OzempicやWegovyなどのセマグルチドを含む減量薬が口腔と歯に持続的なダメージを与える可能性があることが報告された。セマグルチドは唾液腺に影響し、唾液分泌不全による口腔乾燥症を引き起こす。

動物実験では唾液の粘着性が増加することが示唆されており、GLP-1受容体作動薬が脳の渇き中枢に作用して水分摂取量を減少させることも判明している。唾液減少により、ストレプトコッカス・ミュータンス、ラクトバチルス、ポルフィロモナス・ジンジバリスなどの細菌が繁殖し、揮発性硫黄化合物を産生して口臭を引き起こす。また、セマグルチドの副作用である嘔吐により、塩酸を主成分とする胃酸が歯のエナメル質を侵食し、特に舌側の口蓋面にダメージが生じる。

GLP-1受容体作動薬を服用することで、女性は嘔吐などの消化器症状の副作用を起こす可能性が男性の2倍高くなる。これはエストロゲンとプロゲステロンが腸の感受性を変化させるためとされる。
これらの予防策として1日6から8杯の水分摂取、シュガーフリーガムの咀嚼、プロバイオティクス摂取が推奨される。

これらの副作用はどの程度の期間継続するか、まだ明らかになっていない。ほとんどの副作用は服用を中止することで消失する可能性が高いが、歯へのダメージは永久に残るものである。

From: Weight-Loss Drugs Like Ozempic Can Leave Lasting Damage in Your Mouth

【編集部解説】

今回のニュースは、GLP-1受容体作動薬という新世代の減量薬が持つ予期せぬ副作用に光を当てた重要な報告です。セマグルチドは元々糖尿病治療薬として開発されましたが、その強力な食欲抑制効果により減量薬として注目を集めています。

この副作用は「Ozempic teeth」という新しい用語として認識され始めており、医療現場での注意喚起が急務となっています。

メカニズムの科学的背景

セマグルチドが唾液腺に与える影響は、GLP-1受容体が全身に分布していることに起因します。従来の減量薬とは異なり、この薬剤は腸管ホルモンを模倣して作用するため、消化器系全体に広範囲な影響を及ぼします。

唾液分泌の減少は単なる不快感にとどまりません。唾液には抗菌作用、pH調整機能、歯の再石灰化促進など、口腔環境を維持する重要な役割があります。この自然な防御機構が損なわれることで、細菌叢のバランスが崩れ、病原性細菌が優勢になってしまうのです。

性差による影響の違い

興味深いのは、女性が男性の2倍の確率で副作用を経験するという報告です。これはエストロゲンとプロゲステロンが腸の感受性に影響を与えるためとされており、ホルモンバランスと薬物反応の関連性を示す重要な知見といえます。

長期的な健康への影響

最も深刻な問題は、歯のエナメル質の損傷が不可逆的である点です。一時的な副作用とは異なり、一度失われたエナメル質は自然には再生されません。これは患者にとって生涯にわたる健康問題となる可能性があります。

医療現場での対応

現在、多くの医療従事者がこの副作用について十分な認識を持っていない可能性があります。処方時の説明や定期的な口腔チェックの重要性が高まっており、医科と歯科の連携強化が求められています。

技術革新への示唆

この事例は、革新的な医薬品開発において予期せぬ副作用の監視体制の重要性を浮き彫りにしています。特にGLP-1受容体作動薬のような全身作用型の薬剤では、従来想定されていなかった器官への影響も考慮する必要があります。

将来への展望

製薬業界では、より選択的な作用を持つ次世代GLP-1作動薬の開発が進んでいます。今回の知見は、そうした新薬開発において口腔への影響を事前に評価する重要性を示しており、より安全な治療選択肢の実現に向けた貴重なデータとなるでしょう。

【用語解説】

GLP-1受容体作動薬
グルカゴン様ペプチド-1受容体に作用する薬剤の総称。血糖値調整、食欲抑制、胃排出遅延などの効果を持つ。糖尿病治療薬として開発されたが、減量効果も認められている。

セマグルチド
GLP-1受容体作動薬の有効成分。週1回の注射または経口投与により、インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制などの作用を示す。

口腔乾燥症（ドライマウス）
唾液分泌量の減少により口の中が乾燥する状態。抗菌作用の低下、pH調整機能の低下により虫歯や歯周病のリスクが増加する。

唾液分泌不全（hyposalivation）
正常な唾液分泌量を下回る状態。成人の正常な唾液分泌量は1日1〜1.5リットルとされる。

揮発性硫黄化合物（VSC）
口臭の主要原因物質。細菌が口腔内のタンパク質を分解する際に産生される硫黄を含む化合物。

歯膜（dental pellicle）
唾液が歯の表面に形成する薄い保護層。細菌の付着を防ぎ、酸による歯の溶解を防ぐ役割を持つ。

ムチン
唾液に含まれる粘液成分。歯への唾液の付着を助け、口腔内の保護機能を担う。

【参考リンク】

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社（外部）
セマグルチド製剤（オゼンピック、リベルサス、ウゴービ）の製造販売元

日本口腔外科学会（外部）
口腔疾患の診断・治療に関する専門的情報を提供する学会

日本糖尿病学会（外部）
糖尿病治療薬としてのGLP-1受容体作動薬に関する最新の治療指針

【参考動画】

【参考記事】

‘Ozempic Teeth’: GLP-1 Drugs May Cause Tooth Decay, Experts Say（外部）
歯科専門医による「Ozempic teeth」現象の詳細な医学的解説

Here’s what Ozempic and Wegovy are really doing to your mouth（外部）
OzempicとWegovyが口腔に与える実際の影響について詳述

Tooth erosion and reconstruction: the impact of Ozempic（外部）
Ozempicによる歯の侵食と再建治療について専門医が解説

‘Ozempic mouth’: what do dental professionals need to know?（外部）
歯科専門家向けの「Ozempic mouth」に関する臨床ガイダンス

‘Ozempic Teeth,’ ‘Tongue,’ ‘Breath’ As Possible GLP-1 Med Oral Effects（外部）
GLP-1薬による口腔への包括的な影響について科学的根拠を検証

【編集部後記】

減量薬の副作用として口腔への影響が注目されています。口腔、特に歯は一生付き合っていくものとして、最近では治療だけでなく予防の観点からも定期的に病院にかかることを推奨されていたりしますよね。

皆さんもこの機会に唾液の重要性や口腔環境について一緒に考えてみませんか？また、皆さんは普段どのような口腔ケアを心がけていますか？ぜひSNSでその方法をシェアしてみてください。

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