折りたたんだら、箱になった。Samsung Displayが米国特許庁から取得した最新のデザイン特許が示すのは、折りたたんでレンガ状になり、広げると大型のフラット画面が現れるローラブルとフォルダブルを組み合わせた奇妙なコンセプトです。「何回折れるか」を競ってきた業界が、次のフォームファクターの行方を模索しているいま、この特許はどんな意味を持つのでしょうか。
Samsung Electronicsの表示部門であるSamsung Displayが、米国特許商標庁(USPTO)からデザイン特許「US D1,130,402 S」を取得した。対象は単に「ディスプレイデバイス」と称される製品の外観で、2023年1月に出願され、今月に入り認可された。図面には14枚のシートが含まれ、デバイスを全角度から描写している。
折りたたんだ状態では太く細長いレンガ状になり、ディスプレイパネルが本体に巻きついた形をとる。展開すると各パネルが外側に広がり、大型のフラット画面が現れる。これはデザイン特許であり、外観のみが対象で、使用素材や耐久性については明示されていない。Samsungはフォルダブルとローラブルの両ディスプレイ技術を長年探求しており、本コンセプトはその2つを統合したものとみられる。
From:
Samsung’s wild patent shows a foldable phone that folds itself into a box|Digital Trends
【編集部解説】
Samsung Displayが米国特許商標庁(USPTO)から取得したデザイン特許「US D1,130,402 S」は、一見すると奇妙なコンセプトです。折りたたむとレンガ状の塊になり、広げると大型のフラット画面が現れるローラブル+フォルダブル統合デバイス。2023年1月の出願から約2年半を経て今月認可されたこの特許が注目を集めているのは、単なるデザインの珍しさだけではないでしょう。
背景にあるのは、フォルダブルスマートフォン市場の構造変化です。2025年上半期時点で、フォルダブル市場のシェアはHuaweiが48%、Samsungが20%とされています(Canalys調べ)。フォルダブル市場でのHuaweiの台頭は、ヒンジを増やすことで画面の大型化を競う「折りたたみ回数競争」という新しい軸を生み出しました。Huaweiが世界初のトライフォールド端末として2024年にMate XTを投入し、2025年には後継機Mate XTsを発売。これに対抗してSamsungは2025年12月にGalaxy Z TriFoldを発表・発売しました。
しかしGalaxy Z TriFoldの末路は示唆に富んでいます。韓国発売からわずか約3カ月で販売終了となり、Bloombergの報道によればSamsung自身もこのデバイスを「技術ショーケース」的な位置づけとして捉えていたことが明らかになっています。つまりトライフォールドは量産主力製品ではなく、次の競争局面を見据えた布石であったと読み解けます。
今回の「箱型」デザイン特許は、その「次の布石」の候補の一つです。ただし、これがデザイン特許である点は重要な留保事項です。デザイン特許はあくまで外観の保護を目的とするものであり、素材・耐久性・実際の動作機構については何も明示されません。部品構成もコスト構造も不明なまま、「こういう形状を我々は考えている」という意思表示に過ぎないのです。一方でHuaweiもクアッドフォールドの可能性を幹部が公に認めており、折りたたみ回数の競争がトライからクアッドへと向かう兆しも見えています。
この競争の本質は何でしょうか。折りたたみ回数が増えるほど、画面は大型化できますが、デバイスは重く・厚く・高価になります。TriFoldは2,899ドルという価格で限定販売にとどまり、量産に至りませんでした。今回の特許が示す「巻き取り型」のアプローチは、折りたたみ回数ではなくローラブルという別の方向で大画面をポケットに収めようとする試みとも解釈できます。「何回折るか」という競争とは異なる設計思想が、特許の図面の中に潜んでいるかもしれません。
【用語解説】
デザイン特許(Design Patent)
製品の外観・装飾的デザインを保護する特許。内部の動作原理・素材・耐久性・構造は保護対象外。ユーティリティ特許(発明特許)とは別物で、取得が容易な反面、実製品化を保証するものではない。米国のデザイン特許の権利期間は15年。
Samsung Display
Samsung Electronics(サムスン電子)の表示デバイス部門として分離設立された子会社。スマートフォン・タブレット向けOLEDパネルの開発・製造を担う。AppleのiPhone向けディスプレイも供給しており、フォルダブル・ローラブル両分野で技術開発を続けている。
ローラブルディスプレイ
巻き取り可能な柔軟なディスプレイ技術。折りたたみ(フォルダブル)と異なり、折り目(クリース)が生じにくい点が特徴。スマートフォンへの実用化はまだ市場に出ておらず、各メーカーが研究開発・特許取得の段階にある。
【参考リンク】
Samsung Display 公式サイト(外部)
Samsung Electronicsのディスプレイ部門。OLEDパネルを中心に、フォルダブル・ローラブル・ストレッチャブルなど次世代ディスプレイ技術の研究・製造・販売を行う。今回の特許「US D1,130,402 S」の権利者。
USPTO(米国特許商標庁)公式サイト(外部)
米国の特許・商標を管理する政府機関。デザイン特許・ユーティリティ特許を含む知的財産の審査・付与を行う。
【参考記事】
Samsung’s futuristic quad-foldable phone spotted in patent|Android Headlines(外部)
Samsungが4つのパネルと3つのヒンジを持つクアッドフォールド端末の特許をWIPOに出願したことを報じる記事。折りたたみ回数の競争を巡るSamsungの探索の幅広さを示す参考情報。
Galaxy Z TriFold is officially being discontinued, Samsung confirms|9to5Google(外部)
Samsung Galaxy Z TriFoldの販売終了を報道。Samsungがデバイスを「技術ショーケース」的位置づけとして捉えていたことが記録されている。
Huawei controls a dominant 48% of the foldable smartphone market, Samsung trails behind|Tweaktown(外部)
2025年上半期フォルダブル市場シェア(Canalys)を報道。Huawei 48%、Samsung 20%という構図を伝える。
【関連記事】
サムスン Galaxy Z TriFold 発表、10インチ三つ折りスマートフォンが12月12日発売─中国勢との競争激化
Samsungがトライフォールドを投入するに至った競争背景は、こちらの記事でまとめています。
サムスン Galaxy Z Fold 8 デザイン流出|「横に広がる」新フォームファクターとUltraブランド逆転の意味
Samsungがフォールド回数以外の方向でフォームファクターを模索している動きは、Galaxy Z Fold 8の記事でも確認できます。
【編集部後記】
フォルダブル競争は今や「何回折れるか」を競う段階に入っています。しかしGalaxy Z TriFoldの短命な商品サイクルが示したのは、折りたたみ回数の増加が必ずしも市場の拡大につながらないという事実でもあります。今回のデザイン特許が提示する「巻き取り型」というアプローチは、その競争とは異なる問いを立て直そうとする試みにも見えます。私たちはスマートフォンに「より大きな画面」を求めているのか、それとも「より自然に持ち歩ける形」を求めているのか。特許の図面一枚が、そんな問いを静かに浮かび上がらせています。












