テラドローン、コスト3分の1の新型LiDARと3DGS対応SLAMを発売―測量DXの常識を覆す

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ドローンで測った地形が、ゲームの3D空間のように生き生きと再現される――そんな未来が、いよいよ日本の建設現場に降りてこようとしています。テラドローンが2026年5月13日に発表したのは、3DGS(3D Gaussian Splatting)対応の次世代測量機と、従来の3分の1コストを実現したUAV搭載型LiDAR。測量DXの景色を変える一手です。


テラドローン株式会社(本社:東京都渋谷区、代表:徳重徹)は2026年5月13日、UAV搭載型レーザスキャナ「Terra LiDAR 4」と次世代ハイブリッドSLAM「Terra SLAM TRINITY」の2製品を発売した。

Terra LiDAR 4は照射点数最大200万点/秒、16リターン、デュアルカメラを搭載し、精度±5cmで公共測量に完全対応する。価格は従来の高精度UAV搭載型レーザスキャナの約3分の1である。Terra SLAM TRINITYはGNSS受信機、ハンディ型SLAM、3DGS(3D Gaussian Splatting)生成機能を一体化したモデルで、GPS、GLONASS、Galileo、BeiDou、QZSSのマルチGNSSに対応する。

両製品紹介のWebセミナーは2026年5月18日、19日、20日に各日2回、計6回開催される。

From: 文献リンクテラドローン、国内最高峰スペックのUAV搭載型レーザスキャナ「Terra LiDAR 4」と、3DGS対応の次世代ハイブリッドSLAM「Terra SLAM TRINITY」を同時発売

Terra Drone株式会社公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

今回の発表は、単なる新製品リリース以上の意味を持つと編集部では捉えています。なぜ今このタイミングなのか、そして「GNSS×SLAM×3DGS」という組み合わせが持つ革新性について掘り下げてご紹介します。

日本の建設・測量業界は、就業者の高齢化と慢性的な人手不足という構造的課題を抱えています。国土交通省が推進するi-Construction(アイ・コンストラクション)は、まさにこの課題への解答として2016年に始まり、ICTを活用した3次元データによる生産性革命を目指してきました。しかし現場の声として根強くあったのが「機材が高すぎて中小規模の事業者には手が出ない」という問題です。テラドローンが訴求する「従来の約3分の1のコスト」という価格設定(同社発表による)は、この10年間の最大のボトルネックを直接突こうとするものといえます。なお、具体的な販売価格や比較対象機種は同社発表でも明示されていないため、実際の費用対効果は導入条件に応じた個別検討が必要です。

UAV搭載型レーザスキャナの要求精度±5cmは、国土交通省「UAV搭載型レーザスキャナを用いた公共測量マニュアル」において成果品の代表的な基準値として示される水準であり、Terra LiDAR 4はこの精度を満たす仕様を備えています。実際の公共測量への適用にあたっては、現場ごとに精度確認試験や所定の作業手順を経る必要がありますが、本機はその出発点となる性能を確保していると位置づけられます。また、仕様表にある「16リターン」は、1本のレーザーパルスが複数の対象物(樹木の枝、葉、地面など)から反射した信号を最大16回まで分離して記録できる機能で、樹林に覆われた山間部でも地表面のデータを取得しやすくなるという、日本の地形特性に直結した重要なスペックです。なお、これらの数値は同社発表によれば特定条件下における開発目標値であり、実環境下での性能は計測条件により変動する可能性があります。

そして今回の最大の注目点は、もう一方の「Terra SLAM TRINITY」が搭載する3DGS(3D Gaussian Splatting)への対応です。

3DGSは2023年に発表された比較的新しい3次元再構成技術で、複数の画像から「ガウス分布の集合」としてシーンを表現することにより、従来のフォトグラメトリやNeRF(Neural Radiance Fields)と比較して、高速かつ写真のように写実的なレンダリングを可能にする手法として急速に注目を集めています。LiDARが取得する「点群データ」が点の集合で物体の幾何形状を捉えるのに対し、3DGSは色味や質感まで含めた「実写に近い空間そのもの」を再現できる点が決定的に異なります。

これが測量現場に持ち込まれる意味は大きいと考えます。点群データは正確ですが、専門家でなければ何が映っているのか直感的に分かりにくいという弱点がありました。発注者への説明や住民合意形成の場面で、3DGSによる「見たまま」の3次元モデルが使えるようになることは、技術者だけでなく一般の関係者を巻き込んだ意思決定を加速させる可能性があります。BIM/CIM(ビム・シム:建設分野の3次元情報モデル)の活用が政府主導で進む中、この「視認性の革命」は実務上のインパクトが大きいでしょう。

GNSS(衛星測位)、SLAM(自己位置推定と地図構築の同時実行技術)、3DGSという3つの技術を1台に統合した点も注目に値します。GNSSは屋外の絶対座標、SLAMは屋内やGNSSが届かない場所での相対計測、3DGSは視覚的再現と、それぞれ補完関係にある技術を統合することで、現場ごとに機材を持ち替える必要がなくなる「ワンストップ化」の意義は実務上きわめて大きいと言えます。

一方で潜在的な課題にも触れておく必要があります。3DGSはまだ研究領域として発展途上にあり、生成されるモデルの「測量成果としての法的位置づけ」は明確に定まっていません。視覚的にリアルであることと、それが法的に有効な測量データであることは別問題であり、当面は公共測量の正式成果は点群、3DGSは補助的な可視化ツールという棲み分けが想定されます。また、データ容量が大きくなる傾向があるため、現場のストレージやネットワーク環境への要求も高まる点には留意が必要でしょう。

会社全体の動向としても触れておきたい点があります。テラドローンは2024年11月に東証グロース市場に上場し、Drone Industry Insightsのドローンサービス企業世界ランキングで2024年に1位を獲得、さらに直近では防衛装備庁から国産ドローンを受注するなど、事業領域を急速に拡大しています。同社の事業セグメントの中でも測量事業は主要な柱の一つであり、今回の新製品は同社の収益基盤を支える戦略的な一手であることが分かります。

長期的視点で見ると、この発表は「測量がデータインフラ事業に進化する」過渡期の象徴と捉えることができます。現場で取得された3次元データは、施工後はデジタルツインとして都市運営に、災害時には被害把握に、そして将来的には自律走行ロボットやドローンの自律航行用マップにと、価値の連鎖が続いていきます。「測量機が安くなった」というニュースの背後には、社会のあらゆる場面で3次元データが空気のように使われる未来像があるのです。

【用語解説】

UAV(Unmanned Aerial Vehicle)
無人航空機の総称。一般的には「ドローン」と呼ばれるが、産業用途では搭載機器や運用目的を含む「無人航空機システム」全体を指す呼称として使われることが多い。

LiDAR(Light Detection And Ranging)
レーザー光を対象物に照射し、反射して戻るまでの時間から距離を測定する技術である。1秒間に数十万〜数百万のレーザーパルスを発射することで、対象空間を膨大な点の集合体(点群データ)として記録する。

点群データ
3次元空間上の座標(X, Y, Z)を持つ点の集合体のことだ。LiDARやスキャナーで取得され、地形や構造物の形状をデジタルデータとして再現する。

SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)
「自己位置推定と環境地図作成の同時実行」を意味する技術である。GPS信号が届かない屋内やトンネル内でも、センサー情報から自身の位置を推定しつつ周辺の地図を構築できる。自律走行ロボットや清掃ロボットにも応用されている技術だ。

GNSS(Global Navigation Satellite System)
衛星測位システムの総称である。米国のGPSに加え、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDou、日本のQZSS(みちびき)など複数の衛星測位システムが存在し、これらを同時に受信することで測位精度と安定性が向上する。

3DGS(3D Gaussian Splatting)
2023年にフランスの国立研究機関Inriaらが発表した3次元再構成技術だ。複数の2D画像から3次元シーンを「3次元ガウス分布の集合体」として表現し、写真のように写実的な3Dモデルをリアルタイムでレンダリングできる。SIGGRAPH 2023で最優秀論文賞を受賞している。

i-Construction(アイ・コンストラクション)
国土交通省が2016年から推進する建設現場の生産性革命のための取り組みである。調査測量・設計・施工・検査・維持管理のすべての工程にICTを導入し、3次元データを軸とした建設プロセスの効率化を目指す国家政策だ。

BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling)
建築・土木分野で活用される3次元情報モデルである。BIMは建築、CIMは土木分野を指し、設計・施工・維持管理までを3次元データで一元管理する手法を意味する。国土交通省は2023年度から原則適用を開始している。

FOV(Field of View)
視野角のことを指す。センサーが一度に捉えられる範囲を角度で表したもので、広いほど一度のスキャンで広範囲をカバーできる。

オルソ画像
中心投影による歪みを補正し、地図と同じ「正射投影」に変換した航空写真のことだ。距離や面積を正確に計測できるため、測量や地図作成の基礎データとして使用される。

【参考リンク】

Terra Drone株式会社(公式サイト)(外部)
測量・点検・農業・運航管理(UTM)など産業用ドローンサービスを世界展開する東証グロース上場企業の公式サイトである。

Terra LiDAR 4 製品ページ(外部)
今回発売されたUAV搭載型レーザスキャナの公式製品ページ。仕様や問い合わせ窓口が掲載されている。

Terra SLAM TRINITY 製品ページ(外部)
GNSS×SLAM×3DGSの一体型計測デバイスの公式製品ページである。

Terra SLAM RTK(前モデル)公式サイト(外部)
2024年5月に発売された前世代のハンディ型SLAMスキャナーの製品サイトである。

Inria 3D Gaussian Splatting プロジェクトページ(外部)
3DGS技術の発祥である仏国立情報学自動制御研究所(Inria)の公式プロジェクトページである。

Drone Industry Insights(DRONEII)(外部)
ドイツ拠点の世界的ドローン市場調査会社の公式サイトである。

【参考記事】

国土地理院「UAVレーザ測量マニュアル」(外部)
UAVレーザ測量における精度基準と作業手順を国として規定する公式文書である。Terra LiDAR 4が「公共測量対応」を謳う根拠となる基準が明記されている。

国土交通省 i-Construction 参考資料(外部)
建設現場の生産性革命を目指すi-Constructionの全体像と新基準を整理した国交省の公式資料である。

3D Gaussian Splatting for Real-Time Radiance Field Rendering(arXiv)(外部)
3DGS技術の原典となるInriaらの論文。ガウス分布集合によるリアルタイム写実レンダリングの基礎理論が示されている。

3D Gaussian Splatting: 効率的に大規模な3Dシーンを再構成する(AWS公式)(外部)
3DGSと従来手法(フォトグラメトリ、NeRF)との違いを技術的に解説した記事である。LiDARと3DGSのアプローチの違いが整理されている。

令和5年度BIM/CIM原則適用について(国土交通省)(外部)
2023年度からのBIM/CIM原則適用の方針と対象範囲を示す国交省の公式資料である。

Terra Drone Listed on The Tokyo Stock Exchange Growth Market(外部)
2024年11月29日の東証グロース市場上場を伝えるテラドローンの公式英文プレスリリースである。

テラドローン、ドローンサービス企業世界ランキングで1位を獲得(テラドローン公式)(外部)
DRONEIIによる世界ランキング2024で世界1位を獲得した一次情報。世界約900社の中での評価背景が記載されている。

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【編集部後記】

測量機器の価格訴求の背後には、私たちの暮らす街や道路、橋がどう作られていくかの未来像が隠れているように感じます。3DGSという技術が現場に降りてくることで、専門家しか読み解けなかった「点群」が、誰もが直感的に理解できる「3次元の風景」へと変わろうとしています。皆さんが今いる場所が、もし数年後にデジタル空間にそっくり再現されるとしたら、どんな使い道を思い浮かべるでしょうか。一緒に想像を膨らませてみませんか。

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omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。