Last Updated on 2025-05-10 11:01 by admin
スタンフォード医科大学の遺伝学部長マイケル・スナイダー博士率いる研究チームが、人間の加齢は緩やかではなく、44歳と60歳という2つの特定の年齢で急激な変化が起こることを明らかにした。この研究結果は2024年8月14日に科学誌「Nature Aging」に発表され、2025年5月8日に「The Daily Galaxy」で報じられた。
研究チームは108人の参加者から収集した生物学的サンプルを数年にわたって分析し、135,000以上の異なる分子と微生物における加齢関連変化を追跡した。その結果、加齢に関与する分子の81%が予測可能な時間軸に従わず、これらの2つの重要な年齢で大きな変化を遂げることが判明した。
44歳の時点では、アルコール代謝、カフェイン代謝、脂質代謝に関連する分子に顕著な変化が見られた。一方、60歳では炭水化物代謝、免疫調節、腎機能に関連する分子に重要な変化が観察された。これらの変化は心血管疾患、皮膚や筋肉の健康にも影響を与えることが示されている。
研究はまた、マイクロバイオーム(腸内細菌叢)の変化も44歳と60歳で起こり、これが人間の健康のさまざまな側面と相関していることを示している。これらの変化はアルツハイマー病や心血管疾患などの加齢関連疾患のリスク増加に寄与する可能性がある。
研究チームの一員であるシャオタオ・シェン博士(現在はシンガポールのナンヤン工科大学の助教授)は、40代の個人ではアルコール、カフェイン、脂質代謝の変化が特に顕著であると指摘している。
スナイダー博士によると、60代での劇的な変化は予想されていたが、40代半ばでの大きな変化は予想外だった。当初は女性の閉経や閉経前期が原因と考えられたが、男性でも同様の変化が見られたことから、他の重要な要因が存在する可能性が示唆されている。
研究チームは今後、これらの変化の要因をさらに探求する予定である。また、この研究結果は、特に40代と60代で健康に注意を払う必要性を示唆している。
References:
Aging Isn’t Gradual: Human Bodies Start to Break Down at Exactly These Two Ages
【編集部解説】
皆さん、今回のニュースは人間の加齢プロセスに関する驚くべき発見についてお伝えしました。スタンフォード大学のマイケル・スナイダー博士らの研究チームが2024年8月14日に科学誌「Nature Aging」で発表した研究結果は、私たちが一般的に考えている「加齢は緩やかに進行する」という常識を覆すものとなっています。
この研究の最も重要な点は、加齢が連続的なプロセスではなく、44歳と60歳という2つの特定の年齢で急激な変化が起こるという発見です。研究チームは108人の参加者から収集した生物学的サンプルを数年にわたって分析し、135,000以上の分子と微生物における変化を追跡しました。その結果、加齢に関与する分子の81%が予測可能な時間軸に従わず、これらの2つの重要な年齢で大きな変化を遂げることが判明したのです。
特に興味深いのは、この研究が単に分子レベルの変化だけでなく、マイクロバイオーム(腸内細菌叢を含む微生物群)の変化も同時に調査している点です。マイクロバイオームは近年、免疫機能や代謝、さらには脳機能にまで影響を与えることが分かってきており、加齢との関連性が注目されています。
44歳での変化については、スナイダー博士自身も予想外だったと述べています。当初は女性の閉経や閉経前期が原因と考えられましたが、男性でも同様の変化が見られたことから、他の重要な要因が存在する可能性が示唆されています。この年齢では特にアルコール代謝、カフェイン代謝、脂質代謝に関連する分子に顕著な変化が見られました。
一方、60歳での変化には、免疫調節、腎機能、炭水化物代謝に関連する分子の変化が含まれています。これらの変化はアルツハイマー病や心血管疾患などの加齢関連疾患のリスク増加と関連している可能性があります。実際、40〜59歳の人々の約6.5%が冠動脈疾患を持っているというデータもあります。
しかし、この研究にはいくつかの限界もあることを認識しておく必要があります。まず、参加者の追跡期間が最長でも約7年と比較的短く、個人が生涯を通じてこれらの変化を経験するかどうかを確実に判断することはできません。また、カロリンスカ研究所のサラ・ハッグ氏が指摘するように、これは観察研究であり、異なる人々を比較したものです。つまり、これらの変化が必ず特定の年齢で起こるという確実な証拠ではありません。
この研究結果は、私たち一人ひとりの健康管理に対する考え方に影響を与える可能性があります。特に40代と60代に入る前に、より積極的な健康管理を行うことの重要性を示唆しています。例えば、40代に入る前にライフスタイルの見直しを行い、健康的な食事習慣や適度な運動を取り入れることで、この時期の急激な変化に備えることができるかもしれません。
また、この研究は将来的な抗加齢医療や予防医学の発展にも貢献する可能性があります。加齢のメカニズムをより詳細に理解することで、特定の年齢での介入が効果的な予防戦略につながるかもしれません。
しかし、グラスゴー大学のコリン・セルマン氏が述べているように、「40歳から人生は下り坂だ」という単純な見方は正確ではありません。加齢は複雑なプロセスであり、遺伝的要因と環境的要因の両方が関わっています。スポーツを始めたり、禁煙したり、食生活を変えたりするなど、生活習慣の変化が加齢プロセスに大きな影響を与える可能性があります。
今後の研究では、より多くの参加者を対象に、より長期間にわたる追跡調査が必要とされています。また、分子レベルの変化と実際の身体機能(筋力や虚弱性など)との関連性を調査することも重要です。
この研究は、加齢に対する私たちの理解を深め、より健康的な長寿のための新たな戦略を開発する上で重要な一歩となるでしょう。innovaTopia編集部では、今後もこの分野の最新研究を追い続け、皆さまにお届けしていきます。
【用語解説】
マイクロバイオーム:
人間や動植物の体内および体表に存在する微生物(細菌、ウイルス、真菌など)の集合体のこと。腸内、皮膚、口腔、鼻腔など、体の部位ごとに異なる微生物群が存在する。これらの微生物は免疫システムの発達を助け、食べ物を消化してエネルギーを生成する役割を果たす。
マルチオミクス:
ゲノム、プロテオーム、メタボロームなど複数の「オミクス」データを統合的に分析する手法。人体の分子レベルでの変化を包括的に理解するために用いられる。
ミトコンドリア:
細胞内に存在するエネルギー生産工場のような小器官。食事でとった糖と脂肪分と、呼吸で取り込んだ酸素を使って、生命活動に必要なエネルギーを作り出す働きをする。ミトコンドリアが活発化すると、体の若々しさが保たれる。
エイジオタイプ(Ageotype):
スナイダー博士の研究チームが提唱した概念で、個人ごとに異なる加齢パターンを分類したもの。腎臓型、肝臓型、代謝型、免疫型などがある。これは体の特定の部分や機能が他よりも早く老化することを示している。
マイケル・スナイダー博士:
スタンフォード大学医学部の遺伝学部長(2009-2024年)および個別化医療センター所長。機能ゲノミクスとプロテオミクスの分野のリーダーであり、人間の健康管理のためのオミクス技術やウェアラブルデバイスの利用を先駆的に研究している。
スタンフォード大学:
アメリカ合衆国カリフォルニア州にある世界有数の名門大学。シリコンバレーの中心に位置し、特に工学、医学、ビジネスの分野で高い評価を受けている。大学基金は約360億ドル(約5兆6000億円)に達し、米国内第3位(2024年)。
シャオタオ・シェン博士:
研究チームのメンバーで、現在はシンガポールの南洋理工大学(NTU)の助教授。南洋理工大学はシンガポールの名門大学で、QS世界大学ランキング2022年版では世界12位と評価されている。
【参考リンク】
スタンフォード大学医学部(外部)
スタンフォード大学の医学部公式サイト。世界トップクラスの医学研究と教育を行う機関。
マイケル・スナイダー研究室(外部)
スナイダー博士の研究室公式サイト。オミクス技術を用いた個別化医療研究について詳しい情報がある。
Nature Aging(外部)
加齢研究に特化した科学ジャーナル。2021年1月から月刊で発行されている。
【参考リンク】
【編集部後記】
44歳と60歳が人生の転換点になるという今回の研究結果、皆さんはどう感じましたか?自分の年齢に近づいている方も、まだ先の方も、この「階段」を少しでも緩やかに下りるための準備ができるかもしれません。日々の食事や運動、睡眠の質など、今の生活習慣で見直したいことはありますか?また、ご自身の親族で40代や60代で体調の変化を感じた経験があれば、ぜひSNSでシェアしていただけると嬉しいです。