Last Updated on 2025-06-16 16:54 by admin
HPは2025年6月11日のInfoComm 2025において、Google Beam技術を搭載した3Dビデオ会議システム「HP Dimension with Google Beam」を発表した。同製品は2025年後半から選定された企業顧客向けに販売開始され、価格は24,999ドル(約360万円)である。Google Beamライセンスは別売りとなる。
HP Dimensionは65インチのライトフィールドディスプレイに6台のカメラを組み込み、最先端AIを使用して参加者の3D映像を生成する。ヘッドセットや眼鏡は不要で、現実的なサイズ、奥行き、色彩、アイコンタクトで表示する。
同システムはZoom RoomsとGoogle Meetをサポートし、Microsoft TeamsやWebexなどのクラウドベースのビデオサービスとも統合可能である。HPの検証では、従来のビデオ会議と比較して記憶想起が28%向上、発言の順番取りの改善を37%のユーザーが認識し、非言語行動の認識が39%向上した。
From:
Google’s First ‘Beam’ Videoconferencing Device is ‘HP Dimension’, Coming Late 2025 at $25,000
【編集部解説】
HP Dimension with Google Beamは、単なる高価なビデオ会議システムではありません。これは「空間コンピューティング」の新たな地平を切り開く製品として位置づけられます。
従来のビデオ会議が抱える根本的な課題は、画面越しの平面的なコミュニケーションでした。参加者は相手の視線を感じることができず、身振り手振りなどの非言語情報も大幅に制限されていました。HP Dimensionは、6台のカメラとAIによる立体映像生成、そして65インチのライトフィールドディスプレイによって、この問題を技術的に解決しようとしています。
特に注目すべきは、ライトフィールドディスプレイ技術の実用化です。この技術は光の方向と強度を制御することで、ヘッドセットなしに自然な立体視を実現します。従来の3Dディスプレイとは異なり、視聴者の位置に応じて適切な視点の映像を提供するため、より自然な奥行き感を体験できるのです。
企業コミュニケーションへの影響は計り知れません。リモートワークが定着した現在、対面での微細なコミュニケーションの重要性が再認識されています。HP Dimensionが実現する「記憶想起28%向上」「非言語行動認識39%向上」といった数値は、単なる技術的改善を超えて、人間の認知能力そのものを拡張する可能性を示唆しています。
一方で、24,999ドルという価格設定は明確な課題です。Google Beamライセンスが別売りであることを考慮すると、導入コストは更に高額になります。これは現段階では大企業の重要会議室や、医療・教育分野での特殊用途に限定される可能性が高いでしょう。
技術的な制約も存在します。3D体験を得るには通信の両端でBeam対応機器が必要であり、一方が従来のビデオ会議システムを使用している場合、その恩恵は大幅に制限されます。ネットワーク効果が重要な通信技術において、これは普及の大きな障壁となり得ます。
長期的な視点では、この技術はメタバースやデジタルツインといった概念の実現に向けた重要なステップと言えるでしょう。物理空間と仮想空間の境界を曖昧にする技術として、将来的にはより手頃な価格での民生化が期待されます。
【用語解説】
ライトフィールドディスプレイ
光の方向と強度を制御することで、ヘッドセットやメガネなしに自然な立体視を実現するディスプレイ技術である。従来の左右の目の視差を利用した3Dディスプレイとは異なり、視聴者の位置に応じて適切な視点の映像を提供するため、より自然な奥行き感を体験できる。
【参考リンク】
HP公式サイト – HP Dimension(外部)HP Dimension with Google Beamの製品詳細、仕様、導入事例などを掲載している公式製品ページ
【参考動画】
【参考記事】
The first Google Beam device is the $24,999 HP Dimension(外部)9to5GoogleによるHP Dimension発表の速報記事。価格、仕様、販売地域などの基本情報を整理
Google’s Freaky Realistic 3D Video Calling ‘Booth’ Is Finally a Real Product(外部)GizmodoによるGoogle Beam商用化に関する分析記事。技術的な背景と市場への影響について考察
【編集部後記】
HP Dimension with Google Beamの発表は、私たちが長年待ち望んでいた「SF映画の世界」が現実になった瞬間と言えるでしょう。24,999ドルという価格は確かに高額ですが、これは新技術の黎明期における典型的な価格設定です。
興味深いのは、この技術が単なる「高画質ビデオ会議」を超えて、人間の認知能力そのものを拡張する可能性を秘めていることです。記憶想起や非言語行動の認識向上といった数値は、テクノロジーが人間の能力を補完し、より豊かなコミュニケーションを実現できることを示しています。