9月、Even Realitiesは自社のブログで「G2は利用者のことを知らなくても動く」と書きました。その7週間後に届いたのは、メガネに記憶を持たせる更新でした。一見すると矛盾するこの2つを、同社は「何を覚えるかを誰が選ぶのか」という一点でつないでいます。
Even Realitiesは2026年10月28日、スマートグラス「Even G2」をバージョン2.4.0に更新した。選んだ会話サポートの記録とファイルを個人の「ナレッジツリー」にまとめるKnowledge Base(ベータ版)、その内容を回答に生かすEven AI 2.0、会話中に関連する知識を示し、会話後に要点や未解決の質問を返す会話サポートのProモード(ベータ版)を加えた。Knowledge Baseに入れる情報は利用者が選び、データは暗号化される。同社は10月26日(米国時間)、べっ甲調の新色「Brown 2」と偏光クリップ、メガネチェーンを世界で発売した。
日本でも同日から公式サイトと認定眼鏡店で先行発売し、税込価格は11万4800円、2万5800円、1万4800円とした。
From:
Even Realities Japan(X):Even G2のAI機能が大幅アップデート、最新バージョン2.4.0
【参考動画】
Even Realities 公式YouTubeチャンネル(外部)
2026年3月に刷新した会話サポートとPrep Notes、Even Hubを紹介する公式動画。v2.4.0より前の内容です。
【編集部解説】
カメラを載せない。Even G2はこの「引き算」で語られてきた製品です。2025年11月の発表時も、2026年7月の資金調達のときも、innovaTopiaは機能を足すのではなく削ることで信頼を得る設計として伝えてきました。
v2.4.0で加わったのは、その逆に見えるものです。メガネが、持ち主の記憶を持つようになりました。
ただし、何でも覚えるメガネになったわけではありません。今回の更新は、Even Realitiesが半年かけて公言してきた道筋の上にあります。
3月26日に始まったPrep Notesは、会議の前に資料を読み込ませ、会話中にAIがその資料と照らし合わせる機能でした。資料を文脈として使うのは、そのセッションの間に限られると説明されていました。同社は4月3日の公式ブログで、これを第一歩と位置づけ、次の段階としてRAGを使った永続的な個人ナレッジベースへ発展させると予告していました。今回のKnowledge Baseは、その予告に沿う形で登場しました。
9月9日のブログ「Asking for less.」で、同社は「G2は利用者のことを知らなくても動く」と書き、背景でプロフィールを作らないと宣言しました。文脈は利用者が意図して渡すもの、という考え方です。今回のKnowledge Baseは、この考え方を崩していません。覚える対象は、利用者が自分で選んで渡したものに限られます。
線の引き方は、10月30日に発効したプライバシー通知に具体的に書かれています。
過去のEven AIとの会話を使うAI Memoryと、文書や会話記録を蓄えるKnowledge Baseは、別々の機能として扱われます。Knowledge BaseはAI Memoryがオンのときだけ使えますが、AI Memoryへの同意はKnowledge Baseへの同意を意味しません。会話の記録を入れる方法は、初回設定での取り込み、後からの手動追加、新しい記録の自動同期の3つで、どれも任意です。Knowledge Baseを削除しても元の会話記録は残り、記録そのものを消す操作は別の画面に置かれています。
集めたデータは、全ユーザー向けの汎用AIモデルの学習や最適化に使わず、広告にも使わないとしています。
この更新の本質は、記憶の外部化だと読めます。
会議や商談で、人は前回の約束や相手の関心、資料の数字を頭の中で手繰り寄せながら話しています。Proモードは、その手繰り寄せる作業の一部を、視界に浮かぶ表示で引き受けます。会話の途中で関連する知識をAIキューとして示し、会話が終わると重要なポイントや未解決の質問、次の行動につながる手がかりを返します。
会話をその場で補う機能は、他社のスマートグラスにも広がっています。Knowledge Baseが加わったG2の違いは、利用者が記録を加えるほど、参照できる文脈が厚くなる点にあります。1回目と2回目の会話記録を入れておけば、同じ相手と3回目に会うとき、メガネがその文脈を手がかりにできる。ディスプレイ付きスマートグラスが「通知を見る道具」から「仕事の文脈を携える道具」へ移る節目として、この更新は見ておく価値があります。
7月の既報では、同社の利用者は専門職が中心だというCEOの発言を紹介しました。前回の打ち合わせを振り返る時間のない人ほど、恩恵は大きいはずです。日本でも、会議や商談の多い職種で試す人が増えていくでしょう。
記憶を持つ以上、扱いに気をつける点も出てきます。同社自身が通知の中で挙げているのは、機微情報の扱いです。AI Memoryは健康や金融、身元に関わる情報から自発的に記憶を作らない設計ですが、Knowledge Baseは利用者が入れた文書の中身をそのまま処理します。そのため、必要がなければ機微な情報を入れないよう利用者に求めています。
会話の相手への配慮も、これから作法が整っていく領域です。9月のブログは、テーブルの向かいにいる人がそのデータの流れを受け入れるかを設計の基準に挙げていました。会話記録が一度きりの書き起こしから蓄積される知識へ変わると、この基準の重みは増します。録音や書き起こしについて相手に知らせる責任は、アプリの利用規約で利用者側に置かれています。
なお、Knowledge BaseとProモードはベータ版で、正式提供後の料金や利用枠は、11月2日時点で公表されていません。
同じ週に出たBrown 2も、同じ方向を向いています。べっ甲調の模様を表面加工で付けるのではなく素材全体に通し、1本ごとに20時間の研磨を施したフレームです。創業者兼CEOのウィル・ワン(Will Wang)氏は、スマートグラスが日常に入るには、技術より先に「まず眼鏡だと感じられること」が要ると語っています。


外見はより眼鏡らしく、中身はより持ち主に寄り添うものへ。カメラで周囲の映像を取り込んで賢くなる道とは別に、持ち主が選んで渡した文脈を生かして賢くなる道があることを、Even G2は今回の更新で示しました。この道がどこまで伸びるのか、ベータ版の先に注目したいと思います。
【関連記事】
Even Realities G2発表、Metaに対抗するカメラなしスマートグラスの戦略とは
2025年11月のG2発表時の記事。カメラとスピーカーを載せない設計を、Metaとの違いとプライバシーの観点から読み解いた。
Even Realities|1億5000万ドル調達で評価額10億ドル、美団・テンセントが主導
2026年7月の資金調達の記事。カメラを削る「引き算」で評価額10億ドルに届いた同社の戦略と、主な利用者層を紹介している。
Halliday G2、カメラを外して職場利用を狙う、会議向けAIスマートグラスの設計
カメラを外し、会議での利用に照準を合わせたHalliday G2の記事。カメラなしの職場向けスマートグラスの設計を読み解いた。
Solos AirGo A6|カメラなしスマートグラスとPrivacy Kitで示す2つの答え
カメラなしのモデルとPrivacy Kitという2つの選択肢で、スマートグラスのプライバシー問題に答えたSolosの新製品の記事。
【編集部後記】
9月のブログ「Asking for less.」は、次回の記事でAI Memoryを取り上げると予告して締めくくられていました。11月2日の時点で、その続きはまだ公開されていません。
記憶の機能は、すでに利用者の手元に届いています。設計の考え方を語る文章が後から届くことになりますが、Prep Notesのときも、同社は機能の提供から約1週間後にブログで背景を説明していました。今回はどんな言葉で「覚えること」の線引きを語るのか。続きの公開を待っています。
【用語解説】
Knowledge Base(ナレッジベース)
Even G2のv2.4.0で加わったベータ版の機能。利用者が選んだ会話サポートの記録とアップロードした文書を、話題どうしのつながりで整理した個人の「ナレッジツリー」にまとめ、Even AIと会話サポートが参照する。日本のApp Storeの説明では「知識ライブラリ」と表記されている。
AI Memory
Even AIが、過去のEven AIとのやりとりの文脈を使って応答する仕組み。設定から個別にオンにする。Knowledge BaseはAI Memoryがオンのときだけ使えるが、同意は別々に取る。
会話サポート(Conversate)
対面の会話を聞き取り、レンズに要点や補足を表示するEven G2の機能。v2.4.0で、Knowledge Baseを参照するProモード(ベータ版)が加わった。
Prep Notes
会議などの前に資料をアップロードし、会話中にAIがその資料と照らし合わせる会話サポートの機能。2026年3月に提供が始まり、資料を文脈として使うのはそのセッションの間に限られる。
RAG(検索拡張生成)
Retrieval-Augmented Generationの略。AIが回答を作る前に、外部の資料から関連する部分を検索して参照する方式である。資料をAIモデルに学習させる方法とは異なる。
AIキュー
会話サポートの使用中に、会話の流れに合わせてレンズに表示される短い手がかり。関連する知識や補足などを示す。
【参考リンク】
Even Realities 公式サイト(日本)(外部)
Even G2とEven R1を手がけるEven Realitiesの日本向け公式サイト。製品の機能、価格、購入方法を掲載している。
Even G2 Brown 2 製品ページ(外部)
べっ甲柄の新色Brown 2の公式製品ページ。模様を素材全体に通した新素材と、1本ごとに20時間かける研磨の工程を紹介している。
Conversate 製品ページ(外部)
会話サポート(Conversate)の公式紹介ページ。リアルタイムの書き起こしやAIノートなど、機能の概要を説明している。
Privacy Notice for AI Personalization Features(外部)
AI MemoryとKnowledge Baseのデータの扱いを定めた公式のプライバシー通知。同意、取り込み方法、削除の手順を記す。
【参考記事】
Context without compromise.(外部)
Even Realities公式ブログ(2026年4月3日)。Prep Notesを紹介し、個人ナレッジベースを予告した。
Smart Glasses Privacy: What Even G2 Collects, and Why(Asking for less.)(外部)
Even Realities公式ブログ(2026年9月9日)。プロフィールを背景で作らない方針と、保持するデータの範囲を説明した。
Even G2グラスが大幅更新、高度なAI機能は使用量制に。会話サポートにナレッジベース追加で信頼性向上(外部)
TechnoEdge(2026年10月28日)。v2.4.0の新機能の内容と、アプリとファームウェアの更新手順を日本語で詳しく紹介している。
Major Even Realities G2 smart glasses update adds Conversate ‘Pro Mode,’ Knowledge Base(外部)
9to5Google(2026年10月26日)。Knowledge BaseとProモードの仕組みと、データ同期の流れを紹介している。
Even Realities refreshes G2 with a new look, new accessories and smarter AI(外部)
Trusted Reviews(2026年10月26日)。Brown 2とアクセサリー、v2.4.0のAI機能をまとめて伝えている。



