東京都が円建てステーブルコイン補助金を開始、1社最大4,000万円・補助率3分の2で社会実装を後押し

[更新]2026年4月21日

ブロックチェーン上で動く「デジタルの円」が、私たちの暮らしに近づいてきている。東京都が円建てステーブルコインの社会実装に動いた背景には、次世代金融インフラをめぐる静かな、しかし熾烈な競争がある。


東京都産業労働局は2026年4月17日、円建てステーブルコインの社会実装に取り組む事業者を対象とした補助金事業を開始すると発表した。対象は、円建てステーブルコインを用いたユースケースを創出する事業者であり、外部基盤利用経費、専門家への相談および監査等に伴い発生する経費、システム開発経費が補助対象となる。

補助率は対象経費の3分の2、補助上限額は1社あたり4,000万円である。募集期間は2026年4月17日から2026年6月30日まで。申請方法等の詳細は東京都産業労働局のホームページに掲載されている。本事業は「2050東京戦略」の戦略12「国際金融」に位置付けられ、国際金融都市・東京のプレゼンス確立を目的とする取組である。

問い合わせ先は産業労働局総務部国際金融都市推進課。

From: 文献リンク円建てステーブルコイン社会実装に取り組む事業者向け補助金|東京都都庁総合ホームページ

【編集部解説】

東京都が地方自治体として円建てステーブルコインの普及を後押しする補助金制度を打ち出したこと。これは単なる金融支援策を超えた、きわめて戦略的な意思表示だと受け止めています。

世界のステーブルコイン市場は、2026年初頭に総時価総額が約3,200億ドル(約48兆円)を突破しました。しかしその内訳を見ると、TetherのUSDTが約58%、CircleのUSDCが約24%を占め、その他のドル建て銘柄も含めるとドル建てが全体の約99%に達します。対して、円建てはごくわずか、ユーロ建てすら全体の1%にも満たないのが実情です。デジタルマネーの世界は、現在進行形で「ドル一極集中」の様相を呈しているわけです。

この構図の裏には何があるのか。決済インフラが特定通貨に寡占されるということは、長期的には通貨主権の議論にまで波及する可能性がある問題です。東京都が国ではなく都として動いた点には、「国際金融都市・東京」を掲げる自治体ならではの危機感と、スピード感が表れていると感じます。

技術的な背景にも触れておきます。2023年6月に改正資金決済法が施行され、日本は世界に先駆けてステーブルコインを「電子決済手段」として法的に位置付けました。これにより、銀行・資金移動業者・信託会社という3類型の発行主体が明確化されました。2025年10月にはJPYC社が国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行を開始し、さらにSBIホールディングスとStartale Groupが信託型の「JPYSC」を2026年第2四半期にローンチ予定と発表しています。今回の補助金は、こうした民間の動きを下支えする位置付けにあると読み取れます。

ユースケースの創出に焦点を絞った点も、施策としての巧みさを感じる部分です。発行体そのものへの支援ではなく、「円建てステーブルコインを使って何ができるか」を実装する事業者を対象にしている。これは、技術が普及するための本質が「発行」ではなく「使われる場面」にあることを、東京都が正確に見抜いている証だと思います。

実現が期待される具体的なシーンとしては、B2B決済の24時間化、海外送金の迅速化・低コスト化、トークン化された有価証券の決済、さらにはAIエージェント同士のマイクロペイメントなどが挙げられます。とくに最後の「AI間の自動決済」は、ステーブルコインが次世代インターネットの決済レイヤーになる可能性を示唆しており、未来への接続点として注目に値します。

一方で、潜在的なリスクにも目を向ける必要があります。ステーブルコインは「価格が安定している」という前提に立っていますが、裏付け資産の運用失敗や、発行体のガバナンス不全、サイバー攻撃による資産流出など、事故が起きれば価値の毀損は避けられません。2022年のTerra/LUNA崩壊、2023年のUSDC一時的なデペッグ(ドル連動の乖離)といった過去の教訓は、まだ記憶に新しいところです。

また、マネーロンダリング(資金洗浄)への悪用懸念や、消費者保護の観点から、規制当局と事業者の継続的な対話も欠かせません。金融庁はすでに、暗号資産の監督を資金決済法から金融商品取引法へ移管する方針を示しており、規制のフレームワークは今後も動き続けます。事業者は、補助金を活用して実装を急ぐ一方で、この変化を先読みしたコンプライアンス体制の構築が求められるでしょう。

もう一つ、見落とされがちな論点に触れておきます。それは「自治体がこの領域に直接関与することの意味」です。従来、国際金融政策は国家レベルの話題でしたが、東京都が自ら予算を付け、事業者支援に乗り出したことは、グローバル都市間競争の時代を象徴する出来事だと捉えられます。シンガポール、香港、ドバイといった金融ハブが国策レベルでWeb3を呼び込むなか、東京が都単位でアクションを起こした意義は、今後じわじわと効いてくるはずです。

長期的な視点で見れば、円建てステーブルコインの普及は、日本経済のデジタル化という大きな潮流のなかに位置付けられます。キャッシュレス決済比率の向上、貿易決済の多様化、個人レベルでの資産運用の選択肢拡大。これらが有機的に結びついたとき、「デジタル円経済圏」と呼ぶべき生態系が立ち上がるかもしれません。

テクノロジーは常に、期待と不安の両面を私たちに突きつけます。ステーブルコインもまた、決済の民主化という光の側面と、金融システムの脆弱化という影の側面を併せ持つ存在です。だからこそ、こうした制度的な動きを冷静に観察し、読者のみなさん一人ひとりが「自分ごと」として考える素材にしていただきたい。それが、未来の金融インフラを自分たちの手で作っていく第一歩になると、私は考えています。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨(円、米ドルなど)や国債といった裏付け資産と価値が連動するよう設計されたデジタル通貨である。価格変動の激しい暗号資産と異なり、1コイン=1円、1コイン=1ドルといった一定の価値を保つように運用される。ブロックチェーン上で発行されるため、国境を越えた送金や24時間稼働の決済が可能だ。

社会実装
研究や実験段階にあった技術を、実際の社会の現場で使える形に落とし込み、広く利用可能にするプロセスを指す。「実証実験」の次の段階に位置する概念である。

ユースケース
ある技術やサービスが「どのような場面で、どう使われるか」を示す具体的な活用事例のこと。技術そのものではなく、利用シーンに焦点を当てる言葉だ。

改正資金決済法
2023年6月に施行された法律で、日本において世界に先駆けてステーブルコインを「電子決済手段」として法的に定義した。銀行・資金移動業者・信託会社の3類型を発行主体として認め、利用者保護の枠組みを整備している。

電子決済手段
改正資金決済法で新設された法的カテゴリーであり、法定通貨と価値が連動するデジタル資産を指す。暗号資産とは別物として位置付けられている点が特徴である。

信託型ステーブルコイン
信託銀行が発行主体となり、裏付け資産を分別管理する方式のステーブルコイン。発行体破綻時にも利用者の資産が保全されやすいため、機関投資家や企業利用に適しているとされる。

デペッグ
ステーブルコインの価格が、連動目標としている法定通貨から乖離してしまう現象のこと。2023年3月の米銀行破綻時にUSDCが一時的にドル連動を失った事例が有名だ。

トークン化
株式、債券、不動産、美術品などの資産をブロックチェーン上のデジタルトークンとして表現する技術。分割保有や24時間取引を可能にする。

AIエージェント
ユーザーの代わりに自律的にタスクを実行する人工知能システムのこと。近年、AIエージェント同士が自動的に決済を行う「マシン・ツー・マシン決済」の基盤として、ステーブルコインが注目されている。

マイクロペイメント
数円〜数十円といった少額決済のこと。クレジットカード決済では手数料負担が大きく成立しづらかったが、ステーブルコインによる低コスト送金で実現性が高まっている。

Terra/LUNA崩壊
2022年5月に発生した、アルゴリズム型ステーブルコイン「Terra(UST)」とその姉妹通貨「LUNA」の価値が数日で暴落した事件。世界のステーブルコイン業界に規制強化の契機をもたらした象徴的な出来事である。

マネーロンダリング(資金洗浄)
犯罪等で得た不正資金の出所を隠すため、複数の口座や資産を経由させて正当な資金に見せかける行為。国境を越えて瞬時に送金できるステーブルコインは、その対策が国際的な課題となっている。

補助率
事業にかかる対象経費のうち、補助金でカバーされる割合のこと。今回の東京都の制度では対象経費の3分の2が補助される。

【参考リンク】

東京都 産業労働局 ステーブルコイン社会実装促進事業補助金(外部)
本補助金制度の公式ページ。交付要綱、募集要領、申請方法などの詳細が掲載されている。

東京都 2050東京戦略(外部)
本補助金の上位計画にあたる東京都の長期戦略。戦略12「国際金融」の詳細もここで確認できる。

JPYC株式会社(コーポレートサイト)(外部)
日本初の資金移動業者型円建てステーブルコイン「JPYC」を発行する企業の公式コーポレートサイトである。

JPYC EX(発行・償還プラットフォーム)(外部)
JPYCの発行・償還を行うプラットフォームサービスのサイト。手数料無料で1円=1JPYCの発行・償還が可能。

JPYC(サービス紹介サイト)(外部)
円建てステーブルコイン「JPYC」の利用者向けサービス紹介サイト。購入方法や活用事例を案内している。

SBIホールディングス株式会社(外部)
日本の金融持株会社。Startale Groupと共同で信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を2026年第2四半期にローンチ予定。

Startale Group(外部)
国内最大級のパブリックブロックチェーン「Astar Network」を手掛けるWeb3インフラ企業。JPYSC事業を推進する。

Tether(外部)
世界最大のステーブルコイン「USDT」の発行体。市場シェアは約58〜60%を占めている。

Circle(外部)
世界第2位のステーブルコイン「USDC」を発行する米国企業。規制遵守を重視した運営で知られる。

金融庁(外部)
日本の金融を監督する行政機関。ステーブルコイン発行者の登録審査や監督を担っている。

【参考動画】

【参考記事】

Stablecoin Market Crosses $320B as Tether USDT Dominance Falls 2.5% in 2026(Bitcoin.com News)(外部)
2026年4月時点でステーブルコイン市場が3,200億ドルを突破しUSDTシェア57.96%と伝える記事。

JPYC Launches Japan’s First Regulated Yen Stablecoin(CoinMarketCap Academy)(外部)
JPYCが2025年10月27日に正式リリースされ3年間で10兆円発行目標と報じる記事である。

Stablecoins on the rise: still small in the euro area, but spillover risks loom(ECB)(外部)
欧州中央銀行のレポート。ドル建てがステーブルコイン全体の99%を占めるという数字を提示している。

SBI Holdings, Startale Group to issue first trust-based yen stablecoin JPYSC(Crypto Briefing)(外部)
SBIとStartaleが信託銀行型円建てステーブルコインJPYSCを2026年Q2に発行予定と報じる記事。

Japan’s New Yen Stablecoin is Asia’s Only Truly Global Fiat-Pegged Token(CoinDesk)(外部)
円の自由兌換性がアジア唯一のグローバルなステーブルコイン基盤となり得る独自視点を提示する。

Startup JPYC Launches First Yen-Pegged Stablecoin in Japan(PYMNTS.com)(外部)
JPYCの収益モデルが取引手数料ではなく国債利息によると伝えるロイター引用の記事である。

東京都、円建てステーブルコインの社会実装支援 最大4000万円補助(日本経済新聞)(外部)
本件の東京都発表を報じる日経記事。円建て流通量拡大と為替リスク低減の狙いを補足する。

【関連記事】

PayPay、台湾で海外支払いモード開始—HIVEX®で40万店舗対応、韓国に続く第二弾
PayPayの台湾展開を支えるHIVEX®ネットワークとステーブルコインによる国際清算構想(Project HIVEX StableLink)を扱った姉妹記事。「円建てステーブルコインがアジア決済網に乗る未来」という問いを投げかけており、本記事と合わせて読むと「円の国際化」の全体像が見えてくる。

JPYSC:SBIとStartale Groupが日本初の信託型円建てステーブルコインを発表
本記事で触れたSBIホールディングスとStartale GroupによるJPYSCの発表詳細を扱う記事。信託型(3号電子決済手段)としての仕組みを深掘りしている。

JPYC、10月27日に日本初の円建てステーブルコイン正式発行|発行残高10兆円を目指す金融インフラへ
本記事で言及したJPYCの正式ローンチ(2025年10月27日)を報じた記事。発行目標10兆円の背景や金融インフラとしての位置付けを解説している。

JPYC Explorer登場—ブロックチェーン監査の「空白」を埋める日本初のインフラ
企業導入に必要な「監査可能性」を実装したツールに関する記事。ユースケース創出の実例として理解を深められる。

りそな・JCB・デジタルガレージ、実店舗でステーブルコイン決済の実証実験を開始—JPYCとUSDCに対応
ステーブルコインの社会実装が実店舗レベルで進む事例記事。今回の補助金が後押しする「ユースケース創出」の具体例として参照できる。

野村・大和・3メガ銀がブロックチェーンで国債・株式取引を実証、金融庁が支援決定
金融庁がステーブルコインを含むブロックチェーン金融実証を支援した事例。国レベルの動きと東京都の動きを対比して理解できる。

日銀、ブロックチェーン×AIの新金融エコシステム構想を発表
日本銀行総裁がブロックチェーンと生成AIによる新金融エコシステムを語った講演の記事。マクロ視点での将来像を補完する。

Sony BankとJPYCが戦略提携─銀行口座から直接ステーブルコイン購入、エンタメ決済へ
既存銀行とステーブルコイン発行体の連携事例。円建てステーブルコインの社会実装が具体的な製品へ落とし込まれている実例。

チェンジHDが日本円ステーブルコインで地方創生を加速──JPYC活用の3つの実験
JPYCを活用した地方創生の取り組み。ふるさと納税やインバウンド決済など、ユースケース創出の多様性を示す好例。

【編集部後記】

先日のPayPay台湾展開の記事で「PayPayがいつかステーブルコインになるとき」という問いを投げかけました。その記事を書いているときは、正直なところ、答えが出るのはまだ先の話だと思っていました。ところがその数日後に、東京都が円建てステーブルコインの社会実装を本気で支援する制度を打ち出してきた。未来は、思っているよりも早く現実になろうとしているのかもしれません。

台湾のコンビニでPayPayをかざす瞬間と、東京のオフィスで補助金申請書を作る瞬間。一見まったく違う場面が、実は同じひとつの大きな潮流の中にある。みなさんの目には、この流れはどう映るでしょうか。「便利そう」という実感でも、「少し不安」という違和感でも、どちらも大切な視点だと思います。未来の金融インフラをつくるのは、制度でも技術でもなく、使う人の声の集まりですから。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。