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ビットコイン量子リスクは限定的─CoinSharesが160万BTC分散効果を指摘

ビットコイン量子リスクは限定的──CoinSharesが160万BTC分散効果を指摘

デジタル資産運用会社CoinSharesは2026年2月6日、ビットコインに対する量子コンピューティングの脅威は過大評価されているとするレポートを発表した。

CoinSharesはBlackRock、Grayscale、Fidelityに次ぐ世界第4位のデジタル資産上場投資商品運用会社で、2025年9月時点で100億ドル以上の運用資産を保有する。

レポートによると、約160万BTC(総供給量の約8%)が古いP2PKアドレスに保管されているが、市場混乱を引き起こす可能性があるのは約10,200BTCのみだ。残りは32,000以上のUTXOに分散し、平均約50BTCとなる。ビットコインの暗号技術を破るには現在のマシンの約10万倍強力な耐障害性量子コンピューターが必要で、脅威は少なくとも10年先とされる。

Ledger CTOのシャルル・ギルメは、GoogleのWillowが105量子ビットであるのに対し、鍵破壊には数百万の量子ビットが必要と指摘した。

From: 文献リンクThe Quantum Threat to Bitcoin Is Smaller Than People Think: CoinShares

【編集部解説】

量子コンピューティングがビットコインのセキュリティを脅かすという議論は、2024年末のGoogle Willowの発表以降、再び注目を集めています。しかし今回のCoinSharesのレポートは、過度な不安を煽る論調に対して冷静な分析を提示しました。

本質的な論点は「どれだけのビットコインが実際に盗まれ得るか」という現実的なリスク評価です。Chaincode Labsが2025年5月に発表した研究では、全ビットコインの20〜50%が量子攻撃のリスクにさらされていると推定されましたが、CoinSharesはこの数字が理論的な露出と実際の脅威を混同していると指摘しています。

P2PK(Pay-to-Public-Key)アドレスは、2009年から2011年頃の初期ビットコインで使われていた形式で、公開鍵がブロックチェーン上に永続的に表示されます。現代の標準的なアドレス形式では、トランザクションを送信する際にのみ公開鍵が露出する仕組みになっており、この点で古いP2PKアドレスは構造的に脆弱といえます。

CoinSharesが強調するのは「分散」という防御要素です。160万BTCのうち市場に影響を与えるほど大きな塊は約10,200BTCのみで、残りは平均50BTCずつ32,000以上のUTXO(未使用トランザクションアウトプット)に分散しています。量子攻撃者は一つずつアドレスをクラックする必要があり、これには膨大な時間とコストがかかります。

技術的なハードルも依然として高いままです。ビットコインが使用するsecp256k1楕円曲線暗号を破るには、Shor’s Algorithmを実行できる数百万量子ビット規模の耐障害性量子コンピューターが必要とされています。GoogleのWillowは105量子ビットであり、必要な性能には遠く及びません。CoinSharesは現在の技術から10万倍の性能向上が必要と試算しており、脅威の顕在化は少なくとも10年先としています。

一方で、準備を怠るべきではないという声も高まっています。米国NSAは2030年までに量子安全な暗号化を義務付け、NISTは2035年以降連邦システムでの楕円曲線暗号(ECC)使用を禁止する計画です。ビットコインコミュニティでも、BIP-360のような提案が議論されています。これはCRYSTALS-DilithiumやSPHINCS+といったNIST認証のポスト量子アルゴリズムを導入し、段階的な移行を可能にする仕組みです。

興味深いのは、この議論が技術的な問題だけでなく、ビットコインの哲学にも触れている点です。一部の専門家は量子に脆弱なコインを「焼却」(使用不可能にする)ことを提案していますが、CoinSharesのクリストファー・ベンディクセンはこれを「ビットコインの原則に反する」として反対しています。所有権の不可侵性という価値観と、ネットワーク全体のセキュリティというトレードオフが問われています。

市場心理の側面も無視できません。ビットコインは2025年10月の126,000ドル超から下落し、70,400ドル付近で推移しています。価格が不安定な時期には、投資家は構造的リスクを探し始めます。量子脅威への懸念は、技術的な現実以上に市場センチメントを動かす要因となっている可能性があります。

CoinSharesの結論は明確です。量子リスクは「管理可能で、解決までの時間的余裕がある」問題であり、緊急事態ではなく予見可能なエンジニアリング課題として扱うべきだと。未来を報じる私たちとしては、技術進化のスピードを注視しながらも、過度な不安に惑わされず冷静に事実を伝えることが重要だと考えます。

【用語解説】

P2PKアドレス(Pay-to-Public-Key)
ビットコイン初期(2009-2011年頃)に使用されていたアドレス形式。公開鍵がブロックチェーン上に永続的に表示されるため、現代の標準的なアドレス形式と比較して量子攻撃に対する脆弱性が高い。

UTXO(Unspent Transaction Output / 未使用トランザクションアウトプット)
ビットコインのトランザクションモデルにおける基本単位。まだ使用されていないトランザクションの出力を指し、新しいトランザクションの入力として使用可能な「コインの塊」を表す。

耐障害性量子コンピューター(Fault-Tolerant Quantum Computer)
量子ビットのエラーを訂正しながら安定的に計算を実行できる量子コンピューター。現在の量子コンピューターはノイズやエラーの影響を受けやすいため、暗号解読のような複雑な計算には耐障害性が必須となる。

量子ビット(Qubit)
量子コンピューターの基本単位。従来のビット(0または1)と異なり、重ね合わせの状態を取ることができ、並列計算を可能にする。ビットコインの暗号を破るには数百万の量子ビットが必要とされる。

secp256k1
ビットコインが使用する楕円曲線暗号の標準規格。公開鍵と秘密鍵のペアを生成するために使われており、量子コンピューターのShor’s Algorithmによって理論上は解読可能とされる。

BIP-360(Bitcoin Improvement Proposal 360)
ビットコインに量子耐性を持たせるための改善提案。CRYSTALS-DilithiumやSPHINCS+といったNIST認証のポスト量子暗号アルゴリズムを導入し、ユーザーが段階的に移行できる新しいウォレット形式を提供する。

NIST(National Institute of Standards and Technology / 米国国立標準技術研究所)
米国商務省に属する連邦機関。暗号技術の標準化を担当しており、2024年にポスト量子暗号の標準を発表。2035年以降、連邦システムでの楕円曲線暗号(ECC)使用を禁止する計画を進めている。

【参考リンク】

CoinShares(外部)
世界第4位のデジタル資産運用会社。100億ドル以上の資産を運用し、量子脅威に関する最新レポートを発表した。

BIP-360: Pay to Quantum Resistant Hash(外部)
ビットコインに量子耐性を導入する改善提案の公式サイト。技術仕様と実装ガイドを提供している。

Ledger(外部)
ハードウェアウォレットのリーディングカンパニー。CTOが量子リスク評価で専門的見解を提供している。

Google Quantum AI(外部)
Googleの量子コンピューティング研究部門。105量子ビットのWillowチップを発表した。

【参考動画】

CoinSharesの専門家がビットコインに対する量子脅威について解説するインタビュー動画。Yahoo Financeによる公式チャンネルでの配信。

MIT Bitcoin Expo 2025でのBIP-360に関する技術プレゼンテーション。量子耐性ソリューションの実装方法について詳細に説明している。

【参考記事】

Quantum Vulnerability in Bitcoin: A Manageable Risk – CoinShares(外部)
CoinSharesの公式レポート。約160万BTCがP2PKアドレスに保管されているが、市場混乱を引き起こす可能性があるのは約10,200BTCのみと分析。

CoinShares says only 10200 BTC face real quantum risk – Yahoo Finance(外部)
32,000以上のUTXOに平均50BTCずつ分散している事実を強調。ビットコイン価格が126,000ドルから70,400ドル付近まで下落した市場環境にも言及。

BIP-360: Enabling Quantum-Resistance for Bitcoin (PDF) – BIP360.org(外部)
BIP-360の公式プレスリリース。NIST認証のポスト量子アルゴリズムの導入計画とNSA、NISTの規制動向について記載。

【編集部後記】 

量子コンピューティングとビットコインの関係は、私たちが「未来の技術リスク」とどう向き合うべきかを考えさせてくれます。10年後の脅威に対して、今から準備を始めるべきなのか、それとも技術の進化を信じて待つべきなのか。みなさんはどう思われますか?

分散型であることがビットコインの強みとされてきましたが、今回のレポートではその「分散」が量子攻撃への防御にもなっているという指摘が興味深いですね。一方で、機関投資家が求める「明確な長期計画」の必要性も理解できます。この議論、一緒に追いかけていきませんか?

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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