Last Updated on 2025-03-27 15:17 by admin
アパレル大手H&Mは、実在するファッションモデル30人のデジタルツインをAIで作成し、広告キャンペーンに活用する取り組みを開始した。このデジタルツインは、モデルの複数の写真をAIに入力して生成され、2025年中にソーシャルメディアやポスター広告などに使用される予定だ。
この技術により、モデル本人やカメラマン、メイクアップアーティストなどの専門家を必要とせずに、様々なポーズやスタイリングでコンテンツを作成できるようになる。H&Mのビジネス開発マネージャー、ルイーズ・ルンドクビストは、この取り組みがコンテンツ制作の方法に影響を与えると述べている。
重要なポイントは、モデルが自分のデジタルツインの権利を所有し、デジタルツインが使用された場合には本人にも報酬が支払われる仕組みである。H&Mはこの報酬体系について、従来の契約と同様の構造になる可能性を示唆している。
この取り組みは、AIによるデジタルクローン技術の進化と、その使用に関する倫理的・経済的課題を浮き彫りにしている。特に、クリエイティブ業界における人間の仕事がAIに置き換えられる可能性や、オリジナルコンテンツの権利と報酬に関する問題が注目されている。
from Clothing Giant H&M Will Use Models’ AI-Made Digital Twins, Consent Included
【編集部解説】
H&Mのデジタルツイン活用は、ファッション業界におけるAI技術の実用的応用の重要な一歩と言えるでしょう。この取り組みが注目に値するのは、単にコスト削減や効率化を目指すだけでなく、モデルの権利保護と報酬の公正な分配を考慮している点です。
特筆すべきは、モデル本人にデジタルツインの権利を与える方針です。これは、2023年のSAG-AFTRAストライキでも大きな争点となった、デジタルクローンの権利問題に対する建設的なアプローチと言えます。モデルが自身のデジタルツインの使用をコントロールし、それに応じた報酬を得られる仕組みは、クリエイターの権利を尊重する姿勢を示しています。
この技術には多くの可能性も秘められています。例えば、モデルが物理的に存在できない場所や状況でも撮影が可能になり、より多様な表現やマーケティング戦略が実現できるようになるかもしれません。また、ファッションブランドにとっては、撮影にかかる時間やコストを大幅に削減できる利点があります。
長期的には、この技術がファッション業界全体のビジネスモデルを変革する可能性があります。AIによる画像生成技術の進歩により、従来のファッション撮影の概念が根本から覆される可能性があるのです。
しかし、デジタルツインの使用に関する法的・倫理的な課題も多く残されています。ルンドクビスト自身も認めているように、H&Mのアプローチが業界標準になるとは限らず、将来的に「より厳格でない」方法でこの技術を使用する企業が現れる可能性もあります。
最終的に、この技術の成否は消費者の反応にかかっています。AIによって生成された画像で着用されている服を、実際に消費者が購入するかどうかは、時間が経てば明らかになるでしょう。
H&Mの取り組みは、AIとクリエイティブ産業の共存という大きな課題に一石を投じるものです。今後、他のブランドや業界がどのようにこの課題に取り組んでいくのか、注目していく必要があります。
【用語解説】
デジタルツイン:実在する物体や人物のデジタル上の複製のこと。現実世界の対象物と同じように見え、振る舞うバーチャルコピー。H&Mの事例では、実在するモデルの外見や動きを再現したデジタル版モデルを指す。
AI生成画像:人工知能が学習データをもとに作成した画像。H&Mの場合は、実在するモデルの写真をAIに学習させ、新たなポーズや表情、衣装を着た状態の画像を生成している。
SAG-AFTRA:Screen Actors Guild-American Federation of Television and Radio Artistsの略。アメリカの俳優や放送関係者の労働組合。2023年には、AIによるデジタルクローン作成に関する権利問題などを争点としたストライキを行った。
【参考リンク】
H&Mグループ公式サイト(外部)スウェーデン発のグローバルファッションブランド。75以上の市場で4,000店舗以上を展開
Business of Fashion(外部)ファッション業界の最新ニュースや分析を提供する専門メディア
SAG-AFTRA公式サイト(外部)アメリカの俳優・放送関係者の労働組合。AIによるデジタルクローン作成に取り組む