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Kubescape事例から学ぶオープンソース戦略:20万クラスターが証明する信頼構築の力

Kubescape事例から学ぶオープンソース戦略:20万クラスターが証明する信頼構築の力 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-20 07:55 by admin

ARMOのCEO兼共同創設者であるShauli Rozen氏が2025年4月19日にVentureBeatに寄稿した記事では、ソフトウェア企業がオープンソース戦略を採用する際の利点と課題について解説しています。

同社はクラウドネイティブセキュリティスキャナー「Kubescape」をLinux FoundationのCloud Native Computing Foundation(CNCF)を通じてオープンソース化し、最近インキュベーティングプロジェクトのステータスに昇格しました。Kubescapeは現在、世界中の数千の企業で使用されています。

オープンソース化の主な利点として:
1. DevOpsチームからの信頼獲得(コードの透明性により)
2. 信頼できる財団との連携による信頼性の向上
3. より多くのユーザーによる実世界でのテスト機会
4. 広範なフィードバックと迅速な改善サイクル

ARMOは企業顧客がわずか数十社しかない段階で、Kubescapeが20万以上のクラスターで使用されていることを発見し、膨大なユーザーベースからのフィードバックを活用して製品の改善を迅速に進めることができました。

一方、課題としては:
1. プロダクトの使用方法に対するコントロールの喪失
2. 有料機能を回避するユーザーの存在
3. 他者が自社の技術を利用して商業製品を作る可能性

記事では、オープンソース化は基本的に「一方通行」の決断であると警告しています。HashiCorpの例を挙げ、同社がTerraformのライセンスをNPLからBSLに変更した際、ユーザーがプロジェクトをフォークするという反発に直面したことを指摘しています。

Rozen氏は、オープンソース戦略の成功には、ユーザーベースと技術の提供が一致し、ミッションを支持する評判の良い財団との連携が重要だと結論づけています。

from:The open source advantage: Faster bugs, better builds, wider buy-in

【編集部解説】

オープンソース戦略を採用するかどうかは、今日のソフトウェア企業にとって単なる技術的な決断ではなく、ビジネスモデル全体に影響を与える重要な戦略的選択です。ARMOのCEO Shauli Rozen氏の記事は、実際の成功事例に基づいた貴重な洞察を提供しています。

Kubescapeというクラウドネイティブセキュリティスキャナーのオープンソース化の経験から、Rozen氏は「透明性」と「信頼構築」の重要性を強調しています。特にセキュリティ関連のツールでは、ユーザーがコードを検証できることが採用の大きな障壁を取り除くことになります。DevOpsチームは新しいツールを導入する際、セキュリティリスクや既存環境への影響を常に懸念しているからです。

注目すべきは、ARMOが企業顧客わずか数十社の段階で、Kubescapeが20万以上のクラスターで使用されていたという事実です。これは、オープンソース戦略が適切に実行された場合の爆発的な普及力を示しています。従来のクローズドソースモデルでは、このような広範な採用は非常に困難だったでしょう。

しかし、オープンソース化には明確な課題も存在します。最も顕著なのは「コントロールの喪失」です。一度コードを公開すると、誰がどのように使用するかをコントロールすることはできません。さらに、無料版のみを使用するユーザーや、あなたのコードを基に競合製品を開発する企業も現れるでしょう。

特に日本の企業文化においては、知的財産の保護意識が強く、オープンソース化への移行に慎重な傾向があります。しかし、グローバル市場での競争力を高めるためには、この「コントロールの喪失」を恐れるのではなく、コミュニティの力を活用する発想の転換が求められています。

オープンソース戦略の成功には、適切な収益化モデルの構築が不可欠です。記事で触れられている「オープンコア」モデル(基本機能はオープンソースで提供し、高度な機能やサポートは有料で提供する)は、MongoDB、Elastic、GitLabなど多くの企業が採用している戦略です。

また、信頼できる財団(Linux FoundationやCloud Native Computing Foundationなど)との連携も重要な成功要因です。これらの財団は、プロジェクトの品質保証やガバナンス体制の確立に役立ち、コミュニティからの信頼獲得に貢献します。

興味深いのは、オープンソース化が「一方通行」の決断であるという指摘です。HashiCorpがTerraformのライセンスをより制限的なものに変更した際に直面した反発は、一度オープンにしたものを閉じることの難しさを示しています。2023年8月、HashiCorpがTerraformのライセンスをMPL(Mozilla Public License)からBSL(Business Source License)に変更した際、コミュニティはOpenTFというフォークプロジェクトを立ち上げ、大きな支持を集めました。

日本のテクノロジー企業にとって、オープンソース戦略は単なるコスト削減の手段ではなく、グローバルなエコシステムに参加し、イノベーションを加速させるための重要な選択肢となっています。特にクラウドネイティブやAI関連の技術領域では、オープンソースコミュニティとの協働なしに競争力を維持することは難しくなっています。

最終的に、オープンソース化の決断は、ターゲットユーザー、技術の性質、長期的なビジネス戦略を総合的に考慮して行うべきものです。Rozen氏の経験が示すように、条件が整えば、オープンソース戦略は企業の成長と技術の進化を大きく加速させる可能性を秘めています。

【用語解説】

オープンソース
ソフトウェアのソースコードを公開し、誰でも自由に使用、修正、再配布できるようにする開発モデル。家の設計図を公開して、誰でも改良や修正ができるようにするようなものだ。

Kubernetes(K8s)
コンテナ化されたアプリケーションの自動デプロイ、スケーリング、管理を行うためのオープンソースのプラットフォーム。

クラウドネイティブ
クラウド環境を最大限に活用するために設計されたアプリケーションやサービスの開発・運用アプローチ。従来の固定サーバーではなく、クラウドの柔軟性を前提とした設計思想だ。

DevOps
開発(Development)と運用(Operations)を統合したソフトウェア開発手法。開発チームと運用チームの壁を取り払い、協力して効率的にソフトウェアを提供する。

CNCF(Cloud Native Computing Foundation)
クラウドネイティブコンピューティングを推進する非営利団体。Kubernetesなど多くのオープンソースプロジェクトをホストしている。

セキュリティスキャナー
システムやアプリケーションの脆弱性を自動的に検出するツール。

オープンコアモデル
基本機能はオープンソースで提供し、高度な機能やサポートは有料で提供するビジネスモデル。

ライセンス(MPL/BSL)
ソフトウェアの使用、修正、配布に関する法的条件を定めたもの。MPL(Mozilla Public License)やBSL(Business Source License)は特定の条件下での商用利用に制限を設けるライセンス。

インキュベーティングプロジェクト
CNCFなどの財団で、成熟度が一定レベルに達し、正式なサポートを受けるステータスに昇格したプロジェクト。

【参考リンク】

ARMO(外部)
Kubescapeを開発した企業で、Kubernetes向けのセキュリティソリューションを提供している

Kubescape(外部)
Kubescapeの公式GitHubリポジトリ。オープンソースのKubernetesセキュリティプラットフォーム

Cloud Native Computing Foundation (CNCF)(外部)
クラウドネイティブ技術を推進する財団で、Kubescapeなどのオープンソースプロジェクトをホスト

HashiCorp(外部)
記事内で言及されているTerraformを開発した企業。インフラストラクチャ自動化ツールを提供

Elastic(外部)
記事内で言及されている企業。Elasticsearchなどのオープンソースソリューションを提供

Linux Foundation外部)
オープンソースソフトウェアの開発と普及を支援する非営利団体。CNCFの親組織

【参考動画】

【編集部後記】

みなさんの組織やプロジェクトでは、オープンソース戦略をどのように活用していますか?自社開発のソフトウェアをオープンソース化することで得られる「信頼」や「フィードバック」の価値は、ビジネスモデルの再考に値するかもしれません。特に技術志向の強いユーザーを対象とするサービスでは、透明性がもたらす競争優位性は計り知れません。日本企業ならではのオープンソースへの関わり方について、皆さんのご意見やご経験をぜひコメント欄でシェアしていただければ幸いです。次回の記事では、日本発のオープンソースプロジェクトの成功事例も取り上げていきたいと思います。

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TaTsu
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