Amazonは2025年12月28日、イタリアにおけるドローン配送計画の中止を発表した。同社は航空宇宙規制当局との協議で進展があったものの、より広範なビジネス規制の枠組みが長期的目標を支持しないと説明した。
イタリア民間航空局ENACは、この決定は予期せぬもので、グループに関わる最近の財務的出来事に関連した企業方針によるものだと土曜日の声明で述べた。
Amazonは2024年12月、中部アブルッツォ州サン・サルヴォでMK-30ドローンを使った初期テストの成功を発表していた。同社は戦略的見直しの結果として商業用ドローン配送計画の中止を決定したとロイターへの声明で明らかにした。
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Amazon halts plans for drone delivery in Italy
【編集部解説】
Amazonのイタリアにおけるドローン配送プログラム中止は、テクノロジー企業が直面する複雑な現実を浮き彫りにしています。わずか1年前の2024年12月、同社は中部アブルッツォ州サン・サルヴォで最新鋭のMK-30ドローンを使った初期テストの成功を華々しく発表していました。それがなぜ、ローンチ直前で撤退を決断せざるを得なかったのでしょうか。
Amazonの声明は「航空宇宙規制当局とは良好な関係を築けた」としながらも、「より広範なビジネス規制の枠組み」が障壁になったと説明しています。一方、イタリア民間航空局ENACは「グループに関わる最近の財務的出来事」に言及しており、両者の説明には微妙なニュアンスの違いが見られます。
この「財務的出来事」という表現は興味深い点です。Amazonは2025年に米国でドローン配送を急速に拡大しており、アリゾナ州、テキサス州、ミシガン州などで新たにサービスを開始しています。しかし、内部資料によれば、2022年時点でドローン配送1回あたりのコストは484ドルに達しており、2025年までに63ドルに削減する計画でした。それでも地上配送の約20倍というコストは、事業の持続可能性に疑問を投げかけます。
イタリアという市場の特殊性も見逃せません。欧州は米国とは異なる規制環境を持ち、プライバシー保護や都市計画に関する要件がより厳格です。人口密度の高い地域でのドローン飛行には、騒音、安全性、プライバシーといった多層的な課題があります。Amazonは米国では郊外や比較的人口密度の低い地域から展開を始めていますが、イタリアでは異なるアプローチが必要だったのかもしれません。
MK-30ドローンそのものは技術的に優れています。従来モデルより騒音を40%削減し、航続距離は2倍、軽い雨でも飛行可能という性能を持ちます。最大5ポンド(約2.3kg)の荷物を60分以内に配送でき、FAA(米連邦航空局)からBVLOS(視界外飛行)の認可も取得しています。しかし、技術的な成熟度と事業としての実現可能性は別の問題です。
ドローン配送業界全体を見渡すと、各社が異なる戦略で市場開拓を進めています。Alphabet傘下のWingはオーストラリアで成功を収め、米国ではWalmartと提携して展開中です。Ziplineは医療分野に特化し、ルワンダやガーナで実績を積み、2025年3月時点で1億マイル以上の自律飛行を達成しています。これらの企業も規制や経済性の課題に直面していますが、特定分野での差別化を図ることで道を切り開いています。
Amazonにとって、イタリアからの撤退は一時的な後退に見えるかもしれません。しかし、これは戦略的な資源配分の最適化とも解釈できます。同社は2030年までに年間5億個のドローン配送を目標に掲げており、まずは規制環境が整い、経済性が見込める市場に集中する判断をした可能性があります。
今回の決定は、革新的技術の社会実装には技術開発だけでなく、規制対応、経済性の確立、社会的受容性の獲得という多面的なアプローチが不可欠であることを改めて示しています。ドローン配送という未来の物流インフラは、まだ試行錯誤の段階にあるのです。
【用語解説】
Prime Air
Amazonが2013年から開発を進めるドローン配送サービスの名称。Jeff Bezos元CEOが60 Minutesのインタビューで初めて構想を明らかにして以来、10年以上にわたって技術開発と実証実験が続けられている。2022年に米国で商用サービスを開始した。
MK-30ドローン
Amazonが2023年に発表した最新世代の配送ドローン。垂直離陸後に水平飛行に移行するハイブリッド設計で、従来モデルより騒音を約40%削減し、航続距離は2倍に延長。最大5ポンド(約2.3kg)の荷物を運搬でき、軽い雨でも飛行可能。先進的な「sense and avoid(検知・回避)」システムを搭載し、人、ペット、障害物を自律的に回避できる。
BVLOS(Beyond Visual Line of Sight)
視界外飛行。操縦者の視界の外でドローンを飛行させる運用方式。従来は目視範囲内での飛行が原則だったが、BVLOSが認可されることで配送範囲が大幅に拡大し、事業としての実現可能性が高まる。米国ではFAAが段階的に認可を進めている。
ENAC(Ente Nazionale per l’Aviazione Civile)
イタリア民間航空局。イタリアにおける航空安全と規制を担当する政府機関で、ドローン運用の許可や安全基準の策定を行う。
【参考リンク】
Amazon Prime Air – MK30 Drone(外部)
AmazonによるMK-30ドローンの公式紹介ページ。技術仕様や安全機能について詳しく解説されている。
Federal Aviation Administration (FAA)(外部)
米連邦航空局の公式サイト。ドローンの規制やBVLOS認可の最新情報を提供している。
ENAC – Ente Nazionale per l’Aviazione Civile(外部)
イタリア民間航空局の公式サイト。イタリアにおける航空規制とドローン運用基準を定めている。
Wing – Drone Delivery(外部)
Alphabet傘下のドローン配送企業Wingの公式サイト。米国やオーストラリアで事業を展開中。
Zipline(外部)
医療用品配送を中心に展開するドローン配送企業の公式サイト。1億マイル以上の自律飛行実績を持つ。
【参考動画】
【参考記事】
Amazon halts plans for drone delivery in Italy – CNBC(外部)
Amazonがイタリアでのドローン配送計画を中止したニュースを詳細に報じている。
How Amazon delivers packages using its new drone MK30(外部)
MK-30ドローンの詳細な技術仕様と開発プロセスを紹介している公式記事。
Amazon Activates Prime Air Drone Delivery In Waco(外部)
2025年11月のテキサス州ワコでのPrime Air再開を報じる業界専門メディアの記事。
Amazon Prime Air – Wikipedia(外部)
Prime Airの歴史や運用状況を包括的にまとめた百科事典記事。コスト構造など詳細なデータを含む。
How Drone Delivery Is Taking Flight in 2025(外部)
2025年のドローン配送業界全体の動向を分析し、主要プレーヤーの戦略を比較している。
Zipline completes 100 million autonomous miles(外部)
競合Ziplineが2025年3月に1億マイルの自律飛行を達成したマイルストーンを報じる記事。
Drone Package Delivery Market Size – Mordor Intelligence(外部)
ドローン配送市場の詳細な分析レポート。2030年までの市場成長予測を提供している。
【編集部後記】
ドローン配送は、10年前には夢物語に思えた技術が、今まさに現実の物流システムとして社会に実装されようとしている過渡期にあります。Amazonのイタリア撤退は失敗ではなく、この技術が真に社会インフラとなるために必要な試行錯誤の一部です。技術が優れているだけでは不十分で、規制環境、経済性、社会的受容性という複数の条件が揃って初めて実現できる──そんな現実を改めて考えさせられます。皆さんは、自宅の庭先にドローンが荷物を届ける未来をどのように想像しますか?その未来はすでに一部の地域では現実になっていますが、世界中で当たり前になるまでには、まだいくつもの壁を乗り越える必要がありそうです。































