Last Updated on 2025-05-11 17:01 by admin
インド政府は2025年4月26日、IndiaAIミッションの下、インド初の主権大規模言語モデル(LLM)の開発をベンガルール拠点のAIスタートアップSarvamに委託した。Sarvamは専用の計算リソースを受け取り、インドの言語や文化に適応した完全に国産の基盤モデルをゼロから構築する。
このモデルは推論能力を持ち、音声用に設計され、インドの多様な言語に対応し、安全な人口規模の展開に対応する。Sarvamは3つのモデルバリアントを開発する計画で、高度な推論と生成のためのSarvam-Large、リアルタイムの対話型アプリケーションのためのSarvam-Small、コンパクトなオンデバイスタスクのためのSarvam-Edgeを提供する。
インド電子情報技術・鉄道・情報放送連合大臣のAshwini Vaishnaw氏は、「Sarvamのモデルが世界的なモデルと競争力を持つことを確信している」と述べた。Sarvamの共同創設者Vivek Raghavan博士とPratyush Kumar博士は、インドの主権モデル構築の責任に謙虚な気持ちを表明し、国のすみずみまで届くAIを構築する準備があると強調した。
開発にあたり、SarvamはIITマドラスのAI4Bharatと協力し、インド言語AI研究の専門知識を活用する。このプロジェクトは、当初400以上の提案から67の候補に絞られた後、最終的にSarvamが選定された。Sarvamは2023年に設立され、UIDAI、Urban Company、NITI Aayog、技能開発省などがユーザーとなっている。同社は2023年12月にLightspeed Venture Partners、Peak XV Partners、Khosla Venturesから4,100万ドル(約61億5,000万円)のシリーズA資金調達を完了している。
IndiaAIミッションは、インドのAIエコシステム強化のため、計算能力、研究人材、データセット、アプリケーション、スキル、スタートアップ、信頼できるAI実践に投資することを目指している。政府は、Yotta Data Services、E2E Networks、NxtGen Cloud Technologiesなどの企業と契約し、スタートアップや研究者向けに補助金付きのGPUアクセスを提供している。
References:
The Government of India selects Sarvam to build India’s sovereign Large Language Model
【編集部解説】
インド政府によるSarvamへの主権LLM開発委託は、グローバルなAI開発競争における重要な動きとして注目に値します。現在、AI技術の主導権は主に米国と中国が握っていますが、インドはこの分野で第三の極となることを目指しています。
この取り組みの背景には、デジタル主権の確保という世界的な潮流があります。特に言語モデルは文化的文脈や価値観を反映するため、西洋中心のAIモデルではインドの多様な言語や文化的ニュアンスを適切に処理できないという課題がありました。
検索結果によると、インド政府は400以上の応募から最終的にSarvamを選定したことがわかります。この選定プロセスは2025年4月初旬に最終段階に入っており、4月26日に正式発表されました。
Sarvamが開発する主権LLMは、単なる技術的独立性だけでなく、インドの13億人以上の人口に対するデジタルサービスの提供、政府機関のAI活用、そして国家安全保障にも関わる戦略的意義を持っています。
特に注目すべきは、このモデルが「音声」に重点を置いている点です。インドでは識字率の問題や言語の多様性から、テキストよりも音声インターフェースの方が多くの人々にとってアクセシビリティが高いという現実があります。これはインドの社会的文脈に合わせた実用的なアプローチと言えるでしょう。
また、Sarvamが3つの異なるサイズのモデル(Sarvam-Large、Sarvam-Small、Sarvam-Edge)を開発する計画は、様々な計算環境やユースケースに対応するための実用的なアプローチです。これはOpenAIのGPTシリーズやGoogleのGeminiシリーズと同様の戦略で、高度な推論から軽量なオンデバイス処理まで幅広いニーズに対応できます。
インド電子情報技術大臣のAshwini Vaishnaw氏は、このモデルが「世界的なモデルと競争力を持つ」と自信を示していますが、これはChatGPTや中国のDeepSeekといった既存の強力なAIモデルとの競争を意識したものです。
技術的な側面では、Sarvamは特にインド言語の処理において既に実績を持っており、IITマドラスのAI4Bharatとの協力関係も構築しています。これはインド国内の研究機関との連携を通じて、技術的な基盤を強化する取り組みと言えます。
このプロジェクトの成功は、インドのAIエコシステム全体の発展にも寄与するでしょう。IndiaAIミッションは、計算能力、研究人材、データセット、アプリケーション開発など、AIの基盤となる要素に総合的に投資することを目指しています。
一方で、課題も存在します。主権モデルの開発には膨大な計算リソースと専門知識が必要であり、既に先行している米中のAIモデルとの技術格差を埋めるのは容易ではありません。また、インドの多様な言語や方言をカバーするための言語データの収集と処理も大きな課題となるでしょう。
しかし、インド固有の文化的・言語的文脈に最適化されたAIモデルの開発は、グローバルなAI開発の多様性を促進し、より包括的なAI技術の発展につながる可能性があります。
私たちinnovaTopiaの編集部は、このようなグローバルなAI開発の動向を今後も注視し、日本のAI戦略や企業活動への示唆を探っていきたいと考えています。
【用語解説】
主権LLM(Sovereign LLM):
国家が自国の言語や文化に最適化して独自に開発する大規模言語モデルのこと。データ主権や技術的自立を確保するために重要である。
大規模言語モデル(LLM):
膨大なテキストデータから学習し、人間のような文章生成や理解ができるAIモデル。パラメータ数が数十億から数千億に及ぶ大規模なニューラルネットワークで構成されている。
IndiaAIミッション:
インド政府が推進するAI開発国家戦略。計算資源の民主化、データ品質の向上、国産AI能力の開発、AI人材の誘致、産業界との協力、スタートアップへのリスク資本提供などを通じて、インドのAIエコシステムの成長を促進する取り組み。日本のAI戦略に相当する。
Atmanirbhar Bharat:
「自立したインド」を意味するヒンディー語。インド政府が推進する自国産業育成と技術的自立を目指す政策理念。
AI4Bharat:
IITマドラス(インド工科大学マドラス校)に拠点を置くインド言語AI研究の中心的組織。インドの多様な言語に対応するAI技術の研究開発を行っている。
【参考リンク】
Sarvam AI(外部)
インドの言語や文化に特化した主権AIの開発を目指すベンガルール拠点のAIスタートアップ
IndiaAIミッション(外部)
インド政府のAI国家戦略を推進する公式サイト。AI革新を促進する包括的なエコシステム構築
AI4Bharat(外部)
IITマドラスに拠点を置くインド言語AI研究の中心的組織。インドの言語多様性に対応
【参考動画】
【編集部後記】
テクノロジーの最前線に立つ皆さん、インドの主権LLM開発は、AIの未来における地政学的変化を示す重要な指標ではないでしょうか。現在、米国企業主導のAI開発競争に、インドという新たなプレイヤーが本格参入することで、グローバルなAI技術の多様化が進みます。日本の企業や研究機関も、独自のAI主権を確立する道を模索する中で、インドの取り組みから学べる点があるかもしれません。皆さんは、日本ならではのAI開発の方向性についてどのようにお考えですか?