音声AI企業ElevenLabsが2025年6月24日、テキストから音声クリップを生成するスタンドアローンモバイルアプリをiOSとAndroid向けにリリースした。
これまでElevenLabsのAI音声ライブラリを使用するにはウェブアプリが必要だったが、モバイルアプリにより外出先での音声生成が可能になった。アプリはテキスト入力後に適切な音声を選択して音声クリップを生成する仕組みで、無料プランでは約10分間の音声生成が利用できる。同社最新のテキスト音声変換モデルv3 alphaにアクセス可能で、[excited]、[whispers]、[sighs]などの音声タグによる表現制御ができる。ElevenLabsのモバイル成長責任者ジャック・マクダーモット氏によると、この1年間でコンテンツクリエイター、マーケター、教育者、音声アーティスト、専門家たちから創造性の爆発的な増加を見ており、多くがCapCut、Instagram、InShotなどのアプリで使用する音声サンプル作成のためにモバイルブラウザを使用していたため、ネイティブ体験を構築した。同社は音声クローンおよび生成ツールのSpeechifyやCaptionsと競合する。これは昨年リリースされたReader Appに続く同社2つ目の消費者向けアプリである。今後、音声テキスト変換や対話型AIエージェントツールなどの新機能追加、11.aiのようなMCP搭載体験の統合を予定している。
From:
ElevenLabs releases a stand-alone voice-generation app | TechCrunch
【編集部解説】
このニュースは、音声生成技術がより多くの人にとって身近な存在になる大きな一歩だと感じています。これまでプロフェッショナル向けの高価なツールだった音声生成技術が、いよいよスマートフォンという最も身近なデバイスで手軽に利用できるようになったのです。
技術的な側面から見ると、ElevenLabsが搭載するv3 alphaモデルは従来のテキスト音声変換技術を大きく飛躍させています。[excited]、[whispers]、[sighs]といった感情タグによる表現制御は、従来の平坦な読み上げから脱却し、人間らしいニュアンスを音声に込めることを可能にしました。これにより、YouTubeクリエイターやTikTokユーザーが求める表現豊かなナレーションを、録音スタジオや専門機材なしに作成できるようになったのです。
市場への影響を考えると、このモバイル化は音声コンテンツ制作の裾野を大幅に広げることになります。AI音声生成(合成音声)市場は、年平均成長率(CAGR)が約30%弱という非常に高い成長が見込まれている分野です。市場規模は2023年の約15億ドルから、2030年代初頭には200億ドルを超える規模に拡大すると予測されています。特に注目すべきは、Z世代の約3割が音声技術を日常的に活用している点です。彼らにとって音声UIは既に当たり前の存在であり、この世代の創作活動を支える重要なツールとなる可能性があります。
一方で、この技術の普及は深刻なリスクも伴います。音声クローニング技術の手軽さは、なりすまし詐欺や偽情報の拡散に悪用される危険性を高めています。実際、2024年の調査では英国成人の28%が音声クローニング詐欺の標的になったと回答しており、FTCも音声クローニングによる消費者被害の防止策を模索している状況です。
規制面では、各国政府が対応に苦慮しています。技術の進歩に法整備が追いついていないのが現状です。テネシー州では2024年に音楽業界向けの声紋保護法が成立するなど、個別分野での規制整備が始まっていますが、包括的な規制フレームワークの構築は道半ばです。
長期的な視点で見ると、この技術は教育、医療、エンターテインメント分野に革命をもたらす可能性があります。失声症患者の声の復元、多言語教育コンテンツの効率的な制作、没入型ゲーム体験の向上など、社会的意義の高い用途が期待されています。
しかし、同時に著作権や肖像権の概念を根本から見直す必要も生じています。「声」という個人のアイデンティティの一部が、AIによって複製可能になった今、法的・倫理的な枠組みの再構築が急務となっているのです。
【用語解説】
テキスト音声変換(TTS): Text-to-Speechの略。入力されたテキストを自然な音声に変換するAI技術。従来は機械的な読み上げが主流だったが、近年は感情表現や抑揚の制御が可能になった。
音声クローニング: 少量の音声サンプルからAIが特定の人物の声を学習し、その人の声で任意のテキストを読み上げる技術。数秒から数分の音声データで実現可能。
v3 alpha: ElevenLabsが開発した最新のテキスト音声変換モデル。[excited]、[whispers]、[sighs]などの感情タグによる表現制御、70以上の言語対応、複数話者の対話生成が特徴。
MCP(Model Context Protocol): AIモデルが外部ツールやサービスと連携するための標準プロトコル。音声AIが他のアプリケーションと統合して動作することを可能にする。
ディープフェイク: AIを使って作成された偽の音声や映像コンテンツ。本物と見分けがつかないレベルまで技術が進歩しており、悪用による社会問題が懸念されている。
音声UI(VUI): Voice User Interfaceの略。音声による操作を可能にするユーザーインターフェース。スマートスピーカーやスマートフォンの音声アシスタントが代表例。
FTC: Federal Trade Commissionの略。アメリカ連邦取引委員会。消費者保護と競争政策を担当する政府機関で、音声クローニング技術による消費者被害の防止に取り組んでいる。
【参考リンク】
【参考記事】
【編集部後記】
私も日々感じているのですが、音声技術の進歩は本当に目まぐるしいですね。今回のElevenLabsのアプリリリースを見て、改めて「声」というものの価値について考えさせられました。皆さんはどう感じられるでしょうか?コンテンツ制作がより身近になる一方で、本物と偽物の境界が曖昧になっていく未来に、どのような期待や不安をお持ちですか?もしよろしければ、SNSでご意見をお聞かせください。技術の恩恵を受けながらも、どう向き合っていくべきか、一緒に考えていければと思います。