Last Updated on 2024-11-05 13:28 by admin
OWASPは2024年10月31日、生成AI(GenAI)に関する3つの新しいセキュリティガイダンスを発表しました。このプロジェクトには世界110社以上から500人以上の専門家が参加し、5,500人以上のコミュニティメンバーを持つ規模に成長しています。
主な対策ガイドライン
ガイドでは4つの主要なディープフェイクシナリオを想定し、それぞれに対する具体的な対策を提示しています:
- 経営者になりすました金融詐欺
- 不正アクセスのためのソーシャルエンジニアリング
- 評判や市場操作のための誤情報拡散
- 採用面接での成りすまし
from:OWASP Beefs Up GenAI Security Guidance Amid Growing Deepfakes
【編集部解説】
ディープフェイク対策に関する今回のOWASPの発表について、より詳しく解説させていただきます。
まず注目すべきは、このガイダンスが単なる技術的な対策だけでなく、組織全体での包括的な対応を重視している点です。これは、ディープフェイク技術が急速に進化し、従来の検出技術だけでは対応が難しくなってきていることを示しています。
実際の被害事例からも、その深刻さが明らかになっています。香港の銀行で発生した2,500万ドルの詐欺事件では、CTOを含む複数の従業員のディープフェイクが作成され、会議通話で資金移動が指示されました。
特に注目すべき点として、Accentureの調査によると、ダークウェブでのディープフェイク関連ツールの取引が2023年第1四半期から2024年第1四半期にかけて223%も増加しています。高品質な動画の場合、1分あたり2万ドルもの価格がつくケースもあるそうです。
セキュリティ企業KnowBe4の事例は、現代の採用プロセスの脆弱性を浮き彫りにしました。北朝鮮の攻撃者が、AIで加工した写真と盗んだ個人情報を使用して採用面接を通過し、社内システムにマルウェアを仕掛けようとした事例です。
このような状況を踏まえ、OWASPの新ガイダンスでは、以下の3つの重要な観点から対策を提示しています:
- 組織全体でのインシデント対応計画の整備
- AIセキュリティの専門チームの設置
- 適切なAIセキュリティソリューションの選定
特に重要なのは、単にディープフェイクの検出に頼るのではなく、業務プロセス自体を見直す必要性を指摘している点です。例えば、重要な決定には複数の承認ステップを設けるなど、組織的な対策が推奨されています。
今後の展望として、この問題は単なるセキュリティの課題を超えて、社会的な信頼性の問題にも発展する可能性があります。特に2024年は世界各地で重要な選挙が予定されており、政治的な影響も懸念されています。
企業の皆様には、このガイダンスを参考に、自社のセキュリティ体制を見直すことをお勧めします。特に、リモートワークが一般化している現在、オンラインでのコミュニケーションの信頼性確保は急務となっています。
この問題への対応は技術面だけでなく、従業員教育や組織文化の醸成も重要です。「疑わしい場合は確認する」という文化を組織に根付かせることが、効果的な対策の第一歩となるでしょう。
皆さんの組織では、オンラインでの重要な意思決定プロセスをどのように確認していますか?
例えば、緊急の送金依頼や重要な契約の承認など、オンラインでのやり取りが当たり前になった今、その「確からしさ」をどう担保するか。これは技術だけでなく、組織の在り方そのものを問う課題かもしれません。