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オロプーシェウイルス、ラテンアメリカで急拡大中 – 科学者たちが警告する新たなパンデミックの可能性

オロプーシェウイルス、ラテンアメリカで急拡大中 - 科学者たちが警告する新たなパンデミックの可能性 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-05-19 23:35 by admin

ラテンアメリカで「オロプーシェウイルス」が急速に拡大している。WHOの報告によると、2024年1月から11月25日までに、ブラジル、ペルー、コロンビア、ボリビア、キューバなどで11,634例の確定症例が報告されている。

このウイルスは1955年にトリニダード・トバゴで初めて記録されたが、症状がデング熱やジカ熱と類似しているため長年誤診され、その実態は把握されていなかった。感染すると発熱、頭痛、関節・筋肉痛、悪寒、吐き気、嘔吐、皮膚の発疹などの症状が現れ、一部の患者はウイルス性髄膜炎などの重篤な合併症を発症する。

ベルリンのシャリテ大学医学部のヤン・フェリックス・ドレクスラー教授率いる研究チームが『ランセット感染症』に発表した研究によると、2001年から2022年の間に収集された9,400以上の血液サンプルの分析から、調査地域全体で約6%の人々がウイルスに曝露していたことが判明した。アマゾン地域では感染率が10%を超える地域もある。

感染拡大の主な要因は気候条件であり、エルニーニョ現象による高温多湿がウイルスを媒介する昆虫の繁殖に適した環境を作り出している。このウイルスは従来の蚊ではなく、Ceratopogonidae(ヌカカ)と呼ばれる3ミリメートル以下の小さな刺す昆虫によって媒介され、通常の蚊帳を通過できるほど小さい。

最近では、感染した若くて健康な女性2人の死亡例や、妊娠中の感染による流産や先天性奇形の事例も報告されている。現在のところワクチンや特定の治療法は存在せず、細かい網目のネット、保護服、虫除けの使用が唯一の効果的な防御策となっている。

References:
文献リンクA Little-Know Tropical Virus Is Quietly Exploding Across Latin America — Scientists See Early Signs of Another Global Pandemic

【編集部解説】

オロプーシェウイルスの急速な拡大は、私たちに新たな感染症の脅威を再認識させる事態となっています。WHOの報告によると、2024年11月時点で11,634例の確定症例が報告されている、感染地域も拡大傾向にあります。これは記録史上最大の流行となっており、科学者たちもなぜこれほど広範囲に急速に拡大しているのか、まだ完全には解明できていません。

当初アマゾン流域に限定されていたこのウイルスが、なぜ今になって急速に拡大しているのでしょうか。シャリテ大学医学部のドレクスラー教授らの研究によれば、気候変動とエルニーニョ現象が大きく関与していると考えられています。温暖化による気温上昇と湿度の増加が、ウイルスを媒介するヌカカの繁殖に理想的な環境を作り出しているのです。

特に注目すべきは、このウイルスの「隠れた」存在です。ランセット誌に掲載された研究では、2001年から2022年の間に収集された9,400以上の血液サンプルを分析した結果、調査地域全体で約6%の人々がすでにオロプーシェウイルスに曝露していたことが判明しました。アマゾン地域では感染率が10%を超える地域もあり、長年にわたり「静かに」広がっていたことが示唆されています。

妊婦への影響も懸念されています。感染した母親から生まれた新生児の小頭症の事例や、垂直感染(母親から胎児への感染)による胎児死亡の事例も確認されています。ドレクスラー教授によれば、オロプーシェウイルスはジカウイルスほど頻繁ではないものの胎児に害を与える可能性があり、胎児発達への影響についてはさらなる研究が必要です。

また、米国や欧州でも輸入症例が確認されており、グローバル化した世界での感染拡大の可能性を示しています。さらに、性的接触による感染の可能性も示唆されており、蚊やヌカカによる媒介以外の感染経路の存在が研究されています。

オロプーシェウイルスの症状は、発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛、吐き気、嘔吐、めまい、光過敏症、発疹など多岐にわたります。症状はデング熱やジカ熱、チクングニア熱などの他の蚊媒介性疾患と非常に似ているため、誤診が多く、実際の感染者数は報告されている数よりもはるかに多い可能性があります。

現在のところ、このウイルスに対する特異的な治療法やワクチンは存在せず、予防は昆虫の刺咬を避けることが中心となります。特に妊婦や妊娠を計画している女性は、感染地域への不要な旅行を避け、長袖の服の着用やDEETやイカリジンなどの虫除けの使用が推奨されています。

この状況は、気候変動が感染症の分布と拡大にどのように影響するかを示す重要な事例といえるでしょう。地球温暖化が進行するにつれ、これまで特定の地域に限定されていた感染症が新たな地域へ拡大するリスクが高まっています。

また、グローバル化した世界では、感染症の国境を越えた拡散がより速く、より広範囲に起こり得ることも示しています。国際的な協力と監視体制の強化、迅速な診断技術の開発が今後ますます重要になってくるでしょう。

【用語解説】

オロプーシェウイルス(Oropouche virus):
ブニヤウイルス目ペリブニヤウイルス科に属するRNAウイルス。1955年にトリニダード・トバゴで初めて発見された。「ナマケモノ熱」とも呼ばれるが、これはナマケモノの生息地でウイルスが見つかりやすいためであり、ナマケモノから直接感染するわけではない。

ヌカカ(Ceratopogonidae):
体長1〜3mmの小さな吸血性昆虫。通常の蚊帳を通過できるほど小さく、世界に6000種類以上が生息する。一部の種は脊椎動物から吸血し、オロポウチェウイルスなどの感染症を媒介する。

ウイルス性髄膜炎:
脳や脊髄を取り巻く保護膜(髄膜)に炎症が生じる疾患。エンテロウイルスやヘルペスウイルスなどが原因となることが多いが、オロポウチェウイルスも引き起こす可能性がある。

シャリテー – ベルリン医科大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin):
ドイツ・ベルリンにある大学病院。ヨーロッパ最大の大学病院の一つで、17の専門センターと100以上の診療科・研究所を持つ。

【参考リンク】

WHO – オロプーシェウイルス感染症ファクトシート(外部)
世界保健機関によるオロポウチェウイルス感染症の公式情報と最新の国際的な状況。

シャリテー – ベルリン医科大学(外部)
オロポウチェウイルス研究を主導するドレクスラー教授が所属する大学病院の公式サイト。

ランセット感染症ジャーナル – オロポウチェウイルス研究(外部)
ドレクスラー教授らの研究が掲載された医学ジャーナルの公式サイト。

【編集部後記】

新興感染症の拡大は、私たちの生活にどのような影響を与えるでしょうか?気候変動が進む中、これまで日本では見られなかった感染症が身近になる可能性も考えられます。海外旅行の際に気をつけるべき点や、日常生活での予防策について考えてみませんか?また、このようなウイルスの早期検出や対策にテクノロジーがどう貢献できるのか、皆さんのアイデアやご意見もぜひSNSでシェアしてみてください。未知の感染症と共存する未来に向けて、一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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