水素の超流動性:ブリティッシュコロンビア大学研究チームが50年来の予測を実証、クリーンエネルギー革命への道筋

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ブリティッシュコロンビア大学(UBC)のタカマサ・モモセ教授らの国際研究チームが、水素がナノスケールで超流動体になることを実験的に確認した。この研究結果は2025年2月に科学誌「Science Advances」に掲載された。

研究チームは、摂氏-272.25度(絶対温度0.4K)のヘリウムナノ液滴内に15〜20個の水素分子からなるクラスターを閉じ込め、その中にメタン分子を埋め込んだ。レーザーパルスでメタン分子を回転させ、その挙動を観察することで水素の超流動性を確認した。

この発見は、1972年にノーベル物理学賞受賞者のヴィタリー・ギンズブルグ博士が予測した液体水素の超流動性を、約50年ぶりに実験的に証明したものだ。UBCの他、日本のRIKENと金沢大学の研究者も参加した。

超流動性とは、物質が摩擦や粘性なしで流れる量子状態を指す。これまでヘリウムと一部の原子ガスでのみ観察されていた現象だ。

この研究成果は、将来的に水素の効率的な貯蔵や輸送技術の開発につながる可能性がある。水素は燃料電池の燃料として注目されているが、その生産、貯蔵、輸送には課題が残されている。

from:https://phys.org/news/2025-02-hydrogen-superfluid-nanoscale-year.html

【編集部解説】

このたびの研究成果は、量子物理学の分野において画期的な発見といえます。水素が超流動状態になるという50年前の予測が、ようやく実験的に証明されたのです。

超流動性とは、物質が摩擦や粘性なしで流れる特殊な量子状態です。これまでヘリウムと一部の原子ガスでのみ観察されていた現象が、水素でも確認されたことは、物質の基本的な性質に関する理解を大きく前進させるものです。

この研究の特筆すべき点は、極めて低温(-272.25℃)という条件下で、ヘリウムのナノ液滴内に水素分子を閉じ込めるという巧妙な手法を用いたことです。通常、水素は-259℃で固体になってしまうため、液体状態での研究が困難でした。研究チームの創意工夫により、この障壁を乗り越えることができました。

超流動水素の発見は、クリーンエネルギー技術の発展に大きな可能性をもたらします。水素は燃料電池の燃料として注目されていますが、その生産、貯蔵、輸送には多くの課題があります。超流動状態の水素を利用することで、より効率的な貯蔵や輸送方法が開発される可能性があります。

一方で、この技術の実用化にはまだ多くの課題があります。極低温を維持するためのエネルギーコストや、大規模な生産・利用に向けたインフラ整備など、克服すべき問題は少なくありません。

また、この研究は基礎科学の重要性を改めて示しています。50年前の理論的予測が、技術の進歩により実証されたことは、長期的な視点での研究投資の必要性を物語っています。

今後は、この発見を基に、他の分子でも同様の現象が観察できるかどうかの研究や、より高温での超流動性の実現に向けた研究が進むことが予想されます。

量子技術の発展は、コンピューティングや通信、センシングなど、幅広い分野に革新をもたらす可能性があります。超流動水素の研究は、これらの分野にも新たな知見を提供する可能性があります。

最後に、この研究成果は国際的な共同研究の重要性も示しています。カナダのUBC、日本のRIKENと金沢大学の研究機関が協力することで、この画期的な発見が可能になりました。今後も、国境を越えた科学技術の協力が、人類の知識のフロンティアを押し広げていくことでしょう。

【用語解説】

超流動性:
液体が粘性を失い、抵抗なく流れる現象。水が粘り気なく、どんな細い隙間でも自由に流れるようなイメージです。

量子状態:
物質が微視的なレベルで示す特殊な状態。日常生活では見られない不思議な振る舞いをします。

ヘリウムナノ液滴:
極小サイズのヘリウム液体の粒。ピンの頭よりもはるかに小さい、目に見えないほどの大きさです。

【参考リンク】

  1. 理化学研究所(理研)(外部)
    日本を代表する総合研究所。自然科学の幅広い分野で最先端の研究を行っています。
  2. ブリティッシュコロンビア大学(UBC)(外部)
    カナダの名門大学。今回の研究を主導したタカマサ・モモセ教授が所属しています。
  3. 金沢大学(外部)
    日本の国立大学。今回の研究に参加した三浦伸一教授が所属しています。

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