Last Updated on 2025-04-22 10:32 by admin
2025年4月19日(土曜日)、中国・北京の亦庄(イージャン)経済技術開発区で世界初となるヒューマノイドロボット向けハーフマラソン大会が開催された。この大会は「人形机器人半程马拉松(人型ロボットハーフマラソン)」と呼ばれ、人間ランナーの「北京亦庄半程马拉松」と並行して実施された。
大会には中国の大学、企業、研究機関から20チームが参加し、約12,000人の人間ランナーも別コースで走った。参加条件は二足歩行のヒト型ロボットで、完全自立型もしくは遠隔操作型に限られた。ロボットはレース中にバッテリー交換やバックアップロボットへのバトン渡しが可能だが、その場合は10分のタイムペナルティが課された。制限時間は3時間30分だった。
優勝したのは深セン企業の优必选科技(UBTECH)と北京人形机器人创新中心(北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンター)が共同開発した「天工ウルトラ(Tiangong Ultra)」で、21.0975キロのコースを2時間40分42秒で完走した。このロボットは身長180cm、体重55kg、最高速度は時速12kmに達する。軽量構造、統合された関節、空冷システムを備え、レース中に3回のバッテリー交換を行った。
コースには平地、9度の斜面、砂利、芝生など様々な地形が含まれており、ロボットの適応性と持続的安定性をテストする設計となっていた。参加した20チームのロボットのうち、完走できたのは情報源によって4〜6体と報告されている。一部のロボットはスタート直後に制御不能となり転倒したり、走行中に電池切れで倒れるなどのハプニングも発生した。
中国のロボット企業Unitree Roboticsは、同社のG1ロボットがレース開始直後に倒れる映像が拡散したことについて、公式参加していないと説明した。同社は現在、ヒューマノイドロボット格闘ライブ配信プロジェクトに注力しており、4月下旬から5月上旬に世界初の配信を予定している。
【編集部解説】
北京で開催された世界初のヒューマノイドロボットハーフマラソンは、ロボット技術の進化を示す象徴的なイベントとなりました。この大会は単なるスポーツイベントではなく、二足歩行ロボットの実用化に向けた重要な技術検証の場でもあったのです。
複数の情報源を確認すると、参加ロボット数は20チームとされていますが、完走できたのは4〜6体と報告によって異なります。これは、現在のヒューマノイドロボット技術がまだ発展途上であることを如実に物語っています。
優勝した「天工ウルトラ」の性能は特筆すべきものでした。2時間40分42秒という完走タイムは人間のエリートランナー(優勝者は1時間2分)には及ばないものの、一般的なアマチュアランナーの記録と比較しても決して見劣りしない水準です。このロボットは長い脚と人間のマラソン走行パターンを模倣する特殊なアルゴリズムを採用しており、これが安定した走行を可能にしたと報告されています。
注目すべきは、多くのロボットが人間のサポートを必要としていた点です。TechCrunchの報道によれば、天工ウルトラも前方を走る人間の背中に取り付けられた信号装置を追いかけることで動作していました。また、他のロボットの多くは人間によるリモートコントロールで操作されていたようです。これは完全自律型のヒューマノイドロボットの実現にはまだ課題が残されていることを示しています。
このイベントは中国政府が推進する「ロボット強国」戦略の一環とも言えるでしょう。2023年に発表された政策文書によれば、中国工業情報化部はヒューマノイドロボット分野を「技術競争の新たなフロンティア」と位置づけ、2025年までに量産体制の確立と重要部品のサプライチェーン構築を目標としています。
ヒューマノイドロボットの実用化に向けた課題は主に三つあります。一つ目はエネルギー効率です。天工ウルトラは21kmを走るのに3回のバッテリー交換が必要でした。二つ目は耐久性と安定性で、多くのロボットがスタート直後に転倒したり、過熱したりする問題が発生しました。三つ目はコストで、これらの高度なロボットは依然として非常に高価であり、一般普及には至っていません。
このイベントの意義は、技術的なショーケースとしての側面だけでなく、実環境でのロボット技術の検証という点にもあります。様々な地形(平地、斜面、砂利、芝生)を含むコースは、ロボットの環境適応能力をテストする絶好の機会となりました。
一方で、オレゴン州立大学のアラン・ファーン教授が指摘するように、二足歩行ロボットの走行技術自体は5年以上前から開発・実証されていたものであり、技術的ブレークスルーというよりは既存技術の応用と洗練が主な焦点だったとも言えます。
今回のイベントは、ヒューマノイドロボットの現状と課題を明らかにすると同時に、この分野における中国の技術力と国家的な取り組みを世界にアピールする場となりました。北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターの最高技術責任者である唐健氏が「西洋のロボット企業は天工のスポーツ的成果に匹敵していない」と述べたように、この分野での国際競争も激化しています。
将来的には、こうしたロボット技術の進化が工場や建設現場、災害救助、介護など様々な分野での実用化につながることが期待されます。ただし、今回のイベントで明らかになったように、完全自律型の二足歩行ロボットの実現にはまだ時間がかかりそうです。
【用語解説】
ヒューマノイドロボット:
人間の形状を模した二足歩行ロボットのこと。日本では「ASIMO」(ホンダ)や「ATLAS」(ボストン・ダイナミクス)などが有名である。
実体化AI(Embodied AI):
物理的な身体を持ち、現実世界で行動できるAIシステム。従来の仮想空間内だけで動作するAIとは異なり、センサーを通じて環境を認識し、物理的に行動することができる。
北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンター:
2023年11月に北京経済技術開発区に設立された、ヒューマノイドロボット技術の開発と産業化を促進するための研究機関。2024年10月には国家レベルの「国家-地方共同建設ヒューマノイドロボットイノベーションセンター」に格上げされた。
天工(Tiangong):
北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターが開発した汎用ヒューマノイドロボットプラットフォーム。「天工」は中国語で「神の技術」を意味し、高度な工芸や技術を表す言葉である。
UBTECH(优必选科技):
2012年に設立された中国のロボット企業。教育用ロボットから商業用ヒューマノイドロボットまで幅広い製品を開発している。日本では教育分野での展開が進んでいる。
Unitree Robotics:
2016年に設立された中国のロボット企業。主に四足歩行ロボットで知られるが、近年はヒューマノイドロボットの開発も進めている。創業者の王興振氏は「中国のボストン・ダイナミクス」と呼ばれることもある。
Xiaomi(小米):
中国の大手電子機器メーカー。スマートフォンやスマート家電で知られるが、近年はロボット事業にも参入している。2023年には独自のヒューマノイドロボット「CyberOne」を発表した。
【参考リンク】
北京経済技術開発区(Beijing E-Town)(外部)
北京市南東部に位置する国家級経済技術開発区。ロボット産業を含む先端技術産業の集積地として知られている。
UBTECH公式サイト(外部)
ヒューマノイドロボットや教育用ロボットを開発・製造する中国企業。北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターの主要パートナー。
Unitree Robotics公式サイト(外部)
四足歩行ロボットとヒューマノイドロボットを開発する中国企業。今回のマラソンでは公式参加していないと表明。
Xiaomi(小米)公式サイト(外部)
スマートフォンやIoT製品で知られる中国の大手テック企業。北京ヒューマノイドロボットイノベーションセンターのパートナー企業。
【参考動画】
【編集部後記】
ヒューマノイドロボットが21キロを走破する時代が到来しました。かつてSF映画の中だけの存在だった二足歩行ロボットの進化は、私たちの想像以上に速いのかもしれません。皆さんは、こうしたロボットが日常生活に溶け込む未来をどう思いますか?例えば、東京マラソンにロボットランナーが参加する日が来たら、応援したくなりますか?あるいは、家事や介護を手伝うロボットがあれば、どんな機能を期待しますか?コメント欄で皆さんの考えをぜひ聞かせてください。テクノロジーの未来は、私たち一人ひとりの想像力が形作っていくものなのですから。