普段身につけるベルトが、あなたの呼吸と心拍を静かに見守っている――そんな未来が、CES 2026で現実のものとなる。インナーダウンブランド「TAION」を展開する名古屋のD.O.N社が、世界初のベルト型センシングウェアラブルデバイス「VITAL BELT」を発表した。
株式会社D.O.N(本社:名古屋)は2026年1月1日、世界初の腹部ベルト型センシングウェアラブルデバイス「VITAL BELT」を発表した。同社はインナーダウン専門ブランドTAIONを展開している。VITAL BELTはCES 2026(ラスベガス)で発表される。
ミリ波センシング技術を採用し、皮膚との直接接触なしに衣服の上から呼吸、脈拍、体動を測定できる非侵襲型デバイスである。ベルト位置でミリ波センシングを行うのは世界初で、ベルト位置でのバイタルセンサー装着方法について複数の特許を取得している。
構造はバックルユニットとベルトセクションが分離しており、ネオジム磁石を活用した装着システムを採用する。日本国内では原理試作サンプルを公開し、企業から問い合わせを受けている。今後はOEMパートナー向けテスト販売や法人向け従業員健康モニタリングアプリケーションの開発を予定している。
From:
The World’s First Belt-Type Sensing Wearable Device
【編集部解説】
名古屋に本社を置くD.O.N社は、インナーダウンブランド「TAION」で知られるアパレルメーカーです。2016年に「ユニクロ」が独占していたインナーダウン市場に参入し、年間30万枚を販売する成功を収めてきました。そのアパレル企業が、なぜヘルステック分野に挑むのでしょうか。
その答えは「衣服そのものが身体を見守る」という発想の転換にあります。VITAL BELTの最大の革新性は、ミリ波センシング技術をベルトという日常的なアイテムに組み込んだ点です。従来のスマートウォッチやスマートリングは皮膚との直接接触が必要でしたが、この技術は衣服の上からでも呼吸、脈拍、体動を測定できます。
ミリ波レーダーを用いたバイタルサイン検出は、学術研究でも注目されている分野です。2024年の研究では、推定心拍数と参照心拍数の誤差率が1.69%〜2.61%という高精度を実現しており、非接触型モニタリング技術としての信頼性が証明されつつあります。
腹部という位置にセンサーを配置する意義も見逃せません。呼吸パターンの変化やストレスの初期兆候、姿勢の不均衡といった微細な変化を捉えやすく、将来的には胎児の活動観察や腸の状態モニタリングにも応用できる可能性があります。脳腸相関に基づくコンディショニングや、深部体温を上昇させる周波数アプローチによる細胞活性化など、医療とウェルネスの両分野への展開が期待されています。
ただし、課題も存在します。プレスリリースでは「通信方法やノイズ処理など、課題は残っている」と明記されており、実用化に向けてはさらなる技術開発が必要です。また、価格は30,000円〜50,000円、発売予定は2027年とされており、現時点ではコンセプトモデルの段階にあります。
ウェアラブルデバイス市場では、プライバシーとデータセキュリティも重要な論点となります。継続的な生体データの収集と管理について、どのようなガバナンス体制を構築するかが問われるでしょう。さらに、医療機器としての認可を目指すのか、それとも一般消費者向けのウェルネス製品に留まるのかによって、規制対応も大きく変わってきます。
CES 2026での発表は、アパレルとテクノロジーの融合という新しい価値提案の第一歩に過ぎません。「未来を知りたい、触りたい、関わりたい」と願う私たち読者にとって、衣服が健康の見守り役となる時代の到来は、確実に近づいています。
【用語解説】
ミリ波センシング技術
30GHz〜300GHzの周波数帯を使用する非接触型センシング技術である。電波を照射して反射波を分析することで、物体の動きや距離を検出する。医療分野では呼吸や心拍などのバイタルサインを、皮膚に触れることなく測定できる利点がある。
非侵襲型
身体を傷つけたり、体内に器具を挿入したりせずに測定や治療を行う方式のことである。ウェアラブルデバイスの文脈では、皮膚との直接接触を必要としない測定方法を指す。
バイタルサイン
生命の基本的な兆候を示す医学用語である。具体的には呼吸、脈拍(心拍数)、血圧、体温などを指し、健康状態の評価に用いられる。
OEM
Original Equipment Manufacturerの略で、他社ブランドの製品を製造する事業形態である。D.O.N社はアパレルのOEMメーカーとして創業し、その後自社ブランドTAIONを立ち上げた。
脳腸相関
脳と腸が相互に影響を及ぼし合う関係性を指す。腸は「第二の脳」とも呼ばれ、腸内環境が精神状態やストレス、免疫機能に影響を与えることが研究で明らかになっている。
ネオジム磁石
ネオジム、鉄、ホウ素を主成分とする永久磁石で、現存する磁石の中で最も強力な磁力を持つ。VITAL BELTでは、バックルの着脱を容易にする装着システムに採用されている。
【参考リンク】
VITAL BELT公式サイト(外部)
世界初のベルト型センシングウェアラブルデバイスの公式サイト。製品コンセプトやミリ波センシング技術の詳細を英語と日本語で紹介している。
TAION(タイオン)インナーダウン公式ブランドサイト(外部)
株式会社D.O.Nが展開するインナーダウン専業ブランドTAIONの公式通販サイト。年間30万枚を販売する人気ブランドである。
CES 2026 公式情報(外部)
世界最大規模の家電見本市CESの公式サイト。2026年は1月6日〜9日にラスベガスで開催され、VITAL BELTもここで発表される。
【参考記事】
A high precision vital signs detection method based on millimeter wave radar(外部)
ミリ波レーダーを用いた高精度バイタルサイン検出手法の研究論文。推定心拍数の誤差率1.69%〜2.61%の高精度を実現した。
Detection of vital signs based on millimeter wave radar(外部)
米国国立衛生研究所のPMCに収録された論文。ミリ波レーダーによるバイタルサイン検出技術を医学的観点から検証している。
Vital Signs Monitoring using mmWave Technology(外部)
ミリ波技術を用いたバイタルサイン監視について技術的な仕組みと実用化の可能性を解説。医療とウェルネス分野への応用事例を紹介。
【編集部後記】
ベルトが健康を見守る時代が来ようとしています。スマートウォッチやスマートリングが当たり前になった今、次はどんなウェアラブルが私たちの生活に溶け込んでいくのでしょうか。衣服そのものがセンサーになる未来は、便利さと引き換えに何を求めるのか。
みなさんなら、どこまで身体のデータを預けられますか。日常に溶け込むテクノロジーだからこそ、使う側の意識や選択が問われる時代になっていくのかもしれません。アパレルとテクノロジーの融合が描く未来について、ぜひみなさんの考えも聞かせてください。
































