Last Updated on 2025-05-12 14:06 by admin
2025年4月24日、アメリカの大手デジタルメディア企業Ziff Davis(ジフ・デイビス)は、人工知能開発企業OpenAIを著作権侵害などでデラウェア州連邦地方裁判所に提訴した。
Ziff Davisは、MashableやPCMag、CNET、IGNなど45以上のメディアブランドを傘下に持ち、月間2億9200万以上のユーザーを抱える世界有数のデジタルパブリッシャーである。
訴状によれば、OpenAIはZiff Davisが運営する各種ウェブサイトの記事やコンテンツを無断で収集し、自社のAIモデル、特にChatGPTの学習や応答生成に利用したとされる。
Ziff Davisは、OpenAIが自社の著作権保護されたコンテンツを「意図的かつ継続的に」コピーし、派生物を生成していると主張している。また、Ziff Davisは自社ウェブサイトに対しロボットによるクロール禁止の指示(robots.txt)を明示していたにもかかわらず、OpenAIがこれを無視してデータを取得したと訴えている。
Ziff Davisは、数億ドル規模の損害賠償と、OpenAIによる自社コンテンツを利用したAIモデルおよびデータセットの使用停止・削除を求めている。
OpenAI側は「AIモデルは公開情報を活用し、フェアユースの範囲内で開発されている」と主張しており、現時点で公式なコメントは控えている。
今回の訴訟は、2023年末のニューヨーク・タイムズによるOpenAIおよびマイクロソフト提訴などと並び、AI開発における著作権の扱いを巡る国際的な法的論争の一環となっている。
from:Publisher of PCMag and Mashable Sues OpenAI
【編集部解説】
今回のZiff DavisによるOpenAI提訴は、生成AIの発展と著作権の関係を巡る国際的な議論の中でも、特に注目度の高い事例です。大規模言語モデルの開発には膨大なテキストデータが不可欠ですが、その多くがインターネット上の公開コンテンツから取得されています。
Ziff Davisは、自社のニュース記事やレビューが無断でAIの訓練データとして利用され、しかもrobots.txtによるクロール禁止設定が無視されたと主張しています。これは、AI開発企業がどこまで公開情報を自由に利用できるのか、という根本的なルール作りの問題を社会に突き付けています。
OpenAIは「フェアユース」の原則を根拠に、公開情報の利用は合法であると主張していますが、米国でもこの点はまだ判例が十分に確立されていません。今回の訴訟の行方は、今後のAI開発やコンテンツビジネスの在り方に大きな影響を及ぼす可能性があります。
特に、メディア企業のビジネスモデルは広告収入や有料会員によって成り立っており、AIによる記事要約や情報抽出が読者の流入や収益にどのような影響を与えるのか、慎重な議論が求められます。
一方で、AP通信やVox Mediaのように、OpenAIとライセンス契約を結ぶことで新たな収益モデルを模索する動きも広がっています。対照的に、ニューヨーク・タイムズやZiff Davisのように法的手段に訴える企業もあり、業界全体で対応が分かれています。今後は、AI開発企業とコンテンツホルダーの間で、より透明性の高いデータ利用契約や、適正な対価の仕組み作りが求められるでしょう。
また、日本国内でも2024年に文化庁が「AIと著作権ガイドライン」を改定し、AIによる情報利用の透明性や権利者保護の議論が進んでいますが、要約機能などの新たな技術に対する法的整理はまだ十分とは言えません。今回の訴訟の結果は、日本を含む各国の法制度や業界慣行にも影響を与える可能性が高いです。
AIによる情報アクセスの利便性と、クリエイターやメディアの権利保護。そのバランスをどのように実現していくかは、今後の社会全体の課題です。持続可能なイノベーションのためにも、ルールメイキングと対話が一層重要になっていくでしょう。
【用語解説】
フェアユース(Fair Use):
米国著作権法における例外規定。報道・批評・教育・研究などの目的であれば、一定条件下で著作物の利用が認められる。AIの訓練データ利用がフェアユースに該当するかは、米国でも判例が確立していない。
robots.txt(ロボッツ・テキスト):
ウェブサイト管理者が検索エンジンなどのクローラーに対してアクセス制限を指示するためのファイル。Ziff Davisは自社サイトにrobots.txtでクロール禁止を設定していたが、OpenAIがこれを無視したと主張している。
【参考リンク】
Ziff Davis(外部)
アメリカ・ニューヨークに本社を置く大手デジタルメディア企業。Mashable、PCMag、CNET、IGNなど45以上のブランドを傘下に持ち、世界中で月間2億9200万以上のユーザーに情報を提供している。
PCMag(外部)
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