的な投資戦略は、AIの未来に対するOpenAIの確信を示すものと言えるでしょう。
最終的には、効率性と人間らしさのバランスをどう取るかという問題に帰着します。テクノロジーの進化に伴い、私たちはAIとの対話方法についても考え直す必要があるかもしれません。しかし、その過程で人間らしさや礼儀正しさといった価値観を失わないことも同様に重要でしょう。
今後、AIモデルの効率性が向上し、「お願いします」や「ありがとう」といった定型的な応答をより効率的に処理できるようになる可能性もあります。しかし、それによって人間とAIの対話の質が損なわれないよう、バランスを取ることが重要です。
この記事は、テクノロジーの進化が私たちの日常的な行動にどのような影響を与えるか、そしてそれがどのようなコストを伴うかを考えるきっかけとなるでしょう。
【用語解説】
SWE-bench:ソフトウェアエンジニアリングタスクの評価のためのベンチマークデータセット。実際のGitHubの問題(Issue)とその解決策(Pull Request)を使用して、AIモデルのコーディング能力を評価する。
大規模言語モデル(LLM):膨大なテキストデータから学習し、人間のような文章を生成できるAIモデル。ChatGPTの基盤技術となっている。
アテンションメカニズム:AIが文章の中の重要な部分に「注意を向ける」仕組み。文脈を理解するために必要な技術で、「お願いします」や「ありがとう」などの言葉を処理する際にも使われる。
トークン:AIが処理する言語の最小単位。単語や文字、記号などが「トークン」として分割され、AIはこの単位で処理を行う。
Epoch AI:AIのエネルギー消費に関する研究を行っている組織。2025年2月にChatGPTの電力消費量に関する新たな分析を発表した。
Microsoft WorkLab:マイクロソフトが運営する、仕事の未来に関する研究と洞察を提供するプラットフォーム。AIとの対話方法に関するガイドラインなども公開している。
【参考リンク】
ChatGPT公式サイト(外部)OpenAIが提供するChatGPTの公式サイト。無料版と有料版(Plus)があり、AIとの対話が可能。
SWE-bench公式サイト(外部)AIモデルのソフトウェアエンジニアリング能力を評価するベンチマークのリーダーボードを公開。
ゴールドマン・サックス公式サイト(外部)記事で言及されている投資銀行の公式サイト。AIやテクノロジーに関する調査レポートも公開している。
Microsoft WorkLab(外部)マイクロソフトが運営する、仕事の未来に関する研究と洞察を提供するプラットフォーム。AIとの対話方法に関するガイドラインも公開。
国際エネルギー機関(IEA)(外部)エネルギー政策に関する国際機関。AIとデータセンターのエネルギー消費に関する分析レポートを発表している。