Last Updated on 2025-05-18 15:56 by admin
Gartnerのセキュリティリサーチ&アドバイザリーチームのディレクターアナリストであるCraig Porter氏が2025年5月16日に発表した記事によると、サイバーセキュリティインシデント対応プログラム(CSIRP)のメトリクス開発と効果的な伝達方法について解説している。
Porter氏は、セキュリティおよびリスク管理(SRM)リーダーが経営幹部からの圧力に直面する中、インシデント対応プロセスの品質、速度、労力を評価するメトリクスの重要性を強調している。規制上の開示要件やプライバシー懸念が高まる中、定量的・定性的な成果主導型メトリクスの開発と適切な対象者への効果的な伝達が必要だと述べている。
従来のメトリクスは速度を優先し、インシデント管理戦略の真の有効性評価に欠けていた。Porter氏は、セキュリティインシデント対応チームが効率性(速度)と有効性(品質)の両方に集中すべきだと主張している。効率性メトリクスはタスク完了に必要な時間と労力を測定し、有効性メトリクスは結果の品質を評価する。
CSIRPを効果的に運用するためには、文書化されたプログラムと責任、期待される成果、優先事項を概説する正式なポリシーの作成が重要である。Porter氏は、メトリクス設計をビジネス目標に合わせ、ビジネスの優先事項に基づいてメトリクス自体を優先順位付けすることを推奨している。
効率性と有効性を最適化するための具体的なステップとして、単一のメトリクスを単独で見ることを避け、大小のインシデントに関するデータを収集すること、そしてメトリクスがビジネスにとって完全で使用可能かを測定することを挙げている。
また、メトリクスは時間とともに進化するため、専門家はこれらを洗練させる準備が必要であり、各メトリクスの追跡と報告の利点がその維持コストを上回るかどうかを検討する必要があるとしている。
Gartnerの調査によると、2025年までにサイバーリーダーの約半数が職を変え、25%が完全に異なる役割に移行すると予測されている。これは、パンデミックと業界全体の人員不足による加速の一例である。
References:
How to Develop and Communicate Metrics for CSIRPs
【編集部解説】
サイバーセキュリティの世界では、インシデント対応の効果を測定するメトリクスの重要性が高まっています。Gartnerのディレクターアナリスト、Craig Porter氏が指摘するように、単なる対応速度だけでなく、対応の質と効果を測定することが企業の安全性確保に不可欠となっています。
Porter氏は、従来の時間ベースのメトリクス(MTTD、MTTRなど)だけでは不十分であり、ビジネスへの影響や対応の質を考慮した包括的な評価が必要だと強調しています。従来のセキュリティメトリクスの最大の課題は、単に「どれだけ早く対応できたか」という速度に焦点を当てすぎている点です。インシデント対応は単なる技術的な問題解決ではなく、ビジネス全体への影響を考慮した戦略的なプロセスであるべきなのです。
特に注目すべきは、Porter氏が提案する「効率性」と「有効性」の両方に焦点を当てたアプローチです。効率性は速度と労力を測定し、有効性は結果の質を評価します。この二つのバランスを取ることで、真に効果的なインシデント対応が可能になります。
また、ステークホルダーとのコミュニケーションの重要性も見逃せません。効果的なステークホルダーコミュニケーションには、主要ステークホルダーの特定、明確なコミュニケーションチャネルの確立、定期的な更新と報告が含まれます。これは単なる技術的な報告ではなく、各ステークホルダーグループのニーズに合わせたコミュニケーション戦略の構築が必要です。
このアプローチの実践的な影響として、企業はインシデント対応プロセスをより包括的に評価し、改善できるようになります。例えば、単にインシデントの検出から解決までの時間だけでなく、内部統制によって検出されたインシデントの割合や、外部関係者によって検出されたインシデントの割合なども重要なメトリクスとなります。
企業がこれらの包括的なメトリクスを採用することで得られるメリットは大きいでしょう。まず、セキュリティインシデントの真の影響を理解し、適切なリソース配分を行うことができます。また、経営陣に対してセキュリティ投資の価値を明確に示すことも可能になります。
しかし、このアプローチには課題もあります。メトリクスの開発と維持には時間とコストがかかります。Porter氏が指摘するように、各メトリクスの追跡と報告の利点がその維持コストを上回るかどうかを慎重に検討する必要があります。
将来的には、AIや機械学習の進化により、より高度で予測的なセキュリティメトリクスの開発が期待されます。これにより、インシデントが発生する前に潜在的な脅威を特定し、予防的な対策を講じることが可能になるでしょう。
最終的に、CSIRPのメトリクス開発とコミュニケーションは、単なる技術的な演習ではなく、ビジネス全体のレジリエンスを高めるための戦略的な取り組みです。常に変化する脅威環境において、組織を保護するための情報に基づいた意思決定を可能にする透明性を提供することが、その本質的な目的なのです。
【用語解説】
CSIRP(Cyber Security Incident Response Plan):
サイバーセキュリティインシデント対応計画。サイバー攻撃やデータ侵害が発生した際に迅速かつ適切に対応するための事前に定められた計画書。災害時の避難計画のサイバー版と考えるとわかりやすい。
SRM(Security and Risk Management)リーダー:
セキュリティとリスク管理を担当する責任者。組織のセキュリティ戦略の策定と実行を主導する役割を持つ。
メトリクス:
測定可能な指標のこと。セキュリティ対策の効果や効率を数値化して評価するための基準。例えば、インシデント検知までの平均時間(MTTD)や対応完了までの平均時間(MTTR)などがある。
CSIRT(Computer Security Incident Response Team):
セキュリティインシデントが発生した際に対処する専門チーム。平常時は脆弱性の収集・分析を行い、インシデント発生時は速やかに対応する。
SOC(Security Operation Center):
サイバー攻撃対策を専門とするセキュリティチーム。セキュリティ機器やネットワーク機器の監視とログ分析を行い、インシデント発生時には影響範囲を算出して対策を講じる。
【参考リンク】
Gartner(外部)
世界的な調査・アドバイザリー企業。IT分野の調査レポートやアドバイザリーサービスを提供している。
Black Duck Software Risk Manager(外部)
複数のセキュリティツールの結果を統合し、アプリケーションセキュリティプログラムを管理するためのソリューション。
チェック・ポイント インシデント対応サービス(外部)
セキュリティインシデントに苦しむ組織を支援するサービスを24時間365日提供している。
【参考動画】
【編集部後記】
みなさんの組織では、セキュリティインシデント対応の効果をどのように測定していますか?単に「対応にかかった時間」だけでなく、「対応の質」や「ビジネスへの影響」も含めた包括的なメトリクスを設計することで、セキュリティ対策の真の価値が見えてくるかもしれません。ぜひ自社のCSIRPを見直す機会に、「何を」「どのように」測定すべきか、チームで議論してみてはいかがでしょうか。効果的なメトリクスが、セキュリティ投資の意思決定を変える可能性があります。
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