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アルコール摂取と認知症:ウェイクフォレスト大学の研究が明かす少量飲酒の脳への影響

アルコール摂取と認知症:ウェイクフォレスト大学の研究が明かす少量飲酒の脳への影響 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-05 07:49 by admin

ウェイクフォレスト大学医学部のAtrium Health研究者らが2023年2月に発表した研究によると、少量のアルコール摂取でさえも脳萎縮を加速させ、アルツハイマー病に関連するアミロイドプラークの蓄積を増加させることが明らかになった。この研究は『Neurobiology of Disease』誌に掲載された。

研究チームはシャノン・マコーリー博士(ウェイクフォレスト大学医学部生理学・薬理学准教授)とジェフリー・ワイナー博士(同大学医学部生理学・薬理学教授)が主導し、同大学のアルツハイマー病研究センターと翻訳アルコール研究センターを通じて行われた。

研究では、アルツハイマー病関連の病理を持つマウスモデルを使用し、10週間にわたって水かアルコールを選択できる環境を与え、人間の飲酒行動を模倣した。その結果、アルコールを摂取したマウスでは脳萎縮が加速し、アミロイドプラークの数が増加した。特に小さなプラークの数が増え、これが後年のプラーク増殖の基盤となる可能性が示唆された。

さらに、アルコールを断つと、アミロイドベータ(アミロイドプラークの主要成分)のレベルが急増することも観察された。慢性的なアルコール摂取は血糖値の上昇やインスリン抵抗性のマーカーなどの代謝障害をもたらし、これらはアルツハイマー病のリスク増加に関連している。

この研究結果は、オックスフォード大学のグウェナエル・ドゥオー教授が2024年に実施した研究とも一致している。オックスフォード大学の研究では、4万人の脳スキャンを分析し、アルコール摂取が糖尿病や交通関連の大気汚染とともに、アルツハイマー病に脆弱な特定の脳領域の変性に主要に寄与する要因の一つであることが示された。

英国のガイドラインでは、健康リスクを最小限に抑えるため、週に14ユニット(約6パイントの4%ビールまたは6杯の175mlワイン)を超えないよう推奨している。

アルツハイマー病は認知症の最も一般的な形態で、認知症症例の60%から80%を占めている。英国だけでも94万4000人以上が認知症の影響を受けている。

from:Drinking Less of This One Beverage Could Lower Your Dementia Risk – And It’s Not Coffee!

【編集部解説】

アルコールと認知症の関係について、最新の研究結果が次々と発表されています。これまで「適量なら問題ない」と考えられていたアルコール摂取ですが、最新の神経科学研究はその認識を根本から覆しつつあります。

ウェイクフォレスト大学の研究は2023年2月に『Neurobiology of Disease』誌に発表されたものですが、その後も2024年9月には英国バイオバンクのデータを用いた大規模研究が『Nature Communications』誌に発表され、遺伝的要因を考慮してもアルコール摂取量の増加が直接的に認知症リスクを高めることが示されています。これは「適度な飲酒は保護的かもしれない」という従来の考えに疑問を投げかける重要な発見です。

特に注目すべきは、アルコールが脳に与える影響のメカニズムが徐々に解明されてきている点です。2025年4月の最新研究では、アルコールの大量摂取が脳の血管壁の肥厚(硝子様小動脈硬化症)を引き起こし、これが認知機能低下の媒介要因となる可能性が示されました。また、アルツハイマー病の特徴である神経原線維変化(タウタンパク質の異常蓄積)との関連も確認されています。

日本は「飲みニケーション」という言葉があるように、社会生活にアルコールが深く根付いている文化があります。厚生労働省の2022年の調査によると、日本の成人の約57.9%が週1回以上の飲酒習慣を持っています。しかし、これらの研究結果は私たちの飲酒習慣を見直す必要性を示唆しています。

興味深いのは、オックスフォード大学の研究で週に7ユニット以上のアルコール摂取が脳内の鉄分蓄積と関連していることが示された点です。脳内の鉄分蓄積はアルツハイマー病やパーキンソン病と関連しており、アルコール関連の認知機能低下のメカニズムである可能性があります。

また、アルコールを完全に断つことが必ずしも最善ではないという研究結果もあります。アルツハイマー研究UK財団の報告によれば、アルコールを全く摂取しない人も認知症リスクが高まる傾向が見られました。ただし、これは過去に大量飲酒をしていた人が含まれている可能性があり、解釈には注意が必要です。

テクノロジーの発展により、MRIなどの高度な脳イメージング技術を用いた大規模研究が可能になり、アルコールの影響をより詳細に理解できるようになりました。英国バイオバンクの約2万人の参加者を対象とした研究では、週に7ユニット以上のアルコール摂取が脳内の鉄分蓄積と関連していることが示されています。

今後は、これらの知見を活かした認知症予防のための新たなアプローチや、アルコールの有害影響を軽減する技術の開発が期待されます。また、個人の遺伝的背景に基づいたリスク評価など、パーソナライズされた予防戦略も重要になってくるでしょう。

私たちinnovaTopiaは、これからも最新の科学的知見とテクノロジーの融合がもたらす可能性について、皆様にお伝えしていきます。健康的な生活習慣の選択に役立つ情報を提供し続けることで、読者の皆様の「未来を知りたい、触りたい、関わりたい」という欲求に応えていきたいと考えています。

【用語解説】

アミロイドプラーク
アルツハイマー病の特徴的な病理所見で、脳内に蓄積する異常なタンパク質の塊。これが神経細胞間の情報伝達を妨げ、認知機能低下を引き起こす。

脳萎縮
脳細胞が減少し、脳の体積が小さくなること。風船がしぼむように脳が小さくなり、認知機能の低下につながる。

アルコールユニット
英国で使用されるアルコール量の単位。1ユニットは純アルコール8gに相当する。日本の「単位」とは異なるので注意が必要だ。日本では純アルコール20gを1単位とすることが多い。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群
長期のアルコール乱用によるビタミンB1欠乏が原因で起こる神経障害。記憶障害や作話(記憶の欠落を作り話で埋める)などの症状が特徴的だ。

神経原線維変化
アルツハイマー病の特徴的な病理所見の一つで、タウタンパク質が異常にリン酸化され、神経細胞内に蓄積したもの。神経細胞の機能障害や細胞死を引き起こす。

【参考リンク】

ウェイクフォレスト大学医学部(外部)
米国ノースカロライナ州の医学教育・研究機関。Atrium Healthの学術的中核として機能

Atrium Health(外部)
米国ノースカロライナ州シャーロットに本拠を置く医療システム組織

アルツハイマー協会(外部)
アルツハイマー病に関する世界最大の非営利組織による最新情報提供サイト

【参考動画】

【編集部後記】

皆さんは、お酒を飲む習慣はありますか?「一杯の晩酌が脳に影響する」という研究結果は驚きですよね。でも、これは単に「お酒を絶対に飲むな」という話ではなく、私たち自身の健康と向き合うきっかけになるのではないでしょうか。脳の健康を維持するために、どんな習慣を取り入れていますか?あるいは、アルコールに代わるリラックス方法として何を実践していますか?皆さんの工夫やアイデアをぜひSNSでシェアしてください。健康的な生活習慣について一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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