Last Updated on 2025-05-26 07:56 by admin
Googleは2025年5月20日から21日にカリフォルニア州シリコンバレーで開催されたI/O 2025において、AIオペレーティングレイヤーとなる「ワールドモデル」戦略を発表した。
同社は月間480兆トークンを処理し、前年の50倍、MicrosoftのSatya Nadellaが発表した月間100兆トークンの約5倍に達した。Gemini APIは700万人以上の開発者が利用し、前回I/Oから5倍増加した。
Vertex AI上でのGemini使用量は40倍以上急増している。AI Overviewsは月間15億ユーザーにサービス提供している。Google DeepMindのCEOデミス・ハサビスは汎用人工知能(AGI)への取り組み継続を表明し、Geminiを「ワールドモデル」に拡張すると述べた。Project Marinerのコンピュータ使用機能は今夏Gemini API経由で提供予定である。
References:
Google’s ‘world-model’ bet: building the AI operating layer before Microsoft captures the UI
【編集部解説】
Googleが今回発表した「ワールドモデル」戦略は、単なるAI機能の追加ではなく、コンピューティングの根本的なパラダイムシフトを意図した野心的な取り組みです。
従来のAIが特定のタスクに特化していたのに対し、ワールドモデルは物理法則や因果関係を理解し、現実世界をシミュレートできる汎用的な知能を目指しています。これは人間の脳が世界を理解する仕組みに近く、観察から学習し、未来を予測し、計画を立てる能力を持つAIの実現を意味します。
技術的な革新性と実用化への道筋
Googleが示したVeo 3やGenie 2といった技術は、この理論を実証する重要な成果といえるでしょう。特にVeo 3は物理法則を理解した動画生成を可能にし、Genie 2は画像やテキストから2Dゲーム環境を創造できます。これらは単なるコンテンツ生成ツールを超え、AIが動的システムを理解し操作できることを示しています。
月間480兆トークンという処理能力は、Microsoftの5倍に達する規模で、この圧倒的なデータ処理量がワールドモデルの学習基盤となっています。700万人の開発者がGemini APIを活用している事実は、エコシステムの急速な拡大を物語っています。
企業戦略としての意義と競合との差別化
この戦略の真の狙いは、MicrosoftがOffice 365で築いた企業向けUI支配に対する「エンドラン」にあります。Microsoftが既存のワークフローにAIを統合する漸進的アプローチを取る一方、GoogleはAIネイティブな全く新しいインタラクション方式を提案しています。
OpenAIのChatGPTが6億人の月間ユーザー、8億人の週間ユーザーを獲得し、検索事業への参入も果たしている状況で、Googleは自社の2000億ドル規模の検索広告事業を守りながら、同時に次世代のコンピューティングプラットフォームを構築する必要に迫られています。
潜在的なリスクと課題
しかし、この壮大な構想には重大なリスクも伴います。米国司法省の独占禁止法違反判決により、Chrome売却の可能性が浮上しており、欧州のデジタル市場法や著作権訴訟も制約要因となっています。
技術面では、AIの本質的な限界である「ハルシネーション」問題が依然として解決されていません。AIが自信を持って誤った情報を生成する現象は、ワールドモデルのような高度なシステムでより深刻な影響をもたらす可能性があります。
長期的な影響と社会への波及効果
成功すれば、Googleのワールドモデルは人間とコンピューターの関係を根本的に変革するでしょう。ARグラスを通じた物理世界との融合、パーソナライズされたアンビエント・インテリジェンス、そして真の意味での汎用人工知能への道筋が開かれます。
一方で、一企業が人類の知識アクセスを支配する構造への懸念も高まっています。2000万人以上の開発者を抱えるGoogleの開発者エコシステムは他社を圧倒していますが、この影響力の集中が健全な競争環境を阻害する可能性も指摘されています。
次の数年間で、この戦略が実を結ぶか、それとも過度な野心による戦略的過剰拡張となるかが明らかになります。AI時代の覇権をかけた競争は、まさに正念場を迎えているのです。
【用語解説】
ワールドモデル(World Model)
AIが現実世界の物理法則や因果関係を理解し、未来を予測・シミュレートできる技術。人間の脳が「もしこうしたらどうなるか」を想像するのと同様に、AIが世界の仕組みを内在化して推論する能力を指す。
汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)
特定のタスクに特化せず、人間のように幅広い問題を解決できる汎用的なAI。現在のAIが「計算機」なら、AGIは「人間の頭脳」に相当する概念である。
マルチモーダルAI
テキスト、画像、音声、動画など複数の形式のデータを同時に理解・処理できるAI。従来の「文字だけ」「画像だけ」のAIとは異なり、人間のように五感を統合して判断する能力を持つ。
トークン処理
AIがテキストを理解するための最小単位。日本語では1文字が約1トークンに相当する。Googleの月間480兆トークンは、日本語換算で約480兆文字の処理能力を意味する。
Project Mariner
Googleが開発したブラウザ自動化技術。ユーザーに代わってウェブサイトを操作し、情報収集や作業を自動実行する機能を持つ。
Automation Anywhere・UiPath
企業向けロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)ソフトウェアを提供する企業。GoogleのProject Marinerと連携してエンタープライズ向けソリューションを開発している。
【参考リンク】
Google Gemini(外部)
Googleが開発したマルチモーダル生成AIサービス。テキスト、画像、音声での対話が可能。
Google DeepMind(外部)
Googleの人工知能研究部門。AlphaGoやAlphaFoldなどの革新的AI技術を開発。
Microsoft Copilot(外部)
Microsoftが提供するAIアシスタント。Office 365との統合が特徴。
【参考動画】
【編集部後記】
Googleが描く「ワールドモデル」の未来は、私たちの日常にどのような変化をもたらすでしょうか。AIが物理法則を理解し、私たちに代わって判断・行動する世界では、仕事の進め方や創作活動、さらには学習方法まで根本的に変わる可能性があります。一方で、一企業がこれほど強大な知的基盤を握ることへの懸念もあります。皆さんは、このようなAI-ネイティブな未来をどう受け止めますか?期待と不安、どちらが大きいでしょうか。ぜひご意見をお聞かせください。