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メチレンブルーが脳機能向上サプリとして話題に 科学的根拠と深刻なリスクを専門家が解説

メチレンブルーが脳機能向上サプリとして話題に 科学的根拠と深刻なリスクを専門家が解説 - innovaTopia - (イノベトピア)

近年、メチレンブルーは健康補助食品として、認知機能を高めるとインターネット上で宣伝されるようになった。しかし、今のところその健康効果を裏付ける証拠は乏しく、医療行為以外でこの物質を使用すると深刻なリスクが伴うとされる。

メチレンブルーは1876年にドイツの化学会社BASFで繊維染料として初めて合成された合成染料で、水に溶解すると深い青色になる。これはドイツの医師パウル・エールリッヒがマラリア寄生虫を殺す能力を発見し、医学で使用された最初の合成薬物の一つとなった。現在医療ではメトヘモグロビン血症の治療、一酸化炭素中毒や敗血症性ショックの治療、外科用染料として使用している。

近年、オンラインでこのメチレンブルーがヌートロピック薬剤として宣伝され、ポッドキャスターのジョー・ローガンやロバート・F・ケネディ・ジュニアが動画で青い液体を注ぐ姿が話題となった。その背景には、メチレンブルーが細胞のエネルギー産生工場であるミトコンドリアの電子伝達系をサポートし、脳細胞のエネルギー効率を高めるという作用機序がある。

この科学的根拠として、テキサス大学のティモシー・ドゥオン氏らによる26人を対象とした研究が引用される。この研究では単回低用量投与で記憶が約7パーセント向上し、島皮質や前頭前皮質などの脳活動が増加したとある。しかし人間での臨床試験はまだ少数で、その結果も混合的である。セロトニン症候群やG6PD欠損症患者での赤血球破壊などの深刻なリスクがあり、抗うつ薬との併用は危険とされる。

2025年現在、効果や適切な用量、長期安全性を確認するためのより大規模で長期間の試験が必要な状況である。

From: 文献リンクCan This Blue Chemical Really Boost Your Brain? Here’s What We Know.

【編集部解説】

メチレンブルーをめぐる現在の状況は、まさに現代のバイオハッキング文化と科学的エビデンスの狭間で起きている典型的な現象と言えるでしょう。日本国内でも東海渡井クリニックなどの医療機関が認知症治療への応用を検討しており、医療現場での関心も高まっています。

特に注目すべきは、この化学物質が持つミトコンドリア機能向上という作用メカニズムです。従来の刺激剤とは異なり、細胞レベルでのエネルギー産生を根本的に改善する可能性があります。テキサス大学のティモシー・ドゥオン氏らの研究では、fMRIを用いた初の人間での脳機能解析により、島皮質、前頭前皮質、頭頂葉、後頭皮質の活動が向上することが確認されました。

しかし、現在の科学的エビデンスには明確な限界があることも事実です。人間を対象とした臨床試験は極めて少数で、最も引用される26人の小規模研究でも記憶力向上は7%程度にとどまっています。一方、動物実験では顕著な効果が報告されており、この「トランスレーショナルギャップ」が現在の議論を複雑にしています。

セロトニン症候群のリスクは特に深刻な懸念材料です。メチレンブルーがモノアミン酸化酵素を阻害することで、抗うつ薬との併用により幻覚、発熱、筋肉のけいれんを伴う危険な状態が発生する可能性があります。また、G6PD欠損症患者では赤血球の急速な破壊が起こる危険性もあります。

規制面では、現在メチレンブルーは医薬品としての承認を受けていない状況でサプリメントとして販売されており、品質管理や用量の標準化が課題となっています。バイオハッカーのブライアン・ジョンソンやデイブ・アスプリーなどの著名人が使用を公言していることで、一般への普及が加速している状況です。

長期的な視点で見ると、メチレンブルーは精密医療の文脈で重要な意味を持つ可能性があります。個人の遺伝的背景や既存の薬物治療との相互作用を考慮した個別化された治療アプローチが必要になるでしょう。

この事例は、ソーシャルメディア時代における科学情報の伝播と、それに伴うリスクを象徴的に示しています。今後は、より厳格な臨床試験データの蓄積と、適切な規制フレームワークの構築が急務となるでしょう。

【用語解説】

メチレンブルー
1876年にドイツのBASFで開発された合成染料。水に溶解すると深い青色になり、電子を交換する能力を持つ。医学では血液疾患の治療や外科手術の染色に使用される。

ヌートロピック薬剤
認知機能を向上させる目的で使用される物質の総称。記憶力、集中力、学習能力などの脳機能を高めるとされるが、多くは科学的根拠が不十分である。

メトヘモグロビン血症
血液中のヘモグロビンが酸素を運搬できない形(メトヘモグロビン)に変化する疾患。チアノーゼを引き起こし、重篤な場合は生命に関わる。

セロトニン症候群
セロトニン濃度が異常に高くなることで発症する危険な状態。興奮、混乱、高熱、頻脈、筋肉の硬直などの症状が現れ、重篤な場合は死に至る可能性がある。

G6PD欠損症
グルコース6リン酸脱水素酵素が不足する遺伝的疾患。特定の薬物や食物により赤血球が破壊され、溶血性貧血を引き起こす。メチレンブルー使用時の重要な禁忌事項。

島皮質
脳の深部にある領域で、感情の処理や身体感覚の統合に関与する。メチレンブルーの投与により活動が増加することが確認されている。

文脈記憶
ある記憶とその背景を意識的に思い出すタイプの記憶。歌や臭いがきっかけとなって思い出される記憶のことを指す。

fMRI(機能的磁気共鳴画像法)
脳の活動をリアルタイムで観察できる非侵襲的な画像診断技術。血流の変化を通じて脳の活動部位を特定する。

【参考リンク】

東海渡井クリニック – メチレンブルー治療(外部)
愛知県の医療機関で、メチレンブルーを用いた認知症治療や精神安定効果について研究・実践を行っている。

BASF公式サイト(外部)
ドイツの総合化学会社。メチレンブルーを1876年に初めて合成した企業として知られる。

記憶力サポートサプリのおすすめ人気ランキング(外部)
薬剤師による記憶力サプリの選び方と医薬品との併用注意について詳しく解説。

【参考動画】

【参考記事】

認知症、アルツハイマー病に有効なメチレンブルー療法(外部)
東海渡井クリニックによる26人対象の臨床試験について詳細解説。fMRIを用いた脳機能解析の結果と効果を報告。

メチレンブルー:億万長者やTikTokスターを魅了する合法の「脳薬」(外部)
ブライアン・ジョンソンやデイブ・アスプリーなど著名バイオハッカーの使用状況とRFKジュニア動画の社会現象について解説。

医薬品安全性情報Vol.09 No.24 – 国立医薬品食品衛生研究所(外部)
メチレンブルーと抗うつ薬の併用によるセロトニン症候群のリスクについて詳細な医学的見解を提供。

【編集部後記】

メチレンブルーの事例は、私たちが日々直面する「科学的根拠と体感的効果」のギャップを象徴的に表していませんか?国内でも医療機関での研究が進む一方で、バイオハッカーたちの間では既に実践が広がっています。SNSで話題の健康法や認知機能向上法に出会ったとき、皆さんはどのような判断基準をお持ちでしょうか?今回の記事を読んで、ご自身の情報収集や健康管理のアプローチについて改めて考える機会になれば幸いです。

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TaTsu
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