富士通×カーネギーメロン大学、フィジカルAI研究の新拠点設立

富士通株式会社とCarnegie Mellon University(カーネギーメロン大学)は2026年4月23日、フィジカルAI領域の中核技術を共同で研究開発する「Fujitsu-Carnegie Mellon Physical AI Research Center」を設立した。

Yonatan Bisk、Fernando De La Torre、Graham Neubigなどカーネギーメロン大学の教授13名が参画し、ロボティクス、機械学習、言語理解、人とロボットの相互作用、倫理など複数分野で研究を進める。本研究センターは、2026年2月にペンシルベニア州ピッツバーグのHazelwood Greenに開設された延床面積約14,000平方メートルのRobotics Innovation Centerを活用する。

研究成果は、富士通が開発中のプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi Physical OS」へ2026年度より順次組み込まれる予定である。

From: 文献リンク富士通とカーネギーメロン大学、フィジカルAI領域における共同研究センターを設立

【編集部解説】

今回の発表は、富士通が「フィジカルAI(Physical AI)」という新たな戦線に、本格的に資源を集中させ始めたことを示すものです。フィジカルAIとは、画面の中で言葉や画像を生成するだけのAIではなく、ロボットや機械の身体を持ち、現実世界で人や物と相互作用するAIを指します。ChatGPTのような対話型AIが「頭脳」だとすれば、フィジカルAIは「身体」を獲得したAIだとイメージしていただくと理解しやすいでしょう。

なぜ今、このタイミングなのでしょうか。背景には、フィジカルAIをめぐるグローバルな競争が今年に入って急加速している事実があります。エヌビディアは2026年1月のCES(消費者向け電子機器の見本市)で、ロボット用基盤モデル「Cosmos」群やヒューマノイド向けモデル「Isaac GR00T N1.6」を発表し、「ロボティクスのアンドロイドOSになる」と公言しました。中国勢はユニツリー社の人型ロボットを39,900元(米ドル換算で約5,600〜5,900ドル)という破格の価格で投入しています。日本企業としてどう立ち向かうかが、まさに問われている局面です。

カーネギーメロン大学(以下、CMU)と組んだ意味は重大です。CMUのロボティクス研究所は世界トップクラスとされ、今回参画する13名の教授陣の中には、自然言語処理の第一人者であるグラハム・ニュービッグ氏や、フィールドAI社にも参画するセバスチャン・シェラー氏など、各領域の先頭走者が並びます。富士通はAI、計算基盤、ネットワークの自社技術と、CMUの基礎研究を結合し、エヌビディア中心のエコシステムとは異なる選択肢を提示しようとしているのです。

舞台となるロボティクスイノベーションセンター(RIC)も注目に値します。同施設はピッツバーグのヘイゼルウッドグリーン地区にあり、2021年にリチャード・キング・メロン財団から4,500万ドル(約67億5,000万円)の主要寄付を受けて建設され、今年2月27日に開所したばかりの最新拠点です。かつての製鉄所跡地に建つこの場所が、製造業の街ピッツバーグを「ロボティクスの街」へと再定義しようとしている象徴でもあります。

技術面では「Fujitsu Kozuchi Physical OS」が核となります。ここで重要なのが「行動知能」と「空間知能」という二つのキーワードです。前者は、人間の作業を観察したり過去の経験から学んだりして、ロボットが新しいタスクに適応する能力を指します。後者は、現実空間の構造や物体の位置を立体的に把握し、ロボットが安全に動ける地図を提供する能力です。この二つを統合することで、複数のロボットが業務指示を受けて協調動作することが可能になります。

ポジティブな側面は明確で、製造・物流・建設・医療・社会インフラといった「人手が足りない現場」への適用が期待されます。日本は世界有数のロボット稼働密度を持ち、現場運用データの蓄積では他国に対して優位性があります。富士通が掲げる「ミッションクリティカル領域への適用」は、日本の強みと符合する戦略といえるでしょう。

一方で、潜在的な課題も無視できません。プレスリリースの中で、富士通は「データ主権」「ガバナンス」「倫理・社会受容」という言葉を明示しています。フィジカルAIは人と物理的に同じ空間で動く以上、安全性の保証、事故時の責任の所在、雇用への影響など、社会との合意形成が技術開発と並行して必要になります。今回の研究センターに哲学領域の教授が2名(ピーター・スピルテス氏、クン・チャン氏)含まれている点は、この問題意識の反映と読み取れます。

長期的には、フィジカルAIは「AI=ソフトウェア」という枠組みを根本から変える可能性を秘めています。富士通が描く「人とロボットが安心して協働できる持続可能な社会基盤」は、単なる業務効率化を超え、労働や生産性の概念そのものを問い直す試みです。研究成果は2026年度から順次「Fujitsu Kozuchi Physical OS」に統合される予定であり、innovaTopia編集部としても、その成果が現場でどのように姿を現すのかを引き続き追っていきたいテーマです。

【用語解説】

Fujitsu Kozuchi Physical OS
ロボット、センサー、システム、空間を統合的に制御するための富士通のプラットフォームである。複数のロボットやシステムが業務指示に従って協調動作することを可能にする基盤層であり、富士通の生成AI群「Fujitsu Kozuchi」のフィジカルAI領域の中核を担う。

ミッションクリティカル(Mission Critical)
停止や障害が許されない、業務の根幹を担うシステムや領域を指す用語である。電力・交通・金融・医療など、社会インフラを支える領域がこれに該当する。

ヘイゼルウッドグリーン(Hazelwood Green)
ピッツバーグ南東部に位置する、かつての製鉄所跡地を再開発した178エーカーの研究・産業集積エリアの名称である。

CES(Consumer Electronics Show)
毎年1月に米国ラスベガスで開催される、世界最大規模の消費者向け電子機器の見本市である。

【参考リンク】

富士通株式会社(公式サイト)(外部)
日本を代表するICT企業の公式コーポレートサイト。プレスリリースや研究開発の最新動向を掲載する。

Carnegie Mellon University(公式サイト)(外部)
米ペンシルベニア州ピッツバーグの私立研究大学。ロボティクスとAI研究で世界的評価を得ている。

CMU Robotics Innovation Center(RIC)(外部)
2026年2月に開設された、延床面積約14,000平方メートルのロボティクス研究拠点公式サイトである。

NVIDIA Robotics(公式ページ)(外部)
エヌビディアのロボティクス向け統合プラットフォームの公式ページ。Cosmos、Isaac GR00Tなどを紹介する。

FieldAI(公式サイト)(外部)
NASA出身者が創業したフィジカルAIスタートアップ。CMUのRIC第1号企業テナントとして拠点を構える。

Unitree Robotics(公式サイト)(外部)
中国・杭州拠点のロボティクス企業。低価格な四足歩行ロボットや人型ロボット「R1」を展開している。

【参考記事】

Physical AI Market Set to Hit $15.24 Billion by 2032(外部)
MarketsandMarketsの市場調査記事。2026年15億ドルから2032年152.4億ドル、CAGR47.2%の予測を示す。

Physical AI Research Report 2026: A $3.25 Trillion Market by 2040(外部)
2026年3,830億ドルから2040年3.26兆ドルへ拡大予測。米中欧日の競争構図と日本の優位性に言及する。

Nvidia wants to be the Android of generalist robotics(TechCrunch)(外部)
CES 2026でのNVIDIA

のロボティクスフルスタック戦略を解説。Cosmos、Isaac GR00Tの統合戦略を詳述する。

CMU’s Robotics Innovation Center Fuels Pittsburgh’s New Economic Renaissance(外部)
2026年2月27日のRIC開所式の公式報道記事。シャピロ州知事も参加しピッツバーグ再生の象徴と位置付ける。

Fujitsu, CMU Launch Joint Center for Physical AI(CMU CS News)(外部)
カーネギーメロン大学CS学部による共同研究センター設立の公式発表記事。学術界側の視点を伝える。

「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」を開発(PR TIMES)(外部)
2025年12月24日付の富士通プレスリリース。NVIDIAとの協業による初の成果として開発経緯を解説する。

【関連記事】

富士通、NVIDIA協業で「Fujitsu Kozuchi Physical AI 1.0」発表。AIエージェント連携で調達業務50%削減
2025年12月27日公開。本記事で触れた「Fujitsu Kozuchi Physical OS」の直接の前身となる、富士通とNVIDIAの協業による初の成果プラットフォームを詳述している。

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2025年12月2日公開。本記事で重要キーワードとして登場した「空間知能」の技術的裏付けとなる、富士通の3Dシーングラフ技術を解説している。

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2026年2月26日公開。本記事の中核概念「フィジカルAI」と、その隣接領域「エンボディドAI」の違いを掘り下げた解説記事である。

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2026年1月16日公開。フィジカルAIをめぐるグローバル競争の全体像を把握できる総括記事である。

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2026年4月17日公開。「空間知能」が世界的な競争の主戦場となっている最新動向を伝える。

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2025年12月1日公開。NVIDIA中心のエコシステムの具体像が把握でき、富士通+CMUのアプローチとの比較材料として有用である。

【編集部後記】

「フィジカルAI」という言葉を聞いたとき、皆さんは何をイメージされたでしょうか。工場で働く産業ロボット、人型ロボット、それとも自動運転車でしょうか。実はそのどれもが、これから一つの大きな技術潮流の中で語られていくことになりそうです。

今回の富士通とCMUの提携は、その潮流に日本企業が独自のポジションで関わろうとする試みの一つです。皆さんが日々の暮らしや仕事の中で「ここにロボットがいたら」「これは人がやり続けたい」と感じる場面があれば、ぜひSNSなどで教えてください。みなさんの生活実感こそが、この技術を社会に根付かせていく上での貴重な羅針盤になるはずです。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。