デジタル庁、給付金にステーブルコインとトークン化預金の活用を検討 使い道を限る給付に

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2021年、子育て世帯への10万円相当の給付のうち5万円分をクーポンにする案は、事務費が967億円と説明されました。その後、現金に切り替える自治体が相次ぎます。それから5年、デジタル庁は、使い道の条件をお金の側で扱える可能性を検討すると述べています。紙では重すぎた条件付きの給付を、プログラムは軽くできるのでしょうか。


金融庁は2026年10月19日、9月30日に開いた「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」第1回の議事録を公表した。デジタル庁の蓮井智哉 戦略・組織グループ統括官は、ステーブルコインとトークン化預金を公金の給付に使えるか、技術面から検討を進めると述べた。

プログラマビリティを生かして子育てや食料品など特定の目的に使い道を限る給付を可能にし、給付行政の信頼性向上と効率化を図るとしている。検討には、デジタル庁の本人確認の手法とウォレットのあり方に関する知見を生かす。あわせて、ステーブルコインの諸法令での扱いを整理し、AI・デジタル改革推進会議で省庁横断で検討する。導入の時期や対象は示していない。

From: 文献リンク「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」(第1回)議事録:金融庁

【編集部解説】

「使い道を限る給付」は、2021年にも構想された

給付金の使い道を限るという発想は、新しいものではありません。

2021年、高校3年生相当までの子どもを育てる世帯に、所得制限付きで1人あたり10万円相当を配る給付は、当初、現金5万円とクーポン5万円相当の組み合わせを基本に設計されました。当時の鈴木俊一財務大臣は同年12月3日の会見で、補正予算に計上したクーポンを基本とする給付の事務費を967億円と説明しています。そのうえで、子育て目的に限定し、有効期限を設けることで、より無駄のない給付ができると述べました。

その後、政府は現金10万円の一括給付も認め、板橋区や大東市など、現金一括を選ぶ自治体が相次ぎました。戸田市も、先行の5万円に続く残りの5万円を現金で支給すると決め、理由として事務費の軽減や迅速な給付を挙げています。使い道を限りたいという政策の狙いと、早く手間をかけずに届けたいという実務とのあいだに、調整が必要だったと読むことができます。

今回デジタル庁が検討するのは、使い道を限る給付に、ステーブルコインやトークン化預金のプログラマビリティを生かせるかという点です。クーポンという別の手段を用意するのではなく、お金の側で条件を扱える可能性を探る方向と言えます。具体的な仕組みは、まだ示されていません。

プログラマビリティは、何を肩代わりするのか

ここでは円建てのデジタルのお金を考えます。資金移動業者や信託銀行・信託会社などが発行するステーブルコインと、銀行預金をトークン化する仕組みがあります。違いは発行者だけでなく、持っている人の権利や、裏付けとなる資産の守り方にもあります。国内では、円建てのステーブルコイン「JPYC」が2025年10月に、信託型の「JPYSC」が2026年6月に発行されています。北國銀行も2024年4月、預金をトークン化した地域通貨を発行しています。

こうしたお金をブロックチェーンの上で動かす仕組みでは、プログラムによって、条件に応じた支払いを設計できる可能性があります。たとえば「登録した店でしか使えない」「期限を過ぎたら使えない」といった条件です。これがプログラマビリティです。ただし、条件をどこに、どう実装するのか、制度上どう扱うのかは、これからの検討になります。ここに挙げた条件は説明のための例で、デジタル庁が示した制度案ではありません。

条件に応じた支払いを設計できるなら、紙のクーポン方式で想定される印刷、配送、回収、換金といった事務を減らせるかもしれません。蓮井統括官が挙げた「効率化」の一つの形として、この点に注目しています。

もう一つの「信頼性向上」については、給付の記録を後から検証しやすくなることが考えられます。ただし、蓮井統括官は具体的な仕組みまでは説明していません。台帳が改ざんしにくくても、受給資格や支給額の判定が正しいとは限らないため、給付の実務と合わせた設計が要ります。

鍵になるのは「誰に配るか」を確かめる仕組み

発言のなかで見落とせないのは、本人確認とウォレットへの言及です。

デジタルのお金で給付するには、受給資格や支給額を確かめることに加えて、受け取る人が本人であることを確かめ、その人のウォレットに確実に届ける必要があります。決済の技術だけでは、給付は正しく届きません。

デジタル庁はマイナンバーカードを軸にした本人確認の仕組みを担っており、カードの機能をスマートフォンに載せる取り組みも進めてきました。7月の金融戦略も、AIエージェントの時代を見据えた金融分野の信頼性向上や不正防止に向けて、VC(Verifiable Credential)などで本人の真正性を担保する基盤のあり方を検討するとしています。公金給付にVCを使うと決まったわけではありませんが、給付の話は、お金の話であると同時に、デジタルの身分証の話でもあります。

7月の金融戦略のなかで読む

今回の発言は、突然出てきたものではありません。

政府が2026年7月21日にまとめた「成長投資を促進するための金融戦略」には、すでに、デジタル庁がオンチェーン決済のプログラマビリティを生かし、ステーブルコインやトークン化預金の公金給付への活用可能性を検討することが盛り込まれていました。9月30日の発言は、担当を割り振られた省庁が、関係者のそろった場で進め方を示したものです。

フォーラムでは、8つの論点が並びました。日銀当座預金をブロックチェーンで使う検証、国債のトークン化、銀行間決済の新しい基盤などです。そのなかで公金給付は、オンチェーン金融が一般の暮らしに最も直接ふれる論点と言えます。

もう一つ、デジタル庁はステーブルコインを「金銭に準じて」使えるかという、法令上の整理も引き継ぎました。この検討を担っていたデジタル行財政改革会議の事務局は、9月1日にデジタル庁に統合されています。9月30日の会合では、新たに始まる「AI・デジタル改革推進会議」で、省庁をまたいで検討を進める方針も示されました。

決まっていないこと、これから問われること

現時点で示されたのは、技術面から検討を進めるという方針です。どの給付に使うのか、予算はいくらか、いつ始めるのかは、何も示されていません。

使い道を限ることには、政策としての是非もあります。2021年に現金を選んだ自治体は、早く届けられることなども理由に挙げていました。何に使うかを受け取る側が選べることにも、価値はあります。

取り消しにくさもあります。同じ会合で金融庁の堀本局長は、オンチェーン決済の短所として、誤送信や不正な取引の取り消し、資金の回収が難しくなる可能性を自ら挙げています。誤った給付を取り戻す手続きは、公金ならなおさら欠かせません。

使い道の制限の設計によっては、利用した店や購入した品目などの情報を、条件の判定に使うことになります。どの情報を記録し、誰がどこまで見られるのかは、プライバシーの設計そのものです。スマートフォンやウォレットを使わない人に、どう届けるのかも残ります。

給付を「配って終わり」から「設計された支援」へ

金融庁は2027年初めに第2回の会合を開き、中間整理と官民のロードマップをまとめるとしています。

給付金は、国や自治体が、対象となる人や世帯に直接支援を届ける仕組みです。そこにプログラマビリティが入れば、給付は「配って終わり」から、目的に沿って届き方まで設計される支援へと変わっていくかもしれません。

技術の検討と並んで、何を縛り、何を受け取る人に委ねるのか。その線をどこに引くのかが、ロードマップで最も注目したい点です。

【関連記事】

VisaとMastercard、ステーブルコインでカードの外へ|Visaの試験を支えたBVNKはMastercard傘下に
VisaとMastercardが、ステーブルコインをカード決済の外の送金や企業の口座へ広げる動きを扱ったinnovaTopiaの記事。

ステーブルコイン
ステーブルコインの仕組みと歴史を、TetherやUSTの例とともに説明したinnovaTopiaの解説。基礎をおさらいできる。

【編集部後記】

蓮井統括官の発言は、公金給付の話から始まったわけではありません。冒頭で触れていたのは、AIエージェントが自律的に経済活動をする時代に備える、という政府の金融戦略でした。今回のフォーラムも、名前のとおりAI時代の決済を見据えた場です。

AIどうしが支払いを交わすために整えられていく仕組みが、子育て世帯の食料品の支払いにも届くかもしれません。同じ基盤の上で、人に向けた給付には、どんな配慮が上乗せされていくのでしょうか。


【用語解説】

ステーブルコイン
円やドルなどの法定通貨と同じ価値を保つように設計された、ブロックチェーン上で動くデジタルのお金。日本では資金決済法で「電子決済手段」と位置づけられ、資金移動業者や信託銀行・信託会社などが発行する。

トークン化預金
銀行預金を、ブロックチェーンの上で移転できる形にしたもの。中身は銀行預金のままで、発行するのは銀行である。

プログラマビリティ
お金の動きに、あらかじめ決めた条件を組み込めること。条件を満たしたときだけ支払う、といった処理を自動で行える。

オンチェーン金融
お金や資産のやり取りを、ブロックチェーンの上で行う金融。政府の金融戦略は、既存の金融インフラ(オフチェーン)とのベストミックスを目指すとしている。

ウォレット
デジタルのお金や資産を受け取り、保管し、送るための仕組みやアプリ。利用者が自分で鍵を管理する方式と、事業者が管理する方式がある。

VC(Verifiable Credential)
氏名や資格などの属性を、改ざんできない形で証明するデジタルの証明書。受け取った側が、発行元と内容を検証できる。

資金移動業者
銀行以外で、送金サービスを提供するために登録を受けた事業者。資金移動業者が発行するステーブルコインは、発行者に対する請求権を表す。

信託型(ステーブルコイン)
信託の仕組みを使い、裏付けとなる資産を信託財産として分けて管理するステーブルコイン。持つ人は信託の受益権を持つ。

【参考リンク】

AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム:金融庁(外部)
金融庁が関係省庁と立ち上げたフォーラムのページ。2026年9月30日の第1回の議事次第、説明資料、議事録を掲載している。

デジタル庁(外部)
公金給付へのステーブルコインとトークン化預金の活用を、技術面から検討する省庁。マイナンバー制度や本人確認の基盤も担っている。

スマートフォンのマイナンバーカード|デジタル庁(外部)
マイナンバーカードの機能をスマートフォンに載せる取り組みを、デジタル庁が案内するページ。デジタルの本人確認の一例である。

デジタル行財政改革会議|内閣官房ホームページ(外部)
ステーブルコインの法令上の扱いの整理を担っていた会議のページ。AI・デジタル改革推進会議への改組の経緯も、ここで確認できる。

JPYC株式会社(外部)
円建てステーブルコイン「JPYC」の発行会社。資金移動業者として登録を受け、2025年10月にJPYCの発行と償還を始めた。

JPYSC発行のお知らせ(SBI新生銀行ほか、2026年6月24日)(外部)
SBI新生信託銀行などが、信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行したことを知らせた、2026年6月24日の発表資料。

日本初、預金型ステーブルコイン「トチカ」のサービス開始について(北國銀行)(外部)
北國銀行が、預金をトークン化した地域通貨「トチカ」のサービスを始めたことを知らせた、2024年4月1日のニュースリリースである。

【参考記事】

説明資料(AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム 資料2)(外部)
フォーラムの8つの論点と、7月の金融戦略の抜粋を収めた金融庁の説明資料。公金給付の検討が、デジタル庁の項目として載っている。

鈴木財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要:金融庁(外部)
2021年12月3日の大臣会見録。クーポンを基本とする給付の事務費を967億円と説明し、子育て目的に限る意義を述べている。

子育て世帯への臨時特別給付(内閣府)(外部)
2021年の子育て世帯への10万円相当の給付の概要。対象、所得制限、市町村が選べる給付方式の組み合わせを一覧で示している。

子育て世帯支援の臨時給付金10万円を、年内に現金で一括給付します|板橋区(外部)
板橋区が2021年12月15日、政府の方針を受けて、10万円を年内に現金で一括給付すると決めたことを伝える区の報道発表である。

子育て世帯への臨時特別給付金(クーポン分の残り5万円分)を現金で支給|戸田市(外部)
戸田市が、残り5万円を12月27日に現金で支給すると決めた2021年の市の発表。事務費の軽減や迅速な給付を理由に挙げた。

デジタル行財政改革 取りまとめ2026 概要(内閣官房)(外部)
2026年7月7日の会議決定の概要。会議の改組、事務局の9月の移管、ステーブルコインの法令上の扱いの整理の検討を盛り込んでいる。

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山本 達也 代表社員
合同会社デジタルの窓口 代表。ウェブ解析士。生成AI・サイバーセキュリティ・ 宇宙開発領域を中心に執筆。

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