Last Updated on 2025-04-22 10:19 by admin
アリババグループの研究部門DAMOアカデミーが開発した膵臓がん検出AI「DAMO Panda(ダモパンダ)」が、米国食品医薬品局(FDA)から「画期的医療機器(breakthrough device)」の指定を受けた。アリババは2025年4月18日にこの発表を行った。
この指定により、DAMO Pandaは迅速な審査・承認プロセスを受けることが可能となる。DAMO Pandaは2023年11月に医学ジャーナル「Nature Medicine」に掲載された論文で初めて公開された深層学習モデルで、3,208人の膵臓がん患者の腹部非造影CT画像で訓練されている。
テスト結果では、放射線科医と比較して34.1%高い感度(92.9%)と6.3%高い特異度(99.9%)で膵臓がんを識別できることが示された。実際に20,530人の患者を対象とした実世界での検証でもこの性能が確認されている。
アリババはすでに中国全土でDAMO Pandaの試験運用を開始しており、浙江省寧波市の寧波大学附属人民病院では40,000人をスクリーニングし、6件の早期段階のケースを特定した。そのうち2件は通常の検査では見逃されていたものだった。
膵臓がんは悪性腫瘍の中で最も致死率が高く、5年生存率は12%である。その主な理由は、80%以上の患者が進行した段階で診断されるためだが、早期に発見されれば外科的切除で治癒が可能である。
DAMOアカデミーは2017年に設立され、AIやオープンソースチップアーキテクチャRISC-Vなどの分野に焦点を当てている。今後、安康医療技術(Ankon Medical Technologies)などの企業と提携して国内外でこのAIモデルを推進していく予定である。
from:Alibaba’s AI cancer detection tool clears FDA hurdle for faster approval process
【編集部解説】
アリババのDAMOアカデミーが開発した膵臓がん検出AI「DAMO Panda」がFDAから「画期的医療機器」の指定を受けたことは、医療AIの分野における重要なマイルストーンといえるでしょう。この指定は2025年4月17日に行われ、中国のテック企業が開発した医療AIとしては画期的な成果となりました。
膵臓がんは「サイレントキラー」と呼ばれるほど初期症状が現れにくく、発見時には既に進行していることが多い難治性のがんです。5年生存率は12%と低く、その主な理由は80%以上の患者が進行した段階で診断されるためです。しかし、早期に発見できれば外科的切除による治癒が可能であり、ここにDAMO Pandaの真価があります。
DAMO Pandaの優れている点は、非造影CT画像から膵臓がんの微細な病変を検出できることです。造影剤を使用しないため、患者への負担が少なく、造影剤によるアレルギー反応のリスクもありません。また、コスト面でも有利であり、より広範な検診への応用が期待できます。
特筆すべきは、このAIが放射線科医よりも34.1%高い感度と6.3%高い特異度で膵臓がんを識別できる点です。具体的には92.9%の感度と99.9%の特異度を達成しており、20,530人の患者を対象とした実世界での検証でもこの性能が確認されています。医療AIの実用化において、専門医を上回る性能は極めて重要な指標となります。
すでに中国での実証実験では、浙江省寧波市の寧波大学附属人民病院で40,000人をスクリーニングし、6件の早期がんを発見しています。そのうち2件は通常検査では見逃されていたケースであり、AIの有効性を示す具体的な事例となっています。
FDAの「画期的医療機器」指定は、生命を脅かす疾患の診断や治療に革新をもたらす可能性のある医療機器に与えられる特別なステータスです。この指定を受けた医療機器は、FDAとの早期かつ頻繁なコミュニケーションが可能になり、審査プロセスが優先的に進められます。2024年9月30日時点で、FDAは1,041の医療機器にこの指定を与えています。
DAMO Pandaの可能性は膵臓がんの検出だけにとどまりません。肺がん、乳がん、肝臓がんなど他のがん種にも応用できる可能性があります。
また、DAMOアカデミーは医療リソースの乏しい地域でこのツールを使用する計画も進めています。AIツールはハードウェアと異なり、国境を越えて即座に展開でき、新しいデータセットに適応することが可能です。これにより、医療インフラの格差を飛び越えて、高度な診断技術を世界中に提供できる可能性があります。
この技術の市場への影響も見逃せません。FDAの指定発表を受けて、アリババの株価にも影響があったと考えられます。投資家たちは、医療AI分野におけるアリババの進出を好意的に評価しているようです。
しかし、いくつかの課題も残されています。このAIモデルが多様な人種や異なる撮影装置間でどれだけ一般化可能か、管理された病院環境の外でも精度を維持できるかといった点は、今後検証が必要です。また、AIによる診断は「ブラックボックス」的な側面もあり、その判断プロセスの透明性確保も重要な課題となるでしょう。
医療AIの発展は国境を越えた人類共通の課題解決に貢献するものであり、今回のFDA指定はその重要性を示す象徴的な出来事といえます。テクノロジーの進化が、私たち一人ひとりの健康と命を守る未来は、すでに始まっているのです。
【用語解説】
膵臓がん(膵臓癌):
膵臓に発生する悪性腫瘍である。膵臓は胃の後ろに位置する魚の形をした臓器で、消化酵素やインスリンなどのホルモンを分泌する。膵臓がんは初期症状が現れにくく「サイレントキラー」とも呼ばれ、5年生存率は約12%と低い。ステージIで発見できれば約3割が10年以上生存できる。
画期的医療機器指定(Breakthrough Device Designation):
米国FDAが創設した制度で、生命を脅かす疾患や不可逆的に衰弱させる疾患の治療・診断に用いる医療機器に対して与えられる。この指定を受けると審査プロセスが迅速化される。2024年9月30日時点で、1,041の医療機器がこの指定を受けている。
深層学習モデル(Deep Learning Model):
人工知能の一種で、人間の脳の神経回路を模倣したニューラルネットワークを多層に重ねた構造を持つ。大量のデータから特徴を自動的に学習し、パターンを認識する能力に優れている。DAMO Pandaの場合、3,208人分の膵臓がん患者のCT画像から特徴を学習している。
非造影CT(Non-contrast CT):
造影剤を使用せずに行うCT検査。造影剤によるアレルギー反応のリスクがなく、コストも低いため広く利用されている。DAMO Pandaは非造影CTでも高精度な診断が可能なため、より広範な検診への応用が期待できる。
感度(Sensitivity):
実際に疾患がある人を正しく陽性と判定する割合。
特異度(Specificity):
実際に疾患がない人を正しく陰性と判定する割合。
非造影CT(Non-contrast CT):
造影剤を使用せずに行うCT検査。造影剤によるアレルギー反応のリスクがなく、コストも低いため広く利用されています。
【参考リンク】
アリババグループ(外部)
世界最大級のBtoB電子商取引プラットフォームを運営する中国の巨大テクノロジー企業
DAMOアカデミー(外部)
アリババグループの研究機関で、AI、量子コンピューティング、RISC-V等の先端技術研究
【編集部後記】
膵臓がんの早期発見は医療現場における長年の課題でしたが、AIがその壁を打ち破りつつあります。皆さんの周りにも、定期健診の重要性を理解していない方はいませんか?最新の統計によれば、膵臓がんでもステージIで発見できれば約3割が10年以上生存できるのです。AIによる診断支援が普及すれば、がん検診の精度向上や医療リソースの最適化につながるかもしれません。テクノロジーの進化が私たち一人ひとりの健康を守る未来は、すでに始まっています。皆さんは医療とAIの融合について、どのような可能性を感じますか?