ジョブズが退けて16年、タッチ対応MacBook ProでMacは変わるか

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私たちは毎日、スマートフォンやタブレットの画面に指で触れています。けれどもMacだけは、1984年の登場から今日まで、画面そのものに触れる操作を受け付けてきませんでした。その前提が、日本時間10月29日の午前2時に変わるかもしれません。Appleがロサンゼルスで開く今回の発表は配信が告知されておらず、私たちが朝に目にするのは、プレスリリースと、招かれた海外メディアが実機に触れた報告です。Appleはなぜ、これほど長くMacからタッチを遠ざけてきたのか。その理由をたどると、今回の発表で確かめたいことが見えてきます。


目次▼2010年、ジョブズ氏が引いた線▼Touch Barという「パートタイムのタッチ」▼同じ問いに、Windowsは逆の答えを出した▼前提は何で変わったのか(報道から見えること)▼10月28日の発表で確かめたいこと
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10月19日に予告されたAppleの「Pro and tell」は、10月28日に米ロサンゼルスで開かれる。ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のグレッグ・ジョズウィアック氏がXで予告し、報道関係者には招待状が届いた。開始は太平洋時間28日午前10時、日本時間では29日午前2時である。招待状が示す形式は、報道関係者が実機に触れる対面の「Apple Experience」で、発表される製品名は記されていない。一般向けの配信も告知されていない。

米Bloombergのマーク・ガーマン記者は、タッチ操作に対応した有機ELの14インチ・16インチMacBook Pro、M6チップを積んだ14インチMacBook ProとiMac、有機ELのiPad miniが発表されると報じている。発売は11月6日になるとの見方も示している。

【編集部解説】

2010年、ジョブズ氏が引いた線

AppleがMacのタッチ画面をはっきり退けたのは、2010年10月の「Back to the Mac」イベントでした。スティーブ・ジョブズ氏は、タッチ画面のMacは作らないと述べ、「Touch surfaces don’t want to be vertical」(タッチする面は縦に立てるものではない)と説明しています。社内で何度も試したこと、デモ映えはするが、しばらく使うと疲れてしまうことも、あわせて語りました。

同じ場でAppleが示したのは、画面の代わりにトラックパッドでマルチタッチのジェスチャーを使う道でした。次期OS「Lion」を、iPadの体験をMacに持ち込むものと位置づけています。

この発言で大事なのは、タッチを否定したのではなく、タッチの置き場所を決めたことです。触れる面は手元に水平に、見る面は目の前に縦に。iPhoneとiPadが広まった後も、Appleはこの線を守り続けました。私たちが一日に何度もスマートフォンの画面に触れながら、Macの画面には手を伸ばさないのは、この線引きの延長にあります。

Touch Barという「パートタイムのタッチ」

2016年10月27日、AppleはMacBook Proのファンクションキーの列を、Retina品質のマルチタッチディスプレイ「Touch Bar」に置き換えました。Macのアプリに、指で触れて操作する部品が加わった形です。ただし場所はキーボードの上、つまり水平の面でした。

当時マーケティング責任者だったフィル・シラー氏は、米メディアBackchannel(スティーブン・レヴィ記者)のインタビューで、タッチ画面のMacを社内で何度も試したと明かしています。ノートだけをタッチ対応にしてもデスクトップは同じにならない、27インチのiMacに腕を伸ばして触るのは「absurd(ばかげている)」、指とポインターの両方に最適化することはできない、という理由でした。メニューバーを指向けに作り直せば、マウスやトラックパッドで使う人の体験を損なうとも述べています。Touch Barについては、常に使うものではない「パートタイムのタッチ体験」と表現しました。

2018年のWWDCでは、ソフトウェア担当のクレイグ・フェデリギ氏がWIREDの取材に、Macは手を面に置いて使うもので、腕を上げて画面をつつくのは疲れる、と答えています。他社のタッチ対応ノートを「実験」と呼び、魅力を感じないとも述べました。同じインタビューで語られたのは、iPhoneやiPadのアプリをMacで動かす仕組みで、長押しを2本指クリックに置き換えるといった変換をするという説明でした。指のために作られたアプリをMacに招きながら、指そのものは画面に近づけない。2010年の線は、この時点でも保たれていました。

Touch Barは、2021年に刷新された14インチ・16インチのMacBook Proで物理キーの列に戻されました。最後まで残っていた13インチモデルも2023年10月に販売を終え、Macから姿を消しています。

2021年10月、Touch Barを外した新しいMacBook Proについて、ハードウェア担当だったジョン・ターナス氏は米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の取材に、Macは間接的な入力に最適化されており、変える理由は感じていないと答えています。そのターナス氏は2026年9月にCEOに就任しました。

同じ問いに、Windowsは逆の答えを出した

同じ時期、Microsoftは反対の道を選んでいます。2012年10月に発売したWindows 8は、タッチ操作を前提に作り直したOSで、同時にタブレットとノートを兼ねる初の自社製コンピューター「Surface」を投入しました。2016年のシラー氏の「両方に最適化はできない」という発言は、Microsoftの方向とは逆の立場だと当時から受け止められていました。

指とポインターを一つのOSでどう両立させるか。Windowsは十数年、その試行錯誤を利用者の手元で続けてきました。その後もWindowsでは、タッチ画面を備えたノートや、タブレットを兼ねる機種が作られ続けています。報道どおりなら、Appleが入ろうとしているのは、他社がすでに長く歩いてきた道でもあります。

前提は何で変わったのか(報道から見えること)

2022年10月、フェデリギ氏はWSJのイベントでタッチ画面のMacについて問われ、「Who’s to say?(誰に分かるでしょう)」と答えを濁しています。翌2023年1月、AppleがタッチのMacBook Proに取り組んでいると最初に報じたのが、Bloombergのマーク・ガーマン記者でした。キーボードとトラックパッドは残すこと、iPhoneのアプリをMacで使うときにタッチがないのはもどかしい体験であることが、そこで指摘されています。

ガーマン記者が伝える今回の設計は、「タッチファースト」ではなく「タッチフレンドリー」です。キーボード、トラックパッド、これまでの筐体の形は残り、タッチはあくまで追加の選択肢とされています。メニューバーの項目は指で触れると一時的に大きくなり、指の近くにメニューが開くといいます。触れたときに画面が揺れないよう、ヒンジと画面まわりを補強するとも報じられています。

ソフトウェアの側では、すでに公開された変化もあります。2026年6月に発表されたmacOS Golden Gateでは、iPadをMacの画面として使うSidecarで、macOSの要素を指で直接操作できるようになりました。トラックパッドを下に引いて更新する、iPhone風の操作も加わっています。

報道どおりなら、Appleは2010年の論拠を捨てたわけではありません。腕が疲れるから、タッチは主役にしない。キーボードとトラックパッドを中心に置き、指は必要なときだけ使う。これは、シラー氏がTouch Barを説明した「パートタイムのタッチ」の考え方を、画面そのものに広げたものと読めます。

一方で、2016年のもう一つの論拠とは緊張が残ります。シラー氏は、ノートだけを触れるようにしても、デスクトップがそうならなければ成り立たないと述べていました。今回、同時に出るとされるM6のiMacは現在のデザインのままと報じられており、タッチは上位のMacBook Proだけに入る見込みです。「プラットフォーム全体で考える」という当時の原則に、Appleが発表でどう触れるのか。あるいは触れないのか。ここは発表を待たないと分かりません。

10月28日の発表で確かめたいこと

項目いま分かっていること発表で確かめること
Appleの説明製品名すら明かされていないタッチを入れる理由を、Appleが自分の言葉で語るか
名称「Pro」のままとの見方が有力正式な製品名と、既存のMacBook Proとの並べ方
チップM5 Pro・M5 Maxの見込み仕様と、タッチで変わるmacOSの範囲
価格現行の14インチM5 Proモデルは米国で2,499ドル、日本で429,800円(税込)から。6月の値上げで、米国では最低300ドル上がった米国と日本の価格
発売11月6日の見方日本での発売日と予約開始日
日本での扱い情報なし。10月のHomeViewは、日本が発売国に含まれなかった日本が発売国に含まれるか

日本時間の29日朝、私たちが最初に手にするのはAppleのプレスリリースです。そこに「なぜいま、触れるMacなのか」が書かれているかどうか。16年の線引きをどう越えるのかは、仕様の一覧よりもその一文に表れるはずです。

  1. MacBook Pro タッチスクリーン搭載「100%確定」か?|Appleが選んだ「タッチフレンドリー」という答え
    6月の時点で、この方針を伝えていました。
  2. 「iPad mini 8」の沈黙は異例か|9月イベント無言の理由を整理
    iPad miniが静かに発表されてきた経緯。今回は、その次の世代が「Pro and tell」で姿を見せる見込み。
  3. Apple、M6 Pro/Max MacBook ProにOLED搭載へ。タッチスクリーン対応で2026年後半発売予定
    2025年11月の時点の報道。M6 Pro/Maxとされていたチップは、いまはM5 Pro/Maxの見込みに変わっている。
  4. HomeView・HomePod mini 2・Apple TV 4K|「Welcome Home」で語られたSiriと家庭の関係
    同じ「Apple Experience」の形式で開かれた10月13日の発表。日本の扱いを考える先例。
  5. Surface Laptop Ultra 正式発表|NVIDIA RTX Spark搭載、128GBメモリでMacBook Proに挑む
    MacBook Proを比較対象に掲げたWindows陣営の最上位ノート。

【編集部後記】

タッチ画面のMacと聞くと、私たちはつい「やっと来た」か「要らない」かで考えてしまいます。けれども2010年の発言をたどると、問われていたのは画面の機能ではなく、目と手と腕の位置でした。道具が私たちの身体に合わせるのか、私たちの身体が道具に慣れていくのか。スマートフォンの画面に触れ続けてきた指は、縦の画面にも自然に伸びるのかもしれません。29日の朝、プレスリリースを読みながら、自分の指がどこへ向かうのかを少し気にかけてみたいと思います。

  1. Apple Newsroom(日本)(外部)
    Appleの公式発表の掲載先。日本時間29日午前2時以降、新製品のプレスリリースはここに載る見込み。
  2. Apple Events(日本)(外部)
    Appleの発表イベントの公式ページ。10月21日時点で「Pro and tell」の掲載はない。配信の有無を確かめる先。
  3. MacBook Pro(Apple日本)(外部)
    現行のMacBook Proの製品ページ。M5、M5 Pro、M5 Maxを搭載した現在のラインアップと、日本での価格を確認できる。
  4. macOS(Apple日本)(外部)
    macOSの公式ページ。今回のタッチ対応で、OSの側がどう変わるかを追う起点。
  5. iPadをMacの2台目のディスプレイとして使用する(Appleサポート)(外部)
    Sidecarの使い方の公式ガイド。手持ちのiPadとMacで、指でmacOSに触れる体験を先に試せる。
  6. Apple Beta Software Program(外部)
    macOSなどのベータ版を一般の利用者が試せるAppleのプログラム。タッチに向けたOSの変化を早い段階で確かめ、Appleに意見を送れる。
  7. Apple 製品フィードバック(外部)
    Appleに製品への意見を送る公式の窓口。タッチ対応のMacについての意見も、ここから伝えられる。
  8. Surface(Microsoft)(外部)
    Microsoftのタッチ対応ノート・タブレットの公式ページ。Windows陣営がたどってきた「指とポインターの両立」を実機で見比べられる。

【用語解説】

タッチフレンドリー
タッチを主な操作に据える「タッチファースト」に対し、キーボードとトラックパッドを中心に置いたまま、指での操作を補助として加える設計の考え方。Bloombergのマーク・ガーマン記者が、Appleの新しいMacBook Proの方針をこう表現。スマートフォンやタブレットのタッチ操作とは、主と従の関係が逆。

Apple Experience
配信の基調講演を行わず、製品をプレスリリースで発表し、招いた報道関係者に会場で実機を触れてもらう発表の形式。2026年は3月4日、10月13日に続き、10月28日の「Pro and tell」が3回目。

Pro and tell
Appleが2026年10月28日(日本時間29日)にロサンゼルスで開く発表の呼び名。持ち物を見せながら話す英語圏の学校の習慣「Show and tell」をもじった言葉。

Touch Bar
2016年から2023年まで、MacBook Proのファンクションキーの位置に置かれていた細長いタッチ式の画面。アプリに応じて表示が変わる仕組み。

マルチタッチジェスチャー
2本以上の指の動きで、スクロールや拡大、アプリの切り替えなどを行う操作。Macでは画面ではなくトラックパッドで使う。

有機EL(OLED)
画素そのものが光る表示方式。黒を消灯で表せるため、コントラストが高い。新しいMacBook Proには、2層の発光層を重ねて明るさと寿命を高めた「タンデム有機EL」が使われると報じられている。

Sidecar
iPadをMacの2台目の画面として使う機能。macOS Golden Gateで、iPadの画面に表示したmacOSの要素を指で直接操作できるようになった。

macOS Golden Gate
2026年6月のWWDCで発表されたmacOSの最新版(macOS 27)。刷新されたSiri(Siri AI)を組み込み、Liquid Glassのデザインに手を入れた。

M5 Pro/M5 Max、M6
Appleが自社で設計するMac向けチップ。新しいMacBook ProはM5 ProとM5 Max、14インチの普及モデルとiMacはM6を積むと報じられている。M6は2026年8月に発表されたMac miniで先に採用された。

マーク・ガーマン
米Bloombergの記者。Appleの未発表製品の報道で知られる。今回の発表製品や11月6日の発売の見立ても、ガーマン記者の報道による。

【参考記事】

  1. Apple’s Touchscreen OLED MacBook Pro: Everything We Know(外部)
    MacRumors(Juli Clover氏)。タッチ対応MacBook Proの報道をまとめたガイド。チップ、名称、現行価格を参照。
  2. 新型MacBook Pro(OLED)は税込54,000円値上げ?主な仕様の予想価格(外部)
    iPhone Mania(10月21日)。現行モデルの日本での価格と、有機ELモデルの予想価格を構成ごとに並べた記事。
  3. Apple is about to kick off four weeks straight of new product launches(外部)
    9to5Mac。ガーマン記者のポッドキャストをもとに、10月末からの発売日程を整理した記事。11月6日発売の見立てを参照。
  4. Apple explains why it hasn’t added a touchscreen or Face ID to the Mac(外部)
    9to5Mac(Chance Miller氏)。WSJでのターナス氏の発言を伝えた記事。Macは間接入力に最適化という説明を参照。
  5. Schiller: Apple tried touch screen MacBooks but doesn’t work for iMacs, landed on Touch Bar instead(外部)
    9to5Mac。Backchannelのインタビューでのシラー氏の発言を伝えた記事。タッチ画面のMacを社内で試した経緯を参照。
  6. Craig Federighi Explains How Macs will Run iOS Apps(外部)
    iPhone in Canada。WIREDによるフェデリギ氏への単独インタビューの要点。iOSアプリのMac移植を参照。
  7. [RUMOR] Apple’s Touchscreen Mac Laptop To Be Developed? Software Chief Shares Cryptic Message(外部)
    Tech Times(Griffin Davis氏)。WSJのイベントでのフェデリギ氏の「Who’s to say?」を伝えた記事。
  8. Apple just killed off the last Mac with a Touch Bar(外部)
    9to5Mac(Zac Hall氏)。最後のTouch Bar搭載モデルの販売終了を伝えた記事。導入から廃止までの経緯を参照。
  9. OS X 10.7 Lion: It’s OS X Meets iOS. Muti-Touch, Mac App Store, Mission Control, More(外部)
    TechCrunch(MG Siegler氏)。「Back to the Mac」当日の記事。ジョブズ氏がタッチ画面を退けた発言を参照。
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乗杉 海
SF小説やゲームカルチャーをきっかけに、エンターテインメントとテクノロジーが交わる領域を探究しているライターです。 SF作品が描く未来社会や、ビデオゲームが生み出すメタフィクション的な世界観に刺激を受けてきました。現在は、AI生成コンテンツやVR/AR、インタラクティブメディアの進化といったテーマを幅広く取り上げています。 デジタルエンターテインメントの未来が、人の認知や感情にどのように働きかけるのかを分析しながら、テクノロジーが切り開く新しい可能性を追いかけています。

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