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Sakana AI TreeQuest:AI同士の協力で単体性能を30%向上、オープンソース化も発表

Sakana AI TreeQuest:AI同士の協力で単体性能を30%向上、オープンソース化も発表 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-07-06 08:40 by admin

日本のAI研究所Sakana AIは2025年7月3日、複数の大規模言語モデル(LLM)を協調させる新技術Multi-LLM AB-MCTSを発表した。

この技術は適応分岐モンテカルロ木探索(AB-MCTS)アルゴリズムを使用し、o1-mini、Gemini 2.5 Pro、DeepSeek-R1の3つのモデルを組み合わせて動作する。ARC-AGI-2ベンチマークの120問中30問以上で正解を達成し、個別モデルの性能を大幅に上回った。

ARC-AGI-2は視覚的推論問題のベンチマークで、AIにとって非常に困難とされる高難度テストである。Sakana AIの研究科学者秋葉拓哉氏が共著者として参加した。同社はこの技術をTreeQuestという名称でApache 2.0ライセンスのオープンソースフレームワークとして公開した。

TreeQuestは複雑なアルゴリズムコーディングや機械学習モデルの精度向上、既存ソフトウェアの性能最適化などの用途に適用可能である。

From: 文献リンクSakana AI’s TreeQuest: Deploy multi-model teams that outperform individual LLMs by 30%

【編集部解説】

Sakana AIが発表したMulti-LLM AB-MCTSは、AI業界における重要な転換点を示しています。これまでAIの性能向上は主に「訓練時スケーリング」、つまりモデルサイズの拡大や訓練データの増加に依存してきました。しかし、この技術は「推論時スケーリング」という新しいアプローチを採用し、すでに訓練されたモデルに対して推論時により多くの計算リソースを割り当てることで性能を向上させます。

これは人間が難しい問題に直面した際の行動パターンを模倣したものです。私たちは複雑な課題に対して、より長く考える、試行錯誤を重ねる、他者と協力するといった戦略を取ります。Multi-LLM AB-MCTSは、まさにこの人間的なアプローチをAIシステムに実装したものと言えるでしょう。

モンテカルロ木探索の革新的応用

技術的な核心となるのは、適応分岐モンテカルロ木探索(AB-MCTS)アルゴリズムです。従来の手法では「より深く探索する」(既存の解答を洗練する)か「より広く探索する」(新しい解答を生成する)のどちらか一方に偏りがちでした。

AB-MCTSは、この二つの戦略を動的にバランスさせる点で画期的です。システムは確率モデルを使用して、各段階で既存の解答を改善するか、全く新しいアプローチを試すかを判断します。これにより、有望な解答が見つかった場合はそれを発展させつつ、行き詰まった際には新たな方向性を探ることが可能になります。

集合知の実現とその意義

Multi-LLM AB-MCTSの最も革新的な側面は、複数のLLMを協調させる仕組みにあります。現在の最先端モデルは、それぞれ異なる訓練データとアーキテクチャに基づいて構築されており、独自の強みと弱みを持っています。

実験結果では、単体では解決できなかった問題が、複数のモデルの協力によって解決される事例が確認されています。例えば、o1-miniが最初に誤った解答を生成した場合でも、DeepSeek-R1とGemini 2.5 Proがそのエラーを分析し、修正して正しい答えに到達することができました。

企業への実用的インパクト

この技術が企業に与える影響は多岐にわたります。まず、単一のAIプロバイダーに依存するリスクを軽減できる点が重要です。企業は複数の最先端モデルの長所を動的に活用し、タスクの各部分に最適なAIを割り当てることが可能になります。

特に注目すべきは、LLMの「幻覚」問題への対処能力です。異なるモデルは幻覚を起こす傾向が異なるため、幻覚を起こしにくいモデルとのアンサンブルを構築することで、強力な論理能力と信頼性を両立できる可能性があります。

オープンソース化の戦略的意味

Sakana AIがTreeQuestフレームワークをApache 2.0ライセンスで公開したことは、業界全体への大きな貢献です。これにより、開発者や企業は商用利用を含めて自由にこの技術を活用できるようになりました。

TreeQuestは柔軟なAPIを提供し、カスタムスコアリングやロジックの実装を可能にしています。また、長時間実行される複雑なタスクにも実用的に対応できる設計となっています。

潜在的なリスクと課題

一方で、この技術には注意すべき側面もあります。まず、計算コストの増大が挙げられます。複数のモデルを協調させ、試行錯誤を重ねるプロセスは、従来の単一モデル使用と比較して大幅に多くの計算リソースを必要とします。

また、複数のAIシステムが協調する際の予測可能性や制御性についても課題があります。システムの複雑性が増すことで、意図しない動作や予期しない結果が生じるリスクも考慮する必要があります。

規制への影響と将来展望

この技術の普及は、AI規制の議論にも新たな視点をもたらすでしょう。複数のAIシステムが協調して動作する場合の責任の所在や、システム全体の透明性確保などが重要な論点となります。

長期的には、この技術はAI開発のパラダイムシフトを促進する可能性があります。単一の巨大モデルを構築するのではなく、特化した複数のモデルを効率的に組み合わせるアプローチが主流になるかもしれません。これは、AI開発の民主化や多様性の促進にもつながる可能性があります。

技術革新の本質的意義

Sakana AIのアプローチは、AI技術の発展における重要な示唆を含んでいます。それは、個々の能力の限界を超えるために協力することの価値です。人類の最大の成果が個人の天才ではなく、多様な専門知識を持つ人々の協力によって生まれてきたように、AIシステムも協力によってより大きな可能性を実現できることを示しています。

この技術は、AI分野における「集合知」の概念を具現化したものとして、今後の研究開発に大きな影響を与えることが予想されます。

【用語解説】

Multi-LLM AB-MCTS
複数の大規模言語モデルを協調させる新技術。適応分岐モンテカルロ木探索(AB-MCTS)を使用し、異なるLLMの強みを組み合わせて単体モデルでは解決困難な問題を解決する。

適応分岐モンテカルロ木探索(AB-MCTS)
「より深く探索する」(既存解答の洗練)と「より広く探索する」(新解答の生成)を動的にバランスさせる意思決定アルゴリズム。AlphaGoで使用されたMCTSを発展させたもの。

推論時スケーリング
モデル訓練後に推論段階でより多くの計算リソースを割り当てることで性能を向上させる技術。従来の「訓練時スケーリング」とは異なるアプローチ。

思考の連鎖(CoT)
AIが段階的に推論過程を示しながら問題を解決する手法。複雑な問題を小さなステップに分解して論理的に解答を導く。

Apache 2.0ライセンス
オープンソースソフトウェアライセンスの一種。商用利用、修正、再配布が自由に行える寛容なライセンス形態。

【参考リンク】

Sakana AI公式サイト(外部)
日本発のAI研究所。自然から着想を得たアプローチで最先端の基盤モデルを進化させる研究開発を行っている。

VentureBeat(外部)
テクノロジー業界の変革的な技術を扱う専門メディア。AI、ゲーム、ビジネステクノロジーの最新動向を報じている。

【参考動画】

Sakana AI: Navigating Japan’s AI Landscape by David Ha
外国特派員協会でのSakana AI CEO David Ha氏による講演。日本のAI環境とSakana AIの取り組みについて英語で解説している。

【参考記事】

「集合知」と「試行錯誤」によるフロンティアAIの推論時スケーリング(外部)
Sakana AI公式による技術解説記事。Multi-LLM AB-MCTSの技術的詳細と実験結果を日本語で説明している。

OpenAI o1-mini(外部)
OpenAIによるo1-miniモデルの公式発表記事。コスト効率の高い推論モデルの性能と特徴について説明している。

Gemini 2.5: Our most intelligent AI model(外部)
GoogleによるGemini 2.5 Proの公式発表記事。思考機能を内蔵した最新推論モデルについて詳述している。

【編集部後記】

今回ご紹介したSakana AIのMulti-LLM AB-MCTSは、AIの「協力」という新しい可能性を示しています。皆さんの職場でも、一人では解決困難な課題を複数の専門家が協力して解決した経験はありませんか?AIもついに、そんな人間らしい働き方を身につけ始めました。

この技術が実用化されれば、私たちの仕事や創作活動はどう変わるでしょうか。複数のAIが連携して、より精度の高い提案や解決策を提示してくれる未来を想像してみてください。一方で、AIシステムが複雑になることで生まれる新たな課題についても、一緒に考えていければと思います。

皆さんは、この「AI同士の協力」という発想について、どのような可能性や懸念を感じられますか?

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TaTsu
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