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ローレンス・バークレー国立研究所、スズ・炭素バッファー層で全固体電池のデンドライト問題を解決 – 450サイクル安定動作を実現

ローレンス・バークレー国立研究所、スズ・炭素バッファー層で全固体電池のデンドライト問題を解決 - 450サイクル安定動作を実現 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-06-20 18:27 by admin

カリフォルニア州ローレンス・バークレー国立研究所の材料科学者Haegyeom Kim氏らの研究チームが、全固体電池におけるデンドライト形成を抑制する新技術を開発し、2025年4月下旬にACS Nano誌で発表した。

研究チームは、集電体上にスズと炭素のデュアルバッファー層を配置することで、リチウムベースのアノードフリー全固体電池のデンドライト形成を防止することに成功した。

実験では4つの異なる電池ハーフセルを用い、炭素層をスズ層の上に配置した構成が最高性能を示した。スズはリチウム親和性を持ち均一なメッキを可能にし、炭素層はリチウム疎水性によりデンドライトの固体電解質への浸透を阻止する。

テストセルは450回の充放電サイクルで動作し、1mA/cm²で15時間の放電テストでもショートサーキットを起こさなかった。この技術は薄層として集電体に直接堆積されるため、任意のリチウム全固体電池に適用可能である。

From: 文献リンクResearchers Suppress Dendrites in Solid-State Batteries

【編集部解説】

今回の研究発表は、業界が「2025年を全固体電池実用化元年」と位置づける中で極めて重要なタイミングです。トヨタ、ホンダ、日産、出光興産などの日本企業がパイロットライン構築に着手し、BMWも2025年より前にデモ車両を発表予定としている状況下で、デンドライト問題の根本的解決策が示されました。

技術的ブレークスルーの本質

全固体電池におけるデンドライト問題は、従来「固体電解質があれば解決する」と考えられていました。しかし実際には、リチウム金属と固体電解質の接触面積が大きいため、わずかな空隙でもリチウムが侵入し、深刻なデンドライト形成を引き起こすことが判明しています。今回の研究で注目すべきは、単純な材料の組み合わせではなく、層の配置順序が決定的な役割を果たしている点です。

産業への波及効果と市場インパクト

この技術の最大の意義は、既存の製造プロセスに容易に組み込める点にあります。直流マグネトロンスパッタリング法は半導体業界で確立された技術であり、大量生産への移行が比較的容易です。全固体電池市場は2024年の11億ドルから2034年には177億ドルへと、年平均成長率31.1%での拡大が予測されており、この技術革新が市場成長を加速させる可能性があります。

実用化への課題と現実的な展望

一方で、450サイクルという実験データは商用化には不十分です。電気自動車では通常3000-5000サイクル、スマートフォンでは1000サイクル以上の耐久性が求められます。また、実験は1mA/cm²という比較的低い電流密度で行われており、急速充電時の高電流密度での性能は未検証です。

日本の技術的優位性と競争環境

全固体電池特許出願件数で日本は37%のシェアを持ちトップを維持していますが、中国の追い上げ(28%)は激しく、2016-2018年では中国が日本を上回る勢いを見せています。今回の技術革新が日本の技術的優位性を維持する重要な要素となる可能性があります。

長期的な技術展望

研究チームが言及している「より実用的なシステム」への移行が鍵を握ります。フルセル化、電解質の薄膜化、面積容量の向上という3つの課題をクリアできれば、2030年代前半の本格的商用化も視野に入ってきます。

【用語解説】

デンドライト
リチウムイオンが不均一に堆積することで形成される針状の結晶構造。電池内部で成長すると電極を貫通し、ショートサーキットを引き起こす主要な劣化要因である。

全固体電池(ASSB)
液体電解質の代わりに固体電解質を使用するリチウムイオン電池。液漏れや発火リスクがなく、より高いエネルギー密度を実現できる次世代電池技術である。2025年が実用化元年とされている。

アノードフリー電池
従来のように事前にアノードを構築せず、初回充電時にカソードからのリチウムイオンによって集電体上にアノードを形成する電池構造。軽量化とコスト削減が可能である。

リチウム親和性(リチウム疎水性)
材料がリチウムイオンと結合しやすい(しにくい)性質。スズは親和性が高く均一なメッキを促進し、炭素は疎水性によりリチウム移動を阻害する。

マグネトロンスパッタリング
真空中でターゲット材料にイオンを衝突させ、飛び出した原子を基板に堆積させる薄膜形成技術。半導体製造で広く使用される確立された工業プロセスである。

【参考リンク】

ローレンス・バークレー国立研究所(外部)
米国エネルギー省の国立研究所で、物理、化学、生命科学、エネルギー工学など幅広い分野で世界最先端の研究を行っている。

ACS Nano(外部)
アメリカ化学会が発行するナノテクノロジー分野の学術誌。ナノ材料、ナノデバイス、ナノバイオテクノロジーなどの最新研究成果を掲載。

NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)(外部)
日本の全固体電池開発を主導する国立研究開発法人。2025年までの車載用全固体電池実用化を目標に、オールジャパン体制で研究開発を推進。

トヨタ自動車(外部)全固体電池特許出願件数で世界首位を誇る自動車メーカー。2020年代前半の実用化を目指し、2021年に試作車を発表している。

【参考記事】

全固体電池の現在地 2025年が決定的な年に(外部)
2025年を全固体電池の量産化に向けた重要な転換点として位置づけ、各メーカーの開発状況と市場動向を詳細に分析している。

2025年までにEV用全固体電池の実用化目指す – NEDO(外部)
NEDOの田所康樹主任研究員へのインタビューを通じて、日本の全固体電池開発戦略と2025年実用化目標について詳述している。

【編集部後記】

2025年は全固体電池の実用化元年と位置づけられ、トヨタやホンダなど日本企業がパイロットライン構築に着手している重要な年です。今回のデンドライト抑制技術は、そうした実用化への最後の技術的ハードルの一つを解決する可能性を示しています。

皆さんは、日本が特許出願件数で世界首位を維持する全固体電池分野において、中国の急速な追い上げをどのように捉えていらっしゃいますか。また、電気自動車の航続距離1000km超という目標が現実味を帯びてきた今、充電インフラの整備や電力供給体制についてはどのようにお考えでしょうか。ぜひコメント欄で皆さんのご意見をお聞かせください。

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TaTsu
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