生成AIが生み出す偽・誤情報は、もはや「バズるネタ」ではなく社会インフラそのものを揺らす存在になりつつあります。
その最前線で、富士通の「Frontria」は、世界中の組織を巻き込みながら“信頼できるAI社会”をどこまで取り戻せるのかに挑もうとしています。
富士通株式会社は2025年12月2日、生成AIによる偽・誤情報拡散やAIシステムの脆弱性、EU AI Actなどの法規制対応に取り組む国際コンソーシアム「Frontria」を創立した。
Frontriaには、金融、保険、メディア、エンターテインメント、リーガル、AI事業など多様な業界の企業や大学、研究機関、法律事務所を含む50以上の組織・有識者が参画し、「偽・誤情報対策」「AIトラスト」「AIセキュリティ」の3領域でユースケース検討と技術IPの創出を進める。
2026年度中に100以上のグローバル参画組織によるコンソーシアムへ発展させる計画であり、フェイク検知やAIの公平性などのコア技術をトライアル提供しながら、市場展開と収益化の機会を生み出すことを目指している。
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偽・誤情報や新たなAIリスクに対応する国際コンソーシアム「Frontria」を創立



【編集部解説】
生成AIが社会インフラに入り込みつつある今、「Frontria」はAIの光と影のうち、影の側に正面から向き合う場として設計されているように感じます。偽・誤情報やフェイクコンテンツは、SNS上の迷惑行為にとどまらず、インターネット上の悪意ある行為が巨額の経済損失を生むと指摘されるほど、国家や企業の意思決定に影響するリスクになっています。
今回富士通が選んだのは、「一社のプロダクト」ではなく「国際コンソーシアム」という形です。50以上の企業や大学、法律事務所などが集まり、技術やデータ、ユースケースを持ち寄ることで、単体ソリューションではなく「エコシステムとしての耐性」をつくろうとしているように見えます。
技術的な焦点は「偽・誤情報対策」「AIトラスト」「AIセキュリティ」の3つですが、その背景にはマルチモーダルなフェイク検知、AIの公平性評価、システム脆弱性の継続監視など、複数レイヤーの技術群が存在します。Frontriaは、業界別ワーキンググループと開発者コミュニティを組み合わせることで、研究レベルの技術を実務ユースケースに落とし込み、IP化・ビジネス化まで接続しようとしています。
また、読者目線で重要なのは、Frontriaが特定地域の規制対応にとどまらず、EU AI Actのような厳格な法規制と各国・各業界の実務リスクを同時に見ている点です。金融や保険の不正請求、メディア・エンタメの選挙フェイク、リーガル分野の差別的判断や説明責任といった課題が、「AI起因の信頼喪失」という一本の線で結び直されているように感じます。
ポジティブな側面として、こうしたコンソーシアム型の取り組みによって、AI起因の偽情報やセキュリティインシデントが「予測不能なカオス」から「確率とコストを見積もれるリスク」に近づいていく可能性があります。長期的には、コンテンツのプロベナンス証明やリアルタイムなフェイク検知、透明性の高いAI監査といった仕組みが、ニュースメディアやSNSだけでなく企業の内部統制やレギュレーションテックにも波及していくでしょう。
一方で、偽情報対策技術が監視強化や表現の萎縮につながるリスクも無視できません。どこまでを「健全なガードレール」とみなすかは、技術者だけでなく市民社会も含めた議論が必要であり、Frontriaのような場はその具体的な実験環境としても捉えられます。
意識しておきたいのは、Frontriaが「AI規制対応の一施策」を超えて、「誰が情報の真偽を判定し、そのルールを設計するのか」というガバナンスの主導権争いの一部でもあるという点です。C2PAなどの国際標準ともどう連携していくのか、AIと人が共存する社会での「線引き」を探るプロセスとして、今後の動きを一緒に追いかけていけたらと思います。
【用語解説】
AIトラスト(AIの信頼性)
AIシステムが公平性や説明可能性、安全性などの観点から信頼できるかどうかを示す概念である。
EU AI Act
欧州連合が2024年に発効させたAI規制法で、AIシステムをリスクに応じて分類し、禁止行為や高リスクAIへの要件を定める包括的な法制度である。
コア技術/技術IP
コンソーシアム内で共通利用されるフェイク検知や公平性評価などの中核的なAI技術や、その技術に紐づく知的財産を指す言葉である。
デベロッパーコミュニティ
開発者同士がノウハウやコード、ユースケースを共有し、コンペなどを通じて技術の高度化を図るためのコミュニティである。
【参考リンク】
富士通株式会社 公式サイト(外部)
日本発のグローバルICT企業で、AIやクラウドなど幅広いデジタルサービスを提供している公式サイトである。
Frontria 公式ポータル(外部)
国際コンソーシアムFrontriaの公式サイトで、参加組織や活動内容、コミュニティ構造などの情報を確認できる。
【参考動画】
【参考記事】
Fujitsu establishes international consortium to tackle disinformation and emerging AI risks(外部)
Frontria設立の英語版プレスリリースで、3つのコミュニティグループや拡大目標などが整理されている。
High-level summary of the AI Act(外部)
EU AI Actのリスクベースアプローチや施行タイムラインを解説し、欧州市場でのAI提供に必要なポイントを示している。
EU AI Regulations: Future of AI in Europe(外部)
EU AI Actの適用スケジュールや対象システムの分類を整理し、事業者向けの実務的な視点から影響範囲を解説している。
THE ECONOMIC COST OF BAD ACTORS ON THE INTERNET(外部)
偽情報やボット攻撃などがもたらす経済的インパクトを定量的に分析したレポートで、オンラインリスクの規模感を把握できる。
【編集部後記】
生成AIが当たり前になった今、私たちは常に「どこまで信じていい情報なのか」と問い続けなければならなくなりました。Frontriaのような取り組みは、その裏側でどんな技術やルール作りが動いているのかに目を向けるきっかけになると感じています。
もし仕事や創作でAIを使っているとしたら、「自分が発信する情報の信頼性」をどう守るか、一度立ち止まって考えてみてください。AIと共に発展する未来について、一緒に探っていけたらうれしいです。






























