核融合エネルギーの実用化に向けた大きな一歩が踏み出されました。中国の人工太陽と呼ばれるEAST装置が、1,066秒間にわたる高温プラズマの維持に成功し、世界記録を更新しました。この成果は、クリーンで無限のエネルギー源として期待される核融合発電の未来を大きく前進させるものです。
中国の人工太陽EAST、1,066秒の核融合プラズマ維持に成功 – 実用化への大きな一歩
発生時期:2025年1月20日(月曜日)
場所:中国安徽省合肥市
実施機関:中国科学院合肥物理科学研究所(HFIPS)
実験装置
・実験用超伝導トカマク(EAST)
・通称:中国の人工太陽
・設置場所:中国科学院プラズマ物理研究所(ASIPP)
達成内容
・定常状態高閉じ込めプラズマの維持時間で世界記録を更新
・維持時間:1,066秒(約17分46秒)
・プラズマ温度:1億4000万度
・前回記録:403秒(2023年に同施設が達成)
・記録更新幅:663秒(約11分)
from:China claims major fusion advance and record after 17-minute Tokamak run
【編集部解説】
核融合発電の実現に向けて、プラズマの長時間維持は最も重要な技術課題の一つです。今回のEASTによる1,066秒という記録は、実用化への大きな一歩と言えます。
プラズマを安定して閉じ込めることがなぜ難しいのか、まず説明させていただきます。核融合反応には1億度以上の超高温が必要です。この温度は太陽の中心温度をはるかに超えており、このような超高温のプラズマは通常の物質では制御できません。
そこで登場するのが磁場による閉じ込め方式です。ドーナツ型の容器の中で強力な磁場を作り、プラズマが容器の壁に触れないように浮かせた状態で維持します。
今回の成果の位置づけ
1,000秒という時間は、核融合研究において重要な節目とされています。これは将来の核融合発電所での連続運転を見据えた時間スケールだからです。
今回の実験を指揮したのは、中国科学院プラズマ物理研究所のGong Xianzu(宮献組)部長です。同研究所のSong Yuntao(宋雲濤)所長は、将来の核融合発電所では数千秒単位での安定運転が必要になると説明しています。
実用化への展望と課題
国際原子力機関によると、核融合反応のエネルギー出力は、石油や石炭の燃焼と比べて約400万倍、現在の原子力発電(核分裂)の4倍とされています。
しかし、今回の実験では肝心のエネルギー収支については言及がありません。これは現時点でまだ投入エネルギーを上回る出力が得られていない可能性を示唆しています。
また、プラズマの安定維持には、精密な制御システムと高度な運転技術が必要です。今回の成果は、中国がこれらの技術を着実に進歩させていることを示しています。
国際競争の視点
核融合開発は現在、国際協力と国際競争が同時に進行している状況です。国際熱核融合実験炉(ITER)の初プラズマ生成計画が10年延期される中、中国が独自に成果を上げていることは注目に値します。